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猫記録1-① やまちゃん(黒猫)


私はもう手術ばかりのライフに疲れてしまったよ。ありがとうダディ、マミー、娘ちゃん。バイバイ。
そんな目をして私と夫の目の前で旅立ったやまちゃん。
その猫ライフを、彼女目線で事実に基づいて想像し綴ってみる。
あの日はまだ寒い2月だった。私はそこから数十キロのあの家から逃げてきた。だって、せっかくやさしい両親のもとささやかで幸せな生活を送っていたある日、赤ちゃんができたといっしょに喜んでいたのに、数か月後、私は他の家へ預けられることになった。なぜいっしょに暮せないかはわからなかった。

預けられた家はすでに先住の方々がいた。案の定意地悪だった。あの家から離れなければいけなかった事実と、いじわる先住さんにもう無理だと感じ家を離れた。

もう帰らないつもりだったから、いつも行かない方まで歩き続け、そこにいたトラックの荷台に乗ってみた。そしてたどり着いたのがこの村だった。前にいたところと同じ、平な風景が続く原っぱを歩いてみる。お腹空いたが野原の続くエリアではそれなりに食べるものがあって助かった。
その寒い日、家々の裏にある駐車場に一台の緑の車がやってきた。楽しそうに降りてきたその家族がそう、今の家族。小学生くらいの女の子がいた。降りてきたその人たちは私を見つけるなり、
「お~っ、かわいい」と言って全員で向かってきた。好意をもってくれているようだ。確実に猫派のトーンだ。疲れていたし、のろのろとついて彼らの家にいっしょに向かった。 

それでも家へは上げてくれなかった。後から聞いた話では、人なれ具合からみてどこかに飼い主がいて、帰っていくものと思っていたそうだ。そう、私にはもう帰るところはない、そう思って彼らの庭に佇んでいたのを覚えている。だから庭の隅で眠らせてもらった。

翌朝、私の姿を庭でみつけた彼らはとても驚いていた。たいてい通り過ぎる猫はいても、翌日までいる猫はいなかったそうだ。気の毒そうに窓から私をみるその女の子は、中に入れても良いかと父親に聞いていたようだが、却下されていた。ただこの閉鎖的な庭とその家族の温かい空気に居心地の良さを感じていたのは事実で、次の日は寒さしのぎのために庭の物置を開けておいてくれた。

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