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皮膜
2021年6月22日 08:13
日本画家の東山魁夷さんがいった。「古い建物のない町は、思い出のない人間と一緒だ」。自分の故郷ながらこの町に今一つなじめなかった理由の一つは、そんな、個性もこだわりもない、地方の小都市の顔立ちのせいかもしれない。けれど、彼女は、気付いていなかった。歴史を持たない町などないってことを。例えば65年前、こんな田舎にも大空襲があったってことを。彼女が嫌う街並みは、焼け野原の中から、彼女の祖父や
2021年6月11日 23:25
「新社会人おめでとう」。ベッドで寝返りを打ちながら、昔、入社式でいわれた言葉を思い出す。明日、目覚めた自分はもう、「社会人」ではないんだナ、と。定年後の居場所探しという、ありがちな難問を解く本には、「外に何かがあると探すのではなく、自分の今までの人生と向き合う中に答えがある」とあった。自分の、今までの人生。ページを遡ってはみても、それらしい答えはない。漠漠とした気持ちで本にしおりをして、そ
2021年6月2日 20:15
試みに彼女は、その板をノックしてみる。一見して、かなり頑丈そうだ。「非常の際には、ここを破って隣戸へ避難出来ます」と貼り紙があるけれど。果たして、本当にこの板を破れるだろうか?ベランダにたたずむ彼女は、想像している。肩から行くか、それとも足から?今度は、両手でその板を押してみる。もしかしたら、いざ「非常の際」には、破れない強度なのかもしれない、と不安になる。非常階段はここから遠く、板は、こ