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#エモいってなんですか?〜心揺さぶられるnoteマガジン〜

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理屈ではなく何か感情がゆさぶられるそんなnoteたちを集めています。なんとなく涙を流したい夜、甘い時間を過ごしたい時そんなときに読んでいただきたいマガジンです。
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2019年12月の記事一覧

雨、都心、自由

雨の渋谷を歩く。 空気は冬を纏い、風は頬を刺すように吹き抜けていく。 決して嫌いではなかった。 こういう日は夜空がひどく美しい。 見上げても重い濃灰色の雲が確かな質量を持って広がっている。 すれ違う人々も、同じ方向へ歩く人も 皆、空を見ずに俯いている。 自由に生きたいと願う。 歳を重ねる度に、それは「制約の中で」という前置きがつく。 どこに逃げ出したとしても自由なんてものはどこにもなくて どこに逃げ出したとしても何かしらの障害が立ち塞がる。 壊れてしまいそうな心は 結局壊れ

無題

宵の明星、地下5mの水脈【 #教養のエチュード賞 応募作品 】

夕飯までの少しの時間、私は娘をつれて公園まで散歩に出掛けることにした。もうすぐ冬至、まだ16時前だというのに随分と太陽は西に傾き冷たい風が頬に触れた。外はさむい。それでも「今日は自転車に乗りたいの」と言う娘は出がけ前に手袋をさがしだす。 まぁそんな時に限ってなかなかみつからないのだが。 出てこない手袋にすこしがっかりした様子の娘だったがそれでもめげず、素手でハンドルを握ると、ひょいと元気よくサドルにまたがった。 「あんまりスピード出すなよ。」 言いつけを守り、ゆっくり

君の手を掴むことができなかった頃の話 #呑みながら書きました

隣に座っているのに、遠かった。 自分の視界は、ぼんやりと滲んでいた。 なぜそんなに想ってくれるのか。 こんな大した価値のない自分をどうして。 そう、ずっと、思っていた時期がある。 * いままでに伸ばしてくれた手を掴むことができなかった人が、二人いる。どちらの人も、自分以上に自分のことと自分との未来のことを考えてくれていた。 夜一人になったとき、ふとどうしてその手を掴むことができなかったのかを考えてしまう。 どうして先のことを考えないの? やりたいことは二人でできな

いきる

手入れが行き届きすぎて寂しい。 僕の部屋に足を踏み入れるなり、彼女はそう言った。 手入れなんかしていなかった。僕が僕の部屋に馴染んでいないだけで。「手入れ」と言えば、週に一度、簡単な掃除をするだけのものだ。 寝るだけのためにある僕の部屋。台所も使わない。バスタブに湯もはらない。必要以上に服は持たないし、冷蔵庫にはミネラルウォーターと少量のアルコール、それ以外はない。米すらない。何もかもピカピカだった。 彼女は、僕が自分の部屋に馴染んでいないことを一瞬で感じ取ったのだ。その鋭

在上海活下记录 1

芥川龍之介 「上海遊記」に寄せて 私の支那国上海での初日は冷めざめと降り頻る雨であった。 飛行機を降りる前、父が初めて私に教えた支那語は【不要(ブゥヤオ)】であった。ニィハオでもシェシェでもない、ブゥヤオ。意味は見ての通り必要ないという意である。何故と訝しがる私に父は一言「降りたら分かるさ。追いかけてくる男たちに言うんだよ」 機場の外に出たか否か、何十人もの車屋が私たちを包囲した。何かわぁわぁと喚きたてているものの、それが乗っていかないのか?という誘いであることぐらいし

在上海活下记录 2

芥川龍之介 「上海遊記」に寄せて この記事は、前日の在上海活下记录1の続きになります。 悉くしつこい車屋の間を抜け切り、父の会社が用意した車までたどり着いた。そこの車はピカリと太阳を反射する白金色で塵ひとつついていない。ふっと後ろを振り返ると、数かずの車屋の其れは全て黒いがそこにはびっしりと黄砂が付いている..いま自分が立つ白金の車の近くは、突然にそことの空気が隔絶されたような気になった。不相変(あいかわらず)、人の往来に対して、車屋は何かを喚いていた。 ◇ 揺れに揺

わたしの二番目の恋の話をしよう

わたしの二番目の恋。それは小学一年生の頃。「恋」なんてたいそうな言い方をしてみたけれど、何てことない子供の記憶。 幼い頃のわたしといえば、クラスで分からないと困っている人の宿題を全てやってしまったり、誰も進んでやりたがらない人前に立ってやる仕事をずっとやり続けすぎて先生に「一度やった人は出来ない」とルールを書き加えられたり、クラスのガキ大将に歯向かってカチューシャを割られたりしていた。ちょっとした問題行動として親が担任に呼ばれたのは今だから分かる話だ。コーヒー牛乳が飲めなく