意外性は作れる 中級者向け 物語構造を元にしたシーンメイキング「帰還」「気付かれない到着」「暴露」「判別」「姿の変更」 クリエイターの為の批評コラム

前回はこちら。

前回同様物語構造とシーンメイキングの話をします。前半は個別の物語構造ユニットの取り扱い、後半は具体的な場面構成に(ほぼ{多分})共通の演出法を反復を含めて詳しく。


まず「帰還」ですが、「31の機能」では「戦い」「敵の勝利」の後、更に「欠落」が「回復」された後、話によってはもうクライマックスが終わってエピローグに入っている段階です。「欠落」を生じさせる「敵対行為」はその前、物語的には序盤にあるので、見せ場はほとんど終わっているケースがかなりありますね。とはいっても大塚英志が映画『バイオハザード』を例に指摘しているように帰り道でこそ大変な事になるという話もあるわけで、前回紹介した「迫害」などは「帰還」の後に生じていますし、所謂「呪的逃走」、「ハリウッド映画にありがちな『爆発を背に走ってくる主人公』」なども「帰還」のプロセスやその途上でのシークエンスになります。

「帰還」は物語の一区切りを示すのに便利な構造ユニットで、一難去ってまた一難、を演出する為に挟んでおく、もしくはこれでおしまい、と示す為の締めに使うなどしましょう。


「気付かれない到着」は行為としてはそのままですが、問題は理由です。何故気付かれてはいけないのか? 大っぴらに入ってはまずい、相手にバレてはいけない、相手の不意を突いて姿を見せる必要がある、そういったサプライズを狙うべき必然性をどうにか用意してください(「ビックリさせたかっただけ」とかでもいい)。「31の機能」では偽物が手柄を横取りしていたりするので自分達が本物だと証明し懲らしめる為に、あるいは「迫害」から逃れ「世間」の目を憚って不意打ちする為に使うようです。

知らぬ間に物事が進行しているというのはなかなかインパクトがありうまいやり方だと思うので、バリエーションを色々と考えてみるのも面白いでしょう。


「判別」。「お前は……!」と気付かれるシーンです。「31の機能」では下記の「暴露」同様正体を隠していないと機能しないものですが、単に「気付く事」と考えると犯罪の証拠やクイズの解き方のヒントなど、「難題」を「解決」に導き、「虚偽の認識」から「真相の解明」へと向かう重要なプロセスであるとも位置付けられそうです。


「暴露」。偽物を前に真相を明らかにするシークエンス。サスペンスではクライマックスで使われるジャンルのお約束ですね。相手の企みを暴いて終わりか、暴いてからもうひと足掻きあるのか、そこで取り逃して宿命のライバルになるのか、転がし方はいくらでも。主人公のどうでもいい隠し事や友人の悩み事なんかでも機能する要素です。


「姿の変更」。以前書いた「変身」「変装」がこれのつもりだったんですが、立場が変わったり「回復」した証が加わったりという要件がある場合、意味合いが大きく変わってくるので改めて。服装や装備、髪型やアクセサリーなど、特別な意味を持つ何かを纏ったり、ビジュアル面で変更が加わると漫画やアニメ、映画などの視覚に訴えるタイプのメディアで高い効果を発揮するので意識しましょう(というか視覚メディアでこういった気遣いは当然の前提かと思われますが……)。

「31の機能」では「暴露」の後、身の証を立て汚名返上名誉挽回、これまで「迫害」してきた世間も味方につけての形勢逆転、といった趣で示されているようなので、一連の流れ、プロットの中での位置取りを考える事も、また唐突に挿入できる単独の構造ユニットとして捉え直す事も可能且つ有効かと思います。


・意外性は作れる

今回意図的に各構造ユニットの解説にあたって細かな応用例とその発想法に触れずにきました。その訳は、ここでそれぞれの発想法の用例と、発想法同士の関係性を少し細かく書いてみようかと試してみたかったので。

前回に限らずこれまで何度となく書いてきましたが、意外性や完結性を演出する方法として「逆行する感じ」、「難題」→「解決」、「虚偽の認識」→「真相の解明」というものがあります。「難題」→「解決」は「31の機能」にあり、「逆行する感じ」と「虚偽の認識」→「真相の解明」はヴィクトル・シクロフスキーが提示したものです。

「虚偽の認識」→「真相の解明」は「まずAが示される」→「次にAではないBが示される」というステップで展開します。この時AとBが反発し合う別物だったなら、それは「逆行する感じ」を生んでいるはずです。「AではないB」がAを含んでいたり、Aと似たものだったり、Aとは別でも両立するものだったりというケースもありえます。

「逆行する感じ」は「まずA」→「次にAに反するB」で出来ており、ひと塊りで「虚偽の認識」→「真相の解明」を示す事も出来ますが、AもBも本当である場合(「やっちゃいけないって分かってる」「でもやっちゃう」という矛盾や「迷い」「葛藤」を孕むケース)、AとBが別々の方向に引っ張り合う緊張感が生じます。

ここまでで既に意外性を作る為の1つの枠組が説明出来ていると思います。「虚偽の認識」→「真相の解明」を「逆行する感じ」のバリエーションとして考える訳です。あるいは「虚偽の認識」→「真相の解明」を「どっちも真実だが並べると矛盾するもの」に置き換える事で広く応用可能なものに出来るとも言えるでしょう。

ここで更に「意外性を作る手段」として「難題」→「解決」が使える事になります。というのは、矛盾を解消するのは難しいに決まっていて、矛盾を解消する方法というのは大抵意外な方法だからです。これは「難題」=「矛盾」である時の説明ですが、「難題」→「解決」は構造ユニットであり、上記したように「判別」を加えて展開して物語らしさの土台を固めたり、一旦「偽りの解決」を挟む形で「真の解決」へと辿り着く事により、「虚偽の認識」→「真相の解明」を成立させる事も出来、前述の枠組から1つ複雑にして意外性を演出する枠組が作れていますね。

2つの反するものの組み合わせで「逆行」≒「矛盾」≒「難題」を生み出し、それを「解決」もしくは「偽りの解決」→「真の解決」で締めくくる。

という事で、「虚偽の認識」→「真相の解明」、「逆行する感じ」、「難題」→「解決」を利用して、完結性と意外性を作る具体的な方法は説明出来、且つ、実践出来ると思います。


いずれこれらに「謎」も含めてまとめたいと思っていますのでお楽しみに。




続きます。



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