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木製品のファブレスメーカーを目指すあなたへ。

ひとつの会社に定年まで勤める終身雇用制がほぼ無くなった今、転職や起業は、多くの社会人が抱えるテーマになりました。

コロナ以降、独立して事業を立ち上げたり、ダブルワークを検討している方が多くなったように感じています。なぜかと言うと、最近「モノ作りについてのお問い合せ」が増えたからです。

製造業のわが社に問い合わせがあるのは、ファブレスメーカーが新しい経営スタイルとして注目されていることもあると思います。

でもちょっと待って?
あなたの持っているプランやスキルでの商品開発は、本当に大丈夫ですか?

木工専門の工場を持ち、30年以上、毎日現場であらゆる木工製品を作っている立場から、家具や木工製品のファブレス経営を考えている方に、今、感じている事をお伝えします。

1. ファブレスメーカーとは?

ファブレスメーカーとは、生産を行う工場などの施設を自社で持たない生産者のことです。その代表的な企業といえばアップル。日本でも、ユニクロ、無印良品、任天堂など、名だたる有名企業がファブレス経営で成功しています。

個人でも、ファブレス経営で成功している方はたくさんいます。自分のブランドを作りたいとか、独立して起業した時の選択肢として、設備投資のいらないファブレス経営を考えることは、自然でしょう。

わが社ではここ数年、パソコンで検索したとか、展示会会場で「OEM製作承ります」という案内を見たという理由で、自分がプランニングした家具や木工製品を販売したいと考えている方からの、製造に関するお問い合せが増えました。

2. 情報が無ければ判断できません。

しかし、製作の問い合わせや依頼があっても、そのほとんどはお断りしています。なぜなら、その話自体が捉え所の無いものだからです。

いちばん多くていちばん困るものが、「御社では、製作を頼むと作ってもらえますか?」というもの。どこの誰かもわからず、その他の情報は一切なく、メールでただそれだけを問い合わせてくる方は、想像以上にたくさんいます。

何を作るのか?
数量は?
商品化を考えているのか?
クオリティーは?

おおよそこれくらいの情報が無いと、製作が現実的かどうかの判断が難しいのに、ただ「頼んだら作ってもらえるか?」とだけ聞かれても答えられません。出来るか出来ないかはモノによるので、何だかわからない質問には、その時点でお断りしています。

2. 例え話には、答えられません。

では、ここであなたに質問です。

「例えば、料理を作ってくださいとお願いしたら、作ってもらえますか?」

さて、何と答えますか?

(ランチやディナーを1食だけということかな?)
(お店の厨房をお願いしたいと言ってるのかな?)
(和食?中華?フレンチ?イタリアン?スイーツ?ジャンルはあるのかな?)

どうでしょう?「例えば」で始まる意図がわからない質問は、答えに困りませんか?実は、こういう類の質問は、展示会会場でとても多いものです。

「例えば、箱とかって、お願いしたら作ってもらえますか?」

これは、よくある質問のひとつです。こちらにしてみたら、壁面収納や食器棚などの家具も箱、小物入れだって箱です。箱の世界は限りなく広いのに、あなたの求める箱が何なのかわからなければ、返事のしようがありません。

自分の具体的なプランを説明せず、例え話で探りを入れる方は、デザイナーに多く見受けられます。おおむね、自分のプランを話すと、ネタをパクられると思っているのでしょう。でも、こちらは、人のネタをパクるようなことはしません。なぜなら、守秘義務を守れなければ、OEMメーカー失格だからです。

展示会会場には、わが社の製品が並べてあるわけですから、どういうものを作っているかは一目瞭然です。それでも自分の手の内を見せず、例え話だけで話す方とは一緒にお仕事をしていく自信がないので、お断りしています。

3. 「作り方は、そちらで考えてください。」は、NG。

木工の要は、合理的な構造と製法です。どんなに面白いアイデアでも、無理な構造では作れませんし、手が込み過ぎる作り方は、量産が難しくなります。合理的な構造とは、言うなれば体幹がしっかりした体のようなもの、表面的な意匠は、その上に着る洋服のようなものです。つまり木製品のデザインとは、合理的な構造と意匠を含む、すべてのことを指すのです。

