「ものを言う」以上、編集者も批評から逃れられると思うな。 ~WELQをきっかけに~

7、8ヵ月前にこんなツイートをしたのだが、WELQ閉鎖の報に触れても当の私自身すっかり失念していた。

思い出したのが一昨日。それから漫然と構想を練り「ならば」と書き始めたのが本稿。キュレーションを一種の編集と見做せばWELQの方法にも適用できるかとも考えたが、編集と呼ぶものよりもむしろ「如何に字面や語順で不一致化しながら内容面で同一性を保つか」という偽装・詐術の手口にこそ比重がかかる見込みが高い。まったく、皆がつながる広い世界だからこそどこにでもいるような輩にがっかりさせられる事態が絶えないようだ。

キュレーター、と名付けられた存在にある種の専門性がないとは思わない。美術業界ではその働き次第で効果が大きく変動する、重要なポジションでもあろう。だが今回の件を「最終的にアウトプットを担う者に対する指導権を持つ者とその指導の在り方」への視線、視座の在り方に関して憚りながら私の考えを披露する契機とするのも(その職務の専門性ゆえに当然付随するものとして)またひとつの選択であると思う。

完成品を展示するキュレーションの場合、完成までのプロセスにアプローチし作品の出来に貢献することはない。一方、DeNAのケースでは記事執筆用のマニュアルが存在し、リライトが指示されている。



「参考サイトの文章を、事実や必要な情報を残して独自表現で書き換えるコツ」や「参考サイトに類似しない本文作成のコツ」などの項目もある。

中見出しごとに複数サイトを参考して複数意見を寄せ集めれば”どこを参考にしたかすぐ分かる”状態ではなくなり、独自性の高い記事になります
(参考サイトに類似しない本文作成のコツ{マニュアルより})

DeNAの「WELQ」はどうやって問題記事を大量生産したか 現役社員、ライターが組織的関与を証言


そして完成記事を公開する権限はライターにはない。「最終的な編集・公開」はDeNA側が行っている。

この作業プロセスは前述した完成品展示型キュレーションとは異なり、内容そのものを操作する編集が加わっている為、どうやら同義的文字表現ヴァリエーション化というテーマを適用することができそうである。

さて、内容・表現の在り方を左右する権限を持つ以上、編集という営為それ自体がアウトプットの成果・効果に関わるのは自明なのだが、実は文芸批評理論上、編集者は存在しない事になっている。

「作品に関する直接的な源泉は作者にその全てがある」。編集側の事情や注文によって為されることなど文芸批評理論上存在しない。あからさまに非現実的ではあるが、それこそが文芸批評の実際であり常識であり暗黙の前提であり、そうして文芸批評は現実にそぐわない言説を生み出し続けてきた。

が、まぁそれは措く。本稿で肝心なのは、たとえ文芸批評がそのようにあり続けたとしても、編集者が「ものを言う」ようになるのであれば、それは批評対象の範疇に足を踏み入れることである、という点だ。記事を書いて表現し、ブランディングの為に名を名乗り、業界内での活動内容をプロフィールとして掲載し、それを以てネームバリューとしながら上昇と拡大を図ろうというのであれば、その可能性や射程が問われるようになるのは至極当然であり、無論不可避でもある。

「ものを言う」編集者とは、これ即ち「表現者」なのだ。である以上、編集面での行動の帰結とは別次元で批評の眼に晒されるのを逃れることはない。それは単に「表現者」という批評対象として存在することになる。もし編集者としてある記事Aを参考に別のライターBに対して記事A´を制作するよう求める剽窃と偽装が常態化していたとしても。

そして編集者による表現行為を批評する為の分析理論が構築されるだろうし、あるいは編集行為まで含めた制作プロセス全体を分析する為の批評理論が希求される事態までもが可能性として浮上してくる。

まぁ、どのようにであれ、現実に即した実践批評の在り方に関する重要なトピックとなるであろう。

そもそも引用とは、その源泉において何がどのように示されているか出典を明らかにし、読者が準拠点と内容を精査する助けとする為に行うものである。参考にしながら引用や転載を避ける為のリライトなどあってはならない。それは「改変転載」「改変引用」にあたる不正である。参考にした以上、参照項として適切な取り扱いが必要であろう。でなければ読者の利便に生かされないのだから。



正直、個人のウェブサイトやスパムサイトも含めて、そういった著作権無視のコピペメディアがはびこるのはインターネットの宿命だと思います。

DeNA炎上騒動は任天堂が協業を見直してもおかしくない深刻な問題のはず


世の中は綺麗事ばかりではない。とはいえ、何の対策も取らない事だけが唯一取り得る選択という訳では決してない。

私の場合、当事者として類似の被害を受けている為、他所に手が回らない、という事情はあるが……。





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