コスパを上げるには、信頼で周りを固めること
何年か前に、ミュージシャンとタレントの不倫が話題になった時のこと。
Lineで交わされた会話の中に
「本当の愛はコスパがいいんだよ。だって高価な料理も豪華な旅行も
何もいらない」
といった言葉が含まれていた。
(細かいところは覚えてないけど、大体こんな意味合いだったと思う)
二人の間にあったものが「本当の愛」かどうかは知らないが、この言葉は真理だと思う。
恋愛だけでなく、「愛=信頼」はすべてにおいて生活をよりよくしてくれる、最強にコスパのいい助っ人だ。
愛と信頼は最強の守護神
一緒に住んでいる人が信頼できないとお金がかかるということを、少し前まで身をもって経験していた。
前に住んでいた家では、自分のいない間に勝手に部屋に入って何をされるかわからない、という恐怖と日々闘っていたのだ。何なら大事なものを勝手に捨てられてしまう。
だから外出することは危険なのだが、かといって、家にいても気持ちが休まらないので、ついつい外出して出費がかさむ。
深夜にキッチンに入ることを禁じられていたので、夜中に喉が渇くと、コンビニまで飲み物や氷を買いに行かねばならなかった。少額でも、特に夏場毎日のようにとなると、そこそこ金額がかさむ。
私も同居人を信頼していなかったが、同居人の方も私を信用していなかった。一体何を恐れていたのかは知らないが、いつも疑いの目で見られていたのだ。
安心して家にいられるという事は、それだけでコスパが良い。
今の家に引っ越してから、あてもなく街をぶらぶらしたり、近所のファーストフードやファミレスで無駄に時間をつぶすこともなくなった。
大事なものを同居人に見つからないように隠す必要もなくなった。
その労力や時間やお金を他のことに使えるのだ。
でもそれ以上に、ココロが健康でいられるのが一番ありがたい。
結局、健康であることが、一番コスパがいいのだ。
新たなお引越し
今の家に引っ越して5年が経ち、また引っ越すことになった。とはいえ、今度は建物内のお引越しだ。
今年に入って大家さんから「今度建物をリニューアルすることになったので、新しい部屋に引っ越しませんか?」と声をかけられたのだ。
割と古いマンションで、今住んでいる部屋はかなり設備が老朽化していたので、願ってもない話。
その分当然家賃は上がるが、払えない額ではない。ではなぜこれまで引越しを検討しなかったかと言えば、引越し自体が難しいからだ。
会社勤めをしている人には全く想像できないけれど、自営業の人には身に染みて実感できることが、借金のしやすさではないだろうか。
正社員で毎月決まった給料を得られるということの社会的な信用度や安定感は、失ってみてはじめてその偉大さに気づくのだ。夫婦ともにフリーランスとなってみて、我々夫婦も身をもって痛感する。
カード1枚作るのに苦労するのだから、ローンの組みにくさや賃貸物件の借りにくさは半端ない。
それがどうにかなるのは、強力な保証人がいる場合だけ。
ローンはともかくとして、賃貸物件の場合は、親兄弟が安定した職に就いていれば、比較的通りやすい。
しかし、私たちのように親世代がすでにリタイアしてしまう年代に差し掛かると、それもままならないのだ。
だから今の家に住めるだけでも、本当にありがたい。施設の古さなど全く気にならなかった。
特に、我が家が今の家に住めるようになった経緯は、ちょっと特殊だからだ。
地獄のようだった旧居
5年前まで、私とオット・宮田は私の実家に仮住まいしていた。冒頭に登場した「同居人」とは、私の母親である。
細かい経緯は端折るが、宮田は病で会社を辞めた。
東京から名古屋に引っ越して私の実家に住み、再起を図るため、写真の学校に通っていた。
彼は決して甘えたヒモ気質ではなく、一人前に働きたいと切望するマトモな男性なのだが、働きたくても体が付いて行かないことも多かった。
そんな彼を母は理解しようとせず、罵倒される毎日が続いた。
彼をかばって日々私と母親も衝突し、毎日が地獄絵図のようだった。
このままこの家にいたら、いつか二人とも病むか、犯罪に手を染めてしまうかもしれない。
大げさでなく、それくらい、追いつめられるようになっていた。