でも近年、基本を知らないデザイナーが多くなりました。スケッチや図面だけしか描いたことがないので、構造や製法には、驚くほど無知なのです。そういう方は、自分で考えるのは表面的な意匠だけで、「木のことはわからないので、勉強させてください。」とか、「作り方はわからないので、そちらで考えてください。」と言います。

もう一度言いますが、木工製品のデザインとは、構造あっての話です。その、いちばん大事なところを人に任せる時点で、依頼してきた方のデザインではないと思っています。我が社は、人のデザインをアシストしなければならない仕事は断っています。

でも、もちろん例外はあります。それは、クライアントの考えるイメージに合わせて、わが社が作り方やデザインまで含めて提案・製作することで、双方にメリットがある時です。異業種などには、相手にノウハウが無ければこちらから提案することが多くあります。特定のお店に対して、新商品を提案することもあります。でもこれは、お互いの信頼関係があってこその話です。言い変えれば、はじめての方に、作り方まで提案することはありません。

4. 一つ作るのと、量産するのとは、全く違う話。

自作のプロトタイプの写真を持って来て、「これを量産したいのですが、作ってもらえますか?」と聞かれることがあります。

量産とは、工場にある機械で、その加工が出来るか?という点が重要です。自分たちで商品開発する時は、自社の機械で出来る加工を踏まえて考えるので問題無いのですが、加工機械を全く無視したデザインとなると、量産に向かないものが多い印象です。

一つ作るのと、量産するのとでは、スポーツで言えば、種目が違うようなものです。

プロトタイプを一つ作るのは100m走、量産はマラソンです。100m走は、その間だけ全力で走れば良いのですから、たとえ時間がかかっても、ほぼみんながゴールできます。でも、マラソンとなると、誰でも完走できるものではありません。

プロトタイプが出来たから量産出来ると考えるのは、危険な話なのです。

5. 責任について。

製造物責任法(PL法)を知っていますか?

PL法とは、製造物の欠陥により損害が生じた場合の製造業者等の損害賠償責任について定めた法規のこと

製造が外注の協力工場であっても、自分たちが設計したり、自分たちで販売するものには、責任がついてきます。製品に欠陥があることで、けがをしたり、損害が発生したら、賠償責任が発生します。

ですから製造業社は、万が一に備えて保険に入ります。我が社もPL保険に入っています。

もし、ファブレスメーカーとして事業をするのであれば、保険に入るなど、商品に対して責任を取れる準備をしなければならないのです。

6. 終わりのないマラソンを走るために。

ファブレスメーカーと協力工場は、チームです。しかし、同じ方向に向かっているつもりでも、互いの主張が食い違うことは、起こるでしょう。

そういう時、自分の主張を押し通してばかりでは、お互いが疲弊し、やがて開発は頓挫してしまいます。

もしトラブルが起きたら、冷静になって相手の立場で考えられる関係が大切です。チームで商品開発をするためには、お互いに対する信頼無しでは成立しません。

商品開発には、年単位の時間がかることは珍しくありません。
※詳しくは、下のリンク記事をご覧ください。

どれだけ時間をかけて開発しても、売れて利益が出るとは限りません。そして、利益が出る商品にならなければ、お金が消えていくだけです。

それでも、新しいマーケットを作る試みは、苦労が多い分、魅力的で楽しいチャレンジであることは、間違いありません。

もし、あなたがファブレスメーカーとして新しいチャレンジを考えているのであれば、協力工場を探す時、遠回しな物言いはしないで、はっきりと自分の意思を伝えてください。

実は、一緒にモノづくりをするかどうかは、第一印象で決まることも少なくありません。誠意がある人には、力になりたいと思うものです。ここで書いてあることと矛盾するのですが、この人(会社)と一緒に何かを作っていきたいと思わせる出会いには、すでに損得勘定など無いのです。

わが社は小さな製造業ですが、これまでの経験から、今感じている事をここに書きました。この記事が、少しでも皆さんの参考になれば、うれしく思います。

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