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ヒナドレミのコーヒーブレイク         かくれんぼ             

 「もういいかい」和斗が言った。「まぁだだよ」ボクが言った。「もういいかい」和斗が言った。「まぁだだよ」ボクが言った。「もういいかい」3度目の和斗の声は、少し強めだった。「もういいよ」ボクは言った。

 ボクと和斗は、空き地でかくれんぼをしていた。ボクは、空き地の隅っこの木の茂みに隠れていた。かくれんぼが始まってすぐに、和斗はボクの目の前に来た。(あっ、見つかる!!)ボクは思った。でも和斗は、ちょっとだけ探してすぐに向こうへ行った。そしてその後も、和斗はこっちに来なかった。だから、ボクは眠くなって、ウトウトとしていた。結局、和斗はボクを見つけることが出来ずに、家へ帰ってしまった。薄暗くなってから眠りから覚めたボクは、一人で家路についた。

 そしてそれから20年が経った。ボクらは立派な大人になった。

 和斗から久しぶりに連絡があったのは、つい数日前だった。いきなりの電話で少し驚いたが、話をしているうちに、あの頃の記憶が 昨日のことのように思い出された。和斗は言った。「久しぶりに、あの空き地でかくれんぼ しないか?」ボクは「いいね、やろう」即答した。

 そして二人は、20年の時を経て 同じ場所にやってきた。(空き地、もうないかもな)と思ったが、意外にもまだ空き地は存在していた。あの頃のままだった。いや、少し変わったかもしれないが、僕らにとってはあの日のままだった。

 じゃんけんの弱い和斗は、またオニだった。僕はまた、あの頃と同じ隠れ場所、木の茂みに隠れた。和斗は、今度は見つけられるだろうか?僕の思いをよそに、和斗はすぐにボクを見つけ出した。そして次は僕がオニになった。(僕も あの日の和斗と同様に、和斗を残して帰ってしまおうか)とも思ったが、大人げないと思い直した。和斗は なかなか見つからなかったが、どうやら後ろの方でくしゃみをしたらしかった。「和くん 見っけ」昔のニックで僕は和斗を呼んだ。

 そして二人は 空き地の芝生に腰を下ろし、あの頃の出来事を語り合った。和斗の近況を聞こうかとも思ったが、やめておいた。和斗も同じ思いだったのか、僕の近況を聞いてこなかった。僕も和斗も、この20年間で色々な経験をしたのは間違いない。ただ それを隠すわけではなく それに触れない、そんな気遣いや優しさも 大人だからこそ出来ることだ。もちろん、聞いて欲しいと言うのなら別だが。

 こうして、ボクらの一日は暮れていく。

 和斗とは、20年後にこの場所で再び会う約束をした。いくつになっても、親友といる時間は かけがえのないものだ。「和くん、ありがとう、これからもよろしく!」心の中でそう思った。                         
                                完

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