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電脳虚構

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近未来テクノロジー空想小説のショートショート
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#創作

電脳虚構#20| 幽霊の証明

「どーですか? 私のかけてるこの”ゴーストグラス”。 一家にひとつ、いや個人にひとつ持っててもいいくらいですよ」 「これで本当に幽霊が見えるんですか? なんかイマイチ実感わかないなぁ」 「いやいや、この商品は”幽霊が見えないこと”に意味があるんですよ」 「え?みえなければ、ゴースト・・グラス? それの意味なくないですか?」 「この商品。我が社がNOSOと共同開発して何年もかけて実現した画期的な発明なのです。 現在、特許申請中ですが、いずれ大きなニュースになるでしょう

電脳虚構#18|課金地獄

さびれた工場の隅、毎日の退屈な流れ作業。 安い時給で鞭で打たれるように働かされ、身体を引きずるように帰る。 今日もスーパーで安いカップ麺と、見切り品の総菜を適当にを買う。 殺風景なワンルーム。 エアコンの調子が悪く、むせ返るような暑さだ。 日々溜まっていくのは金ではなく、捨てずに置きっ放しのゴミと、ストレスだけだ。 そんな現実から目をそむけながら、適当に夕食をかっこむ。 ゴミをいつものように放り投げ、逃げるようにして「あの世界へ」もぐる。 ・ ・ ・ Chapte

電脳虚構#15 | 夏休みの終わりに

Chapter.1 おんぼろバス ぼくの家から、電車をいくつも乗りかえて3時間。 そこからさらに、おんぼろバスで50分。 ガタガタと山道をゆられ、アーチのような竹林を抜け、おばけがでそうなトンネルを通る。 長い下り坂、バスはスピードが上げて一直線。 南風に乗って、ふわっと潮風の匂いがバスいっぱいになる。 その先の急カーブを左に曲がると、キラキラ光る海が見えてくる。 波に反射する日差しが眩しくて、ぼくは思わず目をつむる。 海を横目に細い道を右に左にくねくねとバスは進む

電脳虚構#14 | ザッピング・ルーム(上)

Chapter.1 イチカ家の裏の通りに差し掛かると、温かくいい匂いが漂ってきた。 「お、今日はカレーだな」 イチカは家庭的で料理上手だ。 特に彼女のカレーは格別でつい食べ過ぎてしまう。 「ただいま、今日はカレーだね。 裏の路地まで匂いがしててもうそれだけで腹ペコだ。」 3つ年上の彼女、高く髪を束ね、白いうなじのエプロン姿。 この素朴な無自覚のかわいさが、たまらない色気を放っている。 「おつかれさま。お料理、すぐできるから先にお風呂どうぞ。 今日はお隣さんから柚子い

電脳虚構#13 | ホークアイ

Chapter.1 博士と助手 「どうです?私のこと見えてますか?」 少し目を逸らした隙に博士は目の前から姿を消した。 「これはすごい、まるでステルス迷彩だ。」 空間がニュルっと歪み、透明な空気に色がつく。 その色は徐々に人間の輪郭へと形成されていき、博士の姿が現れた。 「そうこれがカメレオンの能力なのですよ。  きっとヒットしますよ、この擬態能力は。」 遺伝子工学の研究が進み、あらゆる生物の能力、その遺伝子を人体に取り込むことが可能となった。 その技術が国の研

電脳虚構#12 | どろろ

Chapter.1 サブスク 人体転送サービス「ファストトラベル事業」が盛んになり、企業の低価競争がはじまった。 サービス開始当初は1回のトラベルから発生していた料金。 ついに「トラベルし放題」のサブスクが主流の時代へ。 ・全世界どこへでも! ・国内のどこへでも! ・地域限定 ・夜割、学割 ・レディースデー・シニアデー 様々なターゲットにしぼり、サービスが次々に実装された。 僕は頭も悪く、容姿もごく普通。特に取り柄のないフリーターだ。 お金もなくサブスクに入るような

電脳虚構#11 | ソウマトウセンター

「人類は生も死もテクノロジーで掌握しようとした。  その結晶がこの”ENMA”システムというモノなのです。」 そう言い放つ、何者かの冷たい表情と声に戦慄を覚えた。 「これから貴方には【ソウマトウ】を体験してもらいます。  大丈夫、別に命を奪うわけではないですから。」 Chapter.1 ライフログ ・ ・ ・ 【 ゲームクリアです!おめでとうございます!  つきましては、3日後の○月□日。  ソウマトウセンターまでお越しくださいませ! 】 通達は突然やってきた。

