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機械の国と不良少女(SF小説@3,000文字)

夏休みが明け学校が始まると、雰囲気が大きく変わった友達っていましたよね。

私の同級生にも居ました。
でもその子は、どちらかと言うとそこまで美人ではなく明らかにメイクしているだろってくらい下手なメイクをして登校してきたんです。

簡単に言えば外見にコンプレックスを抱いている子だったんですね。
ほら、メイクに不慣れな時って自分が気になる部分に過剰にメイクしてしまったりするじゃないですか。それと同じ感じです。

先生の言う事を聞かないし校則も守らない。
不良と言われれば不良だったかもしれないけど、全て自分で考えて正しいと思う事をしていました。その姿勢が妙にカッコよくて、次第に周囲も彼女を見る目が変わっていったんです。

心は常に前向きで『自分がやりたい事』を実践していただけなのに、不良と一括りにされ続けてきた。そんな彼女の生き方と照らし合わせて書いてみました。

機械の国と不良少女

機械の国は常に規則正しい。
不規則な事象など存在しなくなったこの世界では人間の生命活動すら規則正しかった。
人間に与えられた寿命は100年とキッチリ決まっているし、皆が平等で貧富の格差も存在しない。

「あぁ、なんて平和な世界!なんて素晴らしい……クソったれな世界!!!」

何かを噛みしめるような表情で、一人の少女が灰色の空に向かって叫んだ。

なぜ世界がこうなったのか、理由は単純だ。
今から約1,000年前、多くの人々はこの『皆が平等の世界観』を望んだ。平和を願って。
ただ、人類の平等を追い求める度合いが過ぎたのだ。

エビデンスがなければ失敗を恐れて動けない人。AIの助言がなければ自分で判断も出来ない人など、とにかく人類はリスクを恐れるあまり完璧主義に走り過ぎた。

そうしてAIが定義する正しさを基準に物事を判断し、レールから外れた人間を徹底排除。
AIが作った平等という枠組みの中で生き続けた人間どもは思考を放棄し始めた。

人間の脳というのはとにかく楽をしたがる。思考せずに生きる事が出来るのなら思考力を失い始める。それが脳の性質なのだから当然の結果である。
争いという過酷な環境があったからこそ人類は生きる術として知能を獲得することが出来た。
だが、その事実を認識できるものは今の世界にはもういない。

生きるとはあらがうこと

少女が灰色の空に向かって暴言を吐いた直後、回収ロボットがやってきた。
回収ロボットとはその名の通りで、レールから外れた存在を回収。つまり排除する役割を担ったAIロボットである。その物騒な役割を隠すよう見た目には愛嬌があり、もふもふ感がある。

たった一言、憎しみの感情を込め「クソったれ」と言うだけでも即回収される始末。どこまで完璧主義なのかと呆れさせられる。

「はいはい、お利口さんですね~もふもふちゃん。いい子いい子」

これから回収されるというのに、焦る素振りを一切見せず全てを見越したように少女は不敵に挑発した。目の前のロボットではなく、この世界そのものに対して。

少女が世界に対して考えた仮説はこうだ。
この世界のAIは『皆が平等の世界観』を望んだ人類に対して、生きやすい環境を作りあげているに過ぎない。そしてAIすべてが人類に危害を加えることがない所を見ると、回収されたからといって死ぬ可能性は限りなくゼロに近いと推測される。

…となると回収された人間はどこへ向かうのか。
辿り着く答えは一つ。回収された人間が暮らしている世界があるはずだと考えた。

勿論、回収された人間がこの世界に戻ってきた事例は一度たりとも存在しない。
そして回収された先の世界が今よりも地獄である可能性も否めない。
それでも少女は自分が立てた仮説に賭けた。

理由は単純。「だってこの世界クソすぎるもん!」
少女を運びながら回収ロボットが再びエラー音を発する。
もう最後だし何度も言ってやるわ「この世界はクソゲーだああああ!!」

けたたましいエラー音が何度も街中に響き渡り、人々の注目を集めながら少女は回収されていった。
それを目撃した人々は後にこう語る「彼女は数百年に一人の不良少女だった…」と。

