猫記録1-⑦ やまちゃん

この国は地震というものがある。こちらに来て初めて知ったのだが、2011年のあの日、女の子は調子が悪くて学校を早退して家にいた。マミーは出かけていたが、女の子を心配し早めに帰ってきていた。
「ちょっとスーパーへ行ってくるね。」
とマミーが出かけて数分がたったころ、尋常ではない揺れを感じた。さすがの私も怖くなって女の子のベッドへ急いで登り布団に入った。大きな地震だった。

その日の夜、ダディは帰ってこられなくなり、近所の人たちと近くの小学校へ避難をすることとなった。犬連れ、猫連れで来ている人たちも多く、犬たちは教室の外にわりと落ち着いて過ごしていた。私はキャリーバックの蓋を開けてもらい、ずーっと女の子といっしょにいた。結局数時間そこで過ごして戻ることになった。

それから、女の子は新しい日本の生活にストレスを感じて、辛い日々を過ごしていた。私はとても心配で、励ましてあげたかった。小さなころから二人で過ごしてきたのだから、彼女の痛みはわかる。

結局、女の子は日本の高校を辞めて、英国の学校へ行くことになった。その頃の私は、数度の手術により常に洋服を着て、痩せていたのだと思う。道行く人に、
「洋服似合っているわよ。」
と言われてもうれしくない。まさか女の子と一緒に過ごせなくなるなんて思いもしなかった。さびしい。それでも、それが女の子にとって良いことなのなら応援したい。

それでも、もう手術は嫌、と思っていた。私がこの家族の元に来てから13年ほど、引っ越しすぎだよ、とは思うが、幸せに過ごした。いろいろな思い出もある。でももうゆっくりさせて欲しい。先生とも相談してもう手術はしないことになった。少しずつ動けなくなり、2階や3階へ上るのもできなくなりつつあった。

最後の頃はダディたちが1階でいっしょに寝てくれた。それでも苦しくて、もういいかな、と伝えてみた。そして先生の所へ行った。

ダディ、マミー、女の子、今までどうもありがとう。幸せだったよ。たくさんの愛情をありがとう。バイバイ。

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