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ヒナドレミのコーヒーブレイク                         固定観念

 ある金曜日の仕事帰りのこと。真っすぐに家に帰りたくなくて、私は一人で遊園地へと向かった。同僚を誘おうかと思ったが、何となく今日は一人でいたい気分だった。別に、ジェットコースターに乗りたいわけでも、絶叫マシンに乗りたいわけでもなかった。ただ人込みに紛れていたい、そんな気分だった。その他大勢のうちの一人でいたかった。賑やかな園内の喧騒が、丁度よいBGMとなって私の耳に伝わってくる。

 人込みの中、私は当てもなく歩いていた。今なら、どのアトラクションも待たずに乗れたが、冷たい風に吹かれて頭を冷やしたかった。

 どうして私は一人でいたい気分だったのか?一人でいたいはずなのに、人込みを求めていたのは何故なのか?自分でもよくわからなかった。ただ一つ言えることは、ありふれた、変わりのない日常から抜け出したかったということ。

 朝早く起きて、通勤電車に乗って、会社へ行って、仕事をして、通勤電車に乗って、家へ帰って、寝る。毎日同じことの繰り返し。『次はこれ』と思わなくても、無意識のうちに 体や足がひとりでに動いてしまう。そんな体にしてしまったのは、紛れもなく自分自身なのだ。例えば 仕事帰りに友人と遊びに行くとか、休みの日にショッピングに出かけるとか、自分を磨くとか・・・そういったことをするという考えが、私にはまるで無かった。     

 親からは、「あなたは真面目を絵に描いたような子ね」と言われ続けてきた。確かに私は真面目だ。そして変わったことが嫌いな性格でもある。だから、判で押したように、いつも同じ時間に起きて、同じ時間に寝た。自ら進んで冒険をするようなタイプでもない。いつもと何かが少し違っただけでも許せない。

 でも、今はそういう自分に嫌気がさしたし、疲れた。そんな気持ちが、きっと私を一人で遊園地に来させたのかもしれない。「もう そろそろ自分を解き放ったら?」私の耳元で、もう一人の私が囁いた。「もう十分 真面目を演じてきたじゃない?これからは、もっと自分に素直に生きてみたら?」とも言った。(えっ!?私が真面目を演じてた?それは違う、だって私は真面目を絵に描いたような・・・)私はハッとした。(もしかして、私は本当に真面目を演じてきただけなのかもしれない!!)考えてみれば、自分で「私は真面目だと思い込もうとしていたような気がする。それもこれも、親が私に植え付けた ある種の固定観念なのかもしれない。

 それを 今更変えようと思っても、そう簡単にはいかないだろう。まぁ、変えなくてもいいのかな。こんな自分と、これからも上手く付き合っていくしかない 。                              完


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