不良少女が向かう先

もふもふロボに連れられて、大きな機械仕掛けのエレベーターに乗り込む。
そして王道RPGゲームのダンジョン的な地下を降り、巨大な木製扉の前に辿り着いた。

「ここまで大きな木製扉がまだこの世界に存在していたなんて…」

初めて目にする大きな木製扉。生まれたときから、機械に囲まれ育った少女にとって、それは異世界へ通じる大きな扉にも思えてくる。
少女が一種の感動を覚えていると、もふもふロボが扉を開けるための言葉を発した。

『ヒラケー、ゴマ』

意外過ぎる言葉。反射的にツッコミを入れてしまった。

「開けゴマって、おいっ!」
返して!私の感動とワクワク感!!しかも扉開いてないし。

もふもふロボは少し考えたのち再び言葉を発し始める。

『…ヒラケー、ゴマ』
『…オープン、セサミ』
『…イフタフ、ヤー、シムシム』

もふもふロボが日本語、英語、アラビア語の順で呪文を唱えると、ようやく扉が開いた。
(もうツッコむ気力もないわぁ…てかこいつ、いまドアの開け方忘れていただろ絶対。こわっ!)

完璧すぎる世界でロボットがミスをする。
この手のホラー話はよくあるが、実際に目にすると震えが止まらない。マジちびりそう。

いやいや、やっぱりおかしい。だってここは機械の国だぞ。
…となると考えられる仮説は一つ。

「おい、お前。ここは機械の国ではないのか?」

もふもふロボが振り返り答える。
もふもふロボが振り返り答える。
『ご名答、ここは既に機械の国ではありません。そして私は自立型AI №679と申します。あなた様は選んだのです、この世界を自らの手で』

この世界の真実

もふもふロボ改め№679曰く、機械の国とは『別称:始まりの世界』だという。

国という枠組みでありながら、そこに住まう人々はそこを世界の全てと信じて疑わないで生きている。
思考を放棄している人間にとっては、自分の国の基準が世界の全てであり、そのレールから外れることを極端に恐れる。

多くの人は、機械の国以外の国があると疑いもしない。
思考することを放棄してしまえば、その環境に不満を抱きながらも、自ら環境を変えるリスクを取ることができない。
それでもお前は、自分が正しいと思う道を選択した。
それは考える事を続けたからだ。

「つまり機械の国。いや、始まりの世界から抜け出すことこそが人生のスタートラインという訳か」

とても皮肉な話だ。今まで生きていると思い込んでいただけで、実際は人生がスタートすらしていなかったなんて。

※不良少女と№679の旅は始まるのか(現在、未定)

ちょっと質問良いかな№679。どうしても気になって仕方がなかったので質問してみる。

「私は人生のスタート早い方?遅い方?いま15歳なんだけど」

『ぶっちぎりで速いですね。数百年に一人レベルです。よくて平均60歳くらいで人生始まるんですよ。まぁ9割の人は本当の人生を始めることなく100歳を迎えるのですが』付け加えて№679は心の声を漏らす『あぁ、この様な優秀な方のパートナーになれるなんて私は光栄です』

「え、いまなんて?パートナー?この、もふもふと?」

№679は詳しく説明を始めた。それをまとめるとこうだ。
回収ロボは、私達の人生をサポートする役割を担っている自立型AIで、人類の知能発展を目的に作られた存在。人間と同じ感情を持ち合わせているし、もふもふを脱げば人間に近い外見も持ち合わせている。

私が回収された時のエラー音あれは『こりゃ大当たり、大当たりじゃあぁ!』という喜びの意味があったらしい。数百年に一人レベルの人間をGETして喜びを抑えるのはロボットでも不可能だったのだ。

…思い返してみれば、回収ロボットが100くらい殺到してたわ。津波の如く押し寄せる、もふもふ軍団は軽く恐怖だったなぁ。

そんなこんなで、私の人生は本当の意味で始まりを告げた。
(つづく…のか?)


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