見出し画像

振り向いたら座敷わらし【第十話】

外はよく晴れていて、今日も気持ちのいい陽気だ。
最近出かける時に晴れていることが多いが、これも座敷わらしである福ちゃんのおかげなのだろうか。
夏樹さんは綺麗だと言ってから上機嫌で鼻歌なんて歌っていながら歩いている。
「いい天気だね。」
福ちゃんはコクンと頷いた。
「今日は天気もいいし!皆で出かけられるし!最高の一日だな!」
「本当ですね。夏樹さんも付き合ってくれてありがとうございます。」
「何を水臭い!私たちの仲はもうそんな仲じゃないだろう?」
「…そうかもしれませんね。」
確かに言われてみればそんな気もする。
福ちゃんが来る前は確かに夏樹さんが家に上がることもあったが、今日のようにのんびり散歩に出かけたりはしていなかったし、日常をともに過ごすこともなかった。
福ちゃんと夏樹さんも初めて顔を合わせてから、毎日のように一緒に過ごしている。
そして私と福ちゃんは言わずもがなだ。
なんだか福ちゃんが来たことで繋がりの形が変わったように思う。
「でもやっぱり、ありがとうございますと言いたくなりますよ。夏樹さんにも、福ちゃんにも。」
「なんだか照れくさいな!なぁ福!」
「よくわからない。けど、わたしはなつきとしゅうすけと一緒にいられてうれしい。」
夏樹さんはそうかと言うと福ちゃんの頭を撫でた。

目的の本屋は商店街の一角にある。近くに喫茶店もあるので、本屋さんで本を買って喫茶店でお茶をしながら読むという流れがここら辺の住人の定番だ。
そういえば私も福ちゃんが来る前はちょくちょく足を運んでいたが、福ちゃんが来てからは来ていなかった。
本屋の店主さんや、喫茶店のマスターは元気だろうか。
「そうしたら定番通り本を買ったら喫茶店でお茶でもしていきますか。」
「うむ!ここの喫茶店のカフェオレはうまいぞぉ?」
そう言いながら夏樹さんは福の方を見た。
「かふぇおれ、飲んだことない。」
福ちゃんの目がキラキラする。
「そしたら喫茶店に行くのは決まりだね。」
さて目的の本屋。店の構えは日本家屋を改装して本屋にしたというだけあって、風格も感じられて、店に入ると見事に整頓された本がずらっと並んでいる。
「…いらっしゃい。」
「お久しぶりです。」
私がそういうと本屋の店主のおじさんは読んでいた手元の本に視線を戻した。
この店主さんは愛想があまりいい方ではない。というより寡黙なのである。
本のことを尋ねればしっかり対応してくれるので、信頼がおける人物ではあるのだが。
「本がいっぱい…。」
福ちゃんは本屋に来るのも初めてなのか、あたりをきょろきょろ見回している。
「そうだろう!なんたってここは…本屋さんだからな!」
夏樹さんは当たり前のことを何かの格言のごとく言っている。
店主さんはこちらを一瞥するとまた本に視線を戻す。
(さて、何を買うかな。)
「まずは私のおすすめの本を紹介しよう!」
そう言って夏樹さんは自信満々に福ちゃんと私を連れてある一角に向かう。
そこには哲学書が沢山並んでいた。
「私のおすすめはだな…。」
「ちょっと待ってください。」
私は夏樹さんの肩をガシッと掴んだ。
「さすがに福ちゃんに哲学書は早すぎませんか。」
「何を言っている。子供のころから偉人達の思想に触れるのは大事なことだぞ。」
そんなことを言いあっている横で福ちゃんが哲学書を一冊手に取っているようであった。
「むずかしい…。」
「そうだ福!そうやってわからないことを調べながら読み解いていくんだ!」
そうして半ば夏樹さんに押し切られる形で一冊買うことにした。

「修介はおすすめの本はないのか?」
「おすすめの本…ですか。そうですね…。」
今度は私が福ちゃんと夏樹さんを連れて移動する。
そうしてたどり着いたのが絵本コーナーである。
「ほう、絵本か。」
「人によっては絵本なんてという人もいるみたいですが、中には大人も考えさせられるものもあるんですよ。」
夏樹さんが目についた絵本を一冊手に取って眺めている。
「…うん、悪くない。絵本も一冊買っていこう。」
福ちゃんも一冊手に取った絵本を熱心に眺めている。
「これがいい。」
そういって絵本を一冊私に見せてきた。
「うむ!そしたらそれも買っていこう!」
私と夏樹さんも久しぶりの本屋さんなので福ちゃんと一緒に店内を一通り回り、それぞれ欲しい本を数冊手に取って会計に向かった。
「…お嬢ちゃん、本屋さんにくるのは初めてかい?」
店主さんが福ちゃんに話しかけた。
「うん、はじめて。」
「楽しいかい?」
「うん、たのしい。」
「そうかい。」
店主さんの表情が少し緩んだように見えたのは気のせいだろうか。
「また連れてこようと思います。」
「待ってるよ。」
そう言って私たちは店を出た。

(いやぁ…福ちゃんも楽しいって言ってくれてるし、連れてきてよかったな…。)
そんなほくほくした気持ちになれて私もうれしい。
「というか、本屋のおじさんも福のこと見えるんだな。」
「あっ…。」
案外、福ちゃんのことが見える人は多いのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?