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ヒナドレミのコーヒーブレイク    出会いと別れ

 ある秋の休日の昼下がり。恵茉(えま)は駅前のスーパーへ買い物に行くため、最寄り駅までの道のりを歩いていた。その日は、時間のある時だけ通る 狭い道を通った。

 すぐ隣が公園になっていて、その公園に 女児・・・4歳くらいだろうか・・・が一人で遊んでいた。(あの子、一人で大丈夫かな?)そう思った私は、女の子に声をかけようと、公園内へと歩いて行った。そして私は、女の子の前にしゃがみ込み「こんにちは」と言った。すると女の子は顔を上げて私をみて、とびっきりの笑顔で「お姉ちゃん、こんにちは」と言った。私は女の子に、母親のことを訊ねてみた。すると、どうやら彼女の母親は パートで働いているらしかった。彼女の話によると、今日は、両親とも仕事に出ている日なのだと言う。

 彼女の名前は『里桜(りお)』といった。「「ねえ、里桜ちゃん」お姉ちゃん、これから お買い物に行くけど、一緒に行かない?」私が聞くと「うん、行く」と里桜は即答した。そして二人は、駅前のスーパーへ行った。「ねえ里桜ちゃん、ケーキを買っていって、おウチで食べよっか?」「うん、食べる!」二人は、買い物を済ませ、恵茉の家へと戻った。

 独り暮らしの静かな部屋が、その日は里桜の声で明るくなった。キッチンのテーブルで、私たちはケーキを食べていた。私はこの時、ある考えを里桜に話した。「ねぇ里桜ちゃん。お姉ちゃん いいこと考えたんだけど、もし里桜ちゃんさえよかったら、里桜ちゃんのお父さんとお母さんが二人ともお仕事に行く日は、お姉ちゃんと一緒に過ごさない?」すると里桜は、目を輝かせて「うん、そうする」と言った。

 それからの二人は、週に一度 恵茉の家で一緒に過ごした。殺風景だった恵茉の部屋が、里桜のために買ってきたぬいぐるみや人形で 徐々ににぎやかになってきた。ある時 自分の洋服を買いに行った恵茉は、同じショップの子供服のコーナーへ行き、里桜に似合いそうな洋服を買った。ただし洋服は、この家にいる時だけ着させるようにした。そしてオモチャも買った。最近は里桜のための物ばかり買うようになった。里桜の喜ぶ顔が見たい一心だった。

 その日は里桜と会う日だった。だが1時間待ったが里桜は来なかった。待ち合わせはいつも、二人が初めて会った公園だった。もしかしたら、里桜が私とのことを母親に話してしまい、母親に 私とはもう会うな とでも言われたのかもしれない。部屋のぬいぐるみたちは、主(あるじ)がいなくなったからか、しょんぼりしているようにみえた。里桜の笑顔が見たくて、里桜の声が聴きたくて、3ヶ月は、毎週公園に行った。だが、二度と里桜の笑顔を見ることも、里桜の声を聴くこともできなかった。          完

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