海みたいな

あのひとの髪に青みがあった時期
しばらく眺めているうちになぜか
海を見ているような感覚になった

ランジェリーショップで
下着を試着してみたとき
前触れもなくただ自然と
あのひとを思い浮かべた
思い切って試した下着の
海みたいな色のせいかも

もしかしたらこの海みたいな色を
海みたいな色の髪したあのひとに
見せるときがあるのかもしれない
やましい気持ちは全く無くてただ
なんとなくそんな気がしたような

結局それを買わないという選択肢はなくて
海みたいな色の下着を抱えていると思うと
体のそばに海を置いているような気がした
だけど海を身にまとうのはまだ今じゃなく
そのときがいつかはまだ見えていない感じ

タグを切ってきれいに畳みなおして
装飾を痛めないように慎重に包んで
クローゼットの安全な場所に置いた
出番はまだ今じゃないように思えて
そのときまでは取っておくつもりだ

あのひとの髪に青みが無いときも
いつも醸し出す雰囲気からなぜか
海の側に居るような気がしていた

もしかするとあのひとの腕の中までも
海の中のようなのかもしれない とか

一生それを使わないという選択肢はなくて
ふと顔を上げたとき自分に向けられていた
彼の目の奥に海の深さがあるように感じた
だけど海を身にまとうのはまだ今じゃなく
そのときがいつかはまだ見えていない感じ