児童館のおと-あそびを生み出す-
ひのりす君が所属する「ひの社会教育センター」では、東京都日野市から受託を受けて児童館の運営をしています。今日は、児童館の現場からお届けします。
2020年1月16日、「新型コロナウィルス(COVID-19)」の感染者が日本国内で初めて確認された。
同月28日には国内での感染が確認され、その後急激な速さで広まっていった。「外出自粛要請」や「緊急事態宣言」等あらゆる対策も講じられたが、現在も収束の気配が見られない。マスクの着用、人との接触の回避…これら臨時の対応は、今や新しい日常となった。児童館においても、様々なことが変更を余儀なくされている。
その中でも、最も日常の様子が変わったのが2020年3月2日からの「全国小中高の臨時休校」および同年4月7日からの「緊急事態宣言」の期間である。この間、都内の8割の児童館が休館する中、私たち日野市の児童館は開館を続けていた。そのときのみなみだいら児童館の様子と、改めて我々職員が気付かされたことを紹介したい。
児童館運営にとっても未曽有の事態
まず、開館といっても条件付きの開館である。臨時休校中や緊急事態宣言中は在宅が基本となるため、児童館を利用できるのは「原則保護者が不在で、健康状態に問題がない子ども」のみとなった。これにあてはまる子どもの多くは学童クラブを利用することになるのだが、本人や家庭の事情によっては児童館で過ごすことを希望する場合がある。結果、3月からは10名程の固定されたメンバーが毎日4~5名ずつ利用する状態となった。
「毎日同じ少数メンバーで約8時間」これは児童館にとって未曽有の事態だった。最初は子どもたちも、広い館内でいつでも自分のしたいあそびができることの楽しみがあったようだ。好きな遊具も使い放題、児童館全部を使って鬼ごっこもできる。しかし、3日もすると飽きがきた。おもちゃはあそび尽くしてしまい、大人数でのあそびはできない、いるのは決まった数人の子どもと職員(出勤者を絞っていたので職員も少数固定)という状況。次第に「ひま~」という声が増えていった。職員も慣れないコロナ対策をしながらの業務となり、心的余裕が少なかったように思われる。
コロナ渦の児童館で気づく、遊びの原点
4月に入ったある日の昼下がり、何か新しいあそびを展開できないかと思った私は、体育室の壁にペットボトルを貼り付けて、いわゆる「ピタゴラ装置」を作った。上から順々にビー玉が転がり落ち、最後は紙コップに入るという単純なものだ。すると、一人の小4男子が興味を示し、その装置であそび始めた。それから2人で様々な素材を組み込んで改造を施し、夕方その子が帰るころには大作になっていた。なかなかの出来で「そのまま保存できたらな~」と思った。そして気付いた、「…いや、できるじゃん」。
平常時ならば不特定多数が走り回りボールが飛び交う体育室において、そんな大がかりなピタゴラ装置を作り、翌日まで保存しておくことはできない。また、次の日の朝には乳幼児が体育室でもあそぶため、ビー玉をバラまくこともできない。しかし、今ならできる。
それから臨時休校が明けるまでの約1ヵ月間、その小4男子は毎日ひたすらピタゴラ装置を作り続けた。お菓子の箱を切りレールとして貼り付けるも、上手く固定できずに崩れてしまったり、いざビー玉を転がしてみると全然違う方向に転がり落ちてしまったり…と、思い通りにならないことづくしだった。それでも彼は、投げ出すことなく挑戦し続けた。なぜならそれは「自分のやりたいこと」だから。誰かから与えられたわけでも、やらされているわけでもない。これは「あそび」の原点である。
彼は今回、イメージを具現化することの難しさを学び、自分で考えて成功したときの達成感を味わった。これは、彼にとって立派な体験学習となったに違いない。また、それを見たまわりの子どもたちも自ら、段ボールなどで体育室に少しずつ秘密基地を作っていた。「昨日の続きができる」ということが、継続性を持った主体的なあそびを生み出すことになったのだ。できないことだらけのコロナ禍において、できることを探して楽しんでいく。私たち職員にとって、それに気づくきっかけとなった出来事だった。
2021年2月現在、東京都に2度目の緊急事態宣言が発令されている。社会全体として1度目の緊急事態宣言のような緊迫感はないが、確実に新型コロナウィルスは蔓延している状況だ。児童館の利用条件も「滞在時間を短くする」ということにとどまっているが、感染拡大防止のため児童館活動はまだまだ制限しなければならないことが多い。例えば、人生ゲームはプレイヤーが密集するからできない。マスクをしながらのサッカーは息苦しくてできない。しかし、そんな状況をある意味逆手にとって、あそびをうみだすのが児童館職員の専門性である。人生ゲームは密集しないよう、体育館に大きなマスを作って自分がコマになればいい。そのマスも、こどもたちと一緒にオリジナルのものを作れば更に楽しいだろう。サッカーは、走り回らず人との距離をとるならば「リアルサッカー盤」として新しいあそびになるかもしれない。
いつだって発想の転換は大切である。コロナ禍においても開館している以上は「今でもできること」「今だからできること」を模索して、楽しむことを忘れずに日々の運営にあたりたい。
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