猫記録1-② やまちゃん
数日後、ガーデンテーブルをシートで覆い、ちょっとした猫小屋を作ってくれた。もちろん食料や水をもらい、久しぶりに人の声がする環境に安心感を覚えた。それでも他所へやられて傷ついた気持ちは癒えず、ひたすら寒さに耐えた。
そのうち、さすがに心配した彼らは徐々にドアをあけておいてくれて、近くに行くことを許してくれるようになった。女の子はうれしそうに話しかけてくれて恐る恐る撫でてくれる。なんて気持ちよいのだろう。久しぶりの感覚。
人のおうちは慣れているのでだんだん中に入るようになり、初めて出会ったあの日からそう遠くないころ、私はここの家の子になった。
猫好きだけれど迎え入れたことがなかったこの家族は、それはそれは喜びかわいがってくれたけれど、やはりどこかで飼い主が探しているのでは?と心配をしていた。そして地域の新聞に広告を出してくれたのだった。
結果、なんと連絡があった。逃げ出した子ではないかと。私はきちんと理解していなかったのだが、トラックで移動した距離がかなりあったようで、なん十キロも離れたところにたどり着いていたようだ。
そして、その意地悪先住さんたちのいる家のお母さんがやってきた。逃げ出したこの子ですと。チップはいれていなかったのだが、奇跡のように探し当てられた。
正直に言おう。もう私はそちらへ帰る気はない。連れて帰られてもまた逃げるわよ、くらい思っていた。だが話は、もともと他の家から来たこと、先住さんたちとうまくいっていなかったことなどを説明され、最終的によかったらもらってください、というような話になった。ほっとした。
この家の彼らも晴れて受け入れられることを喜び、良い形で一見落着した。
庭には鳥も遊びに来て、道路側に出ないで野原へ出られるし、なにより暖かいリビングで家族とすごく安心があった。膝に乗せてもらえるのよっ!と世界中に叫びたいくらいだった。
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