電脳虚構#10 |レトロフリーク

「ほら、これみてください!  この車、タイヤがボタンひとつで格納できて、飛行モードに切り替わるんです。」 「ほぉーこれはすごい。飛行モードはどういった原理で飛ぶんですか?」 「反重力ですね。燃料は電気です。  ソーラーでまかなえるほどの省電力ですが。」 「それは初めて知りました、反重力なんて技術。  それにソーラーとはまた貴重だ。  あ、あっちの装置はなんですか?  リビング中央でくるくるまわってますが。」 「プロジェクションマッピングってご存知ですか?  その技術

電脳虚構#9 | イッツ・ア・スモールワールド

Chapter.1 ジオラマの世界 私はある実験をしていた。 この1m四方の「エデンの園」のジオラマは様々な文献を調べ、精巧に作ったものだ。 中央に植えた「知恵の樹」も本物のリンゴの木から生成したもの。 草木、地層、山や海、生物、風、光、この世界に呼応する生きる全ては、嘘偽りのない確かな生命だ。 この米粒ほどのアンドロイドも、ヒトの細胞から培養して作ったものだ。 自我があり、呼吸をし、生殖機能だってある。 男女のアンドロイドを一体ずつ作り、アダムとイヴという名前をつ

電脳虚構#8|理想的な工場

僕には夢があった。 画家になりたくて、画ばかりを描いてる子供だった。 そしていつか世界中を旅をして みたこともない景色をたくさん描くこと それが僕の夢。 ・ ・ ・ Chapter.1 オートメーション 僕の勤める工場も、時代と共にオートメーション化が進み、手作業の行程はとても少なくなった。 コストカットや人員削減で、多くの人が居場所をなくし職を失った。 この工場も70%がAIが働くようになり、近い将来「人間さま」の居場所なんかなくなるのだろう。 さいわいまだ

電脳虚構#7|善意の都市(下)

Chapter.4 足音 残業で遅くなり、早足で駅からマンションまで帰る。 今日もまた背中に視線を感じる、この街で誰かにつけられるなんて、ありはしないはずなのに。 家のドアの前。コンビニの袋がぶら下がっている。 ゾクっと、背中にイヤな汗を感じた。あの日のデジャブだ。 「この街にアイツがいるはずなんかない!」と、自分に言い聞かせ、精一杯の強がりで平静をよそおって袋を手にとろうとした・・。 ・・着替えをして、洗顔、、自動でお風呂にお湯がたまっていく。 陽気なバラエテ

電脳虚構#7|善意の都市(上)

Chapter.1 気配 残業で遅くなり、早足で駅からマンションまで帰る。 今日もまた背中に視線を感じる、きっと誰かにつけられているのだ。 家のドアの前。コンビニの袋がぶら下がっている。 まただ・・。 袋の中は、野菜ジュースとサラダ、解凍されてびしゃびしゃになった冷凍フルーツ、つぶれかけたシュークリーム。今日は栄養ドリンクまで入っていた。 そしていつものように、チラシの端をちぎったような、手紙とは到底いえないメモが入っていた。 と、かすれた緑のマジックの汚い文字が不気

電脳虚構#6|守られた世界

僕はエリートだ。 このシェルターの中で、最高の環境で最高の教育をうけている。 そとの世界は、むかし怖い疫病がはやり、人が住める世界ではなくなったらしい。 その後、隕石の落下や異常気象でこの星のほとんどが壊滅したという。 この安全なシェルターの中の【 特別居住区 】に暮らす僕は、この世に残された数少ない選ばれた人間だ。 毎日、栄養バランスのとれた最上級の食事が黙っていても出てくる。 専属の医療チームが常にそばにいて、健康管理もじゅうぶんだ。 勉強も運動も、最高の指導者が

電脳虚構#5.1 | 残機(extend)

※「残機(extend)」は上記のお話のAnother endです。 最後のオチまでは全く同じ、そこから少し拡張したストーリーです。 Badendなのか、Happyendなのかは読んでからのお楽しみですね。 それではどーぞ! ◆   □   ◆   □   ◆ 深夜の冷え切ったアスファルトが頬にあたる。 しだいにそれを覆うように生暖かいものが広がり、ぬくもりを与える。 --- 神経回路・切断 --- それが目に浸みて拭おうとした手。 動かそうにも何故か感触が無く、