猫記録1-③ やまちゃん

こうして私はここの子になった。広い庭も好きだし、いっしょに遊んでくれる女の子はやさしいし、ダディは子供のころから家に猫のいる生活をしていた人のようで、べたべたしてくるけど、放っておいて欲しいときには察してくれる。
名前の由来は単純だ。黒猫→クロネコ→ヤマト〇輸→やまちゃん(本名やまと)
これ、日本の会社だけれど、英国でもたまに黒猫さんのトラックを見かけることもあって、ダディがそれをみると、
「クロネコやま〇の宅急便♪」
と、いちいち歌っているのから推測するに、黒猫といえば・・・と思ってしまったのだろう。名前としては男子っぽくて違うと思ったけれど、これに決定したわけだ。
数年が過ぎ、ダディの仕事の都合で引っ越しをすることになった。私自身もこの村出身ではないけれど、今度は南の方らしい。多分また空気も違うのだろうと思う。

引っ越し先は海の近くらしい。匂いが違う。そして今回もまた良い庭があり、どうやら車どおりは住人しかないようなところで、私も出かけるのには安心だ。リビンクから通じるドアはいつも開いていて、全面窓なので、閉まっていてもすぐ気づいてもらえるのはうれしい。
私はここで存分に狩りを楽しんだ。たくさん飛んでくる鳥、ネズミ、カエルなど。みんなに持って帰ってあげた。カエルなどは私の水飲み用にお皿に飛び込んだりしていた。庭に遊びにやってくるハリネズミとキツネはそっと見守ることにしている。

やがていつも一緒だった女の子は学校が忙しくなり、最初のころほどいっしょにはいられなくなったけれど、いつでもどこでも踊っている女の子は、バレエのレッスンも本格的に始めたようで、楽しそうだった。隣の家の男子はいつもボールを蹴っていて、時々危ない目にあったけれど悪い人ではなかった。

そんな日々がずーっと続くと思っていたのに、それは突然やってきた。家族会議は重ねられていたのだと思うが、私が雰囲気に気づいたのは引っ越しが差し迫ったころだった。心なしか女の子も元気がなくなっている感じがした。

しかもその時はまだ、まさか私が飛行機に乗る日が来るなんて想像していなかった。一年で一番素敵な英国の夏を楽しめる、そんな陽気が始まったころだった。

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