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服と福祉

わたしは2020年度、服と福祉という組み合わせが広がっていくと予想します。そういう世界にしたい、と思っています。


わたしが服と福祉の可能性を感じたのは2019年のことです。

わたしはとある芸術大学でファッションについて学ぶ学生です。授業では頻繁に「なぜ、あなたが、今、作る必要があるのか」ということについて考えます。ずっとわたしはこの服が溢れる世の中であえて自分が服を作る意味が見出せないでいました。

わたしは小さい頃からぬいぐるみがすきでした。というのも、わたしは17歳から三年間ほど「ひきこもり」と呼ばれる立場にありました。ひきこもっていたときは特に、ぬいぐるみが側にあると落ち着きました。その頃なんとなく、自分はぬいぐるみに関係するものがつくりたいと思っていたわたしは、ぬいぐるみについて調べ始めました。そしてぬいぐるみセラピーというものを見つけました。

ぬいぐるみセラピーとは精神疾患のある人などがぬいぐるみによって心を癒すという治療法の一種です。そのとき、わたしは「ひきこもりの自分の経験を活かした服作りはできないだろうか。それこそがわたしがこの時代にあえて服を作る意味なのではないか」という考えに至りました。それから(わたしは滋賀県在住なのですが、)滋賀県のひきこもり支援センターの方に協力を仰ぎ、アンケートを実施したりして、ぬいぐるみと服を掛け合わせたひきこもりの人のための服というものをつくりました。

見た目はただのグレーのスウェットなのですが、お腹のポケット中に着脱可能なぬいぐるみが入っており、外で怖くなった際にポケットに手を突っ込むフリをしてぬいぐるみをギュッとできるという服です。またその場その場に合わせた服を着なければならなくなった場合にもぬいぐるみを連れて歩けるように、取り外したぬいぐるみはキーケースになるようにしました。

グレーという色は色の三原色を混ぜ合わせてできる色なので、下にどんな色のボトムスでも合わせやすく、スウェット素材を採用したのは肌馴染みがよく、伸びもいいので、体型のシルエットを隠すことができるからです。(まだパターンもそのように作っています)

縫製もタグが中に出たりしないようにしました。

また、ぬいぐるみは布から飛び出すような形にすることでかさばらずにポケットの中に収まり、ぬいぐるみの生地もいろんなものを実際に試して手汗をかいても給水しやすいタオル地を選びました。


実際に何人かの方にこの服を着ていただいていて「今まで洗濯が億劫だったけれど、この子はちゃんと洗ってあげたいから洗濯をするようになった」「外に出ることが今までほど怖くなくなった」などという声をいただいています。


「服」はおしゃれをするためのものであると同時に、無限の可能性があるのだなと感じました。


もちろん、この服はその人が外へ出るきっかけでしかありません。でも、わたしもそうだったのですが、誰だって今のままでいいだなんて思っていなくて、きっかけを待っているのだと思います。

「きっかけ」がいつも着ている服で作れたら。それは素敵なことだと思います。



2020年わたしは新たな取り組みを始めました。

年末にクラウドファンディングを行い、賛同してくださった方の支援金を元手に、この服を作り販売するというものです。

そしてその販売する服のポケットの中に入れるぬいぐるみを滋賀県ひきこもり支援センターに通うひきこもりと向き合おうと頑張っている人々と作ることにしました。

この活動で、作る人も着る人も「自分も誰かの支えになっていて、自分も誰かに支えられている」ということに気づくきっかけができればと思っています。


服は、友達より、親より、ひょっとすると肌に、自分に近い存在です。いつかお洒落を楽しめるその日まで、そばで着る人を守り、支えることができたら、幸せだなと思います。


身近な、誰だって着ている服というツールで、福祉を支えることができる時代がきたら、もっとみんなが生きやすい、過ごしやすい世の中が来るのではないでしょうか。


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