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乙女座新月の詩

〔プロローグ〕
焚き火を絶やさないように
薪を焚べ続け
最後の一本を放り込んだ
火を絶やさぬように
仕方なく髪を
次いで脚を、
腹を、腕を、頭を
最後に、心を焚べた
僕はいつの間にか灰になった

歓迎してくれたミミズは
自分のことを女神の使者だと
誇らしげに挨拶した
色とりどりの星が輝く
ここは本当に土の中?

社交家のミミズは言う
これから、長い旅が、始まる。よっ♪
再会は、光の方へ
種を見つけたら
しっかり根が張れるように
土をふかふかにしてね
雪解け水が染み込んでくるのを待って
時が来たら、種に願いを込めるの
「目指すヒカリの先で、また、会えますように」



ト書き:新月の夜、暗闇に隠れて踊る、太陽と月
    真面目な乙女とアルケミスト
    燃え尽きた焚き火を見つめている


「きっとできると思ったの」
「やる気だけじゃ世界はびくともしなかった」


ト書き:種が着地する地面を探して浮遊している


「燃え尽きた焚き火の中から、夢見たものが現れるような気がしてた」
「残ったのは、草木灰」


ト書き:真面目な乙女は草木灰を土に鋤き込む


「とりあえず目の前のことをやる」
「意味は?」
「物事には順序がある」
「灰を作るために燃やしたっていうの?」
「燃えることができたから、今、灰がある」
「望んだものではない」
「これがあれば豊かな土壌が作れる」
「早く会いたいというのに」
「わたしたちは一歩進んだから、次の一歩を踏めるんだ」
「やる気だけじゃ世界はびくともしなかった」
「まずは根付かせるための、土壌作り」
「でも、無駄じゃなかった」
「春になったら芽吹き出す」
「そうしたら、また会える」


ト書き:言葉をやめたら
    口からは海が溢れ
    毛穴からは木々が芽吹き始める
    僕らは風に乗って、どこへだっていけそうだ
 

   
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大地と農業の女神デメテル
娘のペルセポネが冥界へ行ってしまう冬の間
草木は枯れ、作物は実らない。
春になって、また再開できる日まで。


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