私家版「大家さんと僕」
ところで、話は飛ぶけれど、14年前東京に住み宮田と結婚したときのこと。彼がそれまで住んでいたアパートの大家さんに挨拶に行った。
彼はイマドキ珍しく、毎月家賃を現金で大家さん宅に届けていたという。帰省して戻ったらお土産を届けたり、家族ぐるみのお付き合いだったそうだ。
「大学卒業してから8年も住んでいたなら、大家さんも息子みたいに思ってらっしゃるんじゃないの?寂しいだろうねー」
と、ちょっとおセンチになって言ってみたりしたが、大家さんの反応は予想を上回った。
大家さん曰く、宮田は毎月必ず給料日に家賃を届けに来たのだそうだ。
どんなに残業しても夜にはやってきて、8年間一度も遅れたことがなかったそうで。今まで長くアパートを貸してきたけれど、そんな人は外にいない、とおっしゃった。
「あなたね、この人についていけば間違いはないよ。本当にこんなに立派な人はいない。だから安心してついていきなさい」
初対面の大家さんはそう言って涙を流したのだ。
恥ずかしながら私自身は、独り暮らしをしていた頃に家賃の振り込みが遅れて催促されたことが何度かある。お金がなかったわけではなく、ついうっかり忘れてしまったのだ。
でも人ってそういうものではないだろうか。
会社の上司やクライアントの前では真面目でも、大家さんにはつい甘えてしまう。ちょっとくらい遅れても追い出されることはないだろう、と考えてしまうのだ。
自分より強い立場の人に対してだけではなく、そうじゃない相手にも誠実でいられるのは、確かに何よりも信頼に足る。
そしてその誠実さが何よりの力になることを、彼は証明したのだ。
「大家さんと僕」その後
話は戻って実家で母親と同居しているとき、しんどくなると私はよく夢想した。
宮田が撮影の仕事で大家さんと知り合って、その人に気に入られ
「よかったらうちの物件に住みませんか?」
と言ってもらえないだろうか、と。
要するにパトロンになってくれないだろうか、と思っていたのである。
いや、家賃は払うから、保証人なしで住まわせてくれるだけでいい。その場合、パトロンとは言わないか。まぁ呼び方はどうでもいいけど。
どんな部屋もでいいから、どこかに住まわせて欲しい。
そうじゃなければ、私たちはこの地獄から永遠に抜け出せない。
塔の上のラプンツェルは「白馬に乗った大家さん」を待っていたのだ。
といっても、そこまで本気で考えていたわけではない。
現実的な方法として、1年分くらいの家賃を先に振り込めば住めるはずなので、まずはお金を貯めるしかない、と考えていた。
それでも、どこかに「白馬の大家さん願望」はあった。そして想い続けていれば願いはかなうこともあるものなのだ。
誠実さは人生のコスパを最強にする
2015年頃から、宮田は不動産物件の撮影を多く手掛けるようになった。特にデザイナーズやこだわりのある物件を撮影することが多い。
中には宮田の写真を気に入って「物件写真集」を別途オーダーしてくださる方や、お土産にお菓子や自社製品をひょいっとくださる方などが現れた。(いただいたお鍋はとっても重宝している。この場を借りてお礼を言いたいほど。ありがとうございます!)
宮田の場合、写真自体の評価も高かったけれど、何より口をそろえてよく言われるのは「こんなに誠実な人はいない」ということ。
ただ「現場に行って撮影する数時間」の間に、人の心を捉えるような誠実さを見せられるのって、これもある意味才能なのではないか、と思う。
そんな中で知り合ったのが今の大家さんだ。
大家さんの奥さんは、好きなものにのめり込むタイプで、宮田の写真を気に入ると、全力で応援してくださるようになった。
そして、2015年の秋に宮田の闘病記が発売されると、すぐに購入して我が家の事情を知り、まさに、私が夢にまで見たそのセリフを、そのまんまにおっしゃったのだ。
「ウチの物件で空いてる部屋があるので、よかったら住みませんか?」
いやホント、そうなるといいな、とは思っていたけれど、あまりに非現実的で、そんなこと起こるはずがないと諦めていた。
宮田はその誠実さで、自分の道を切り開いたのだ。
セキュリティより強い安心感
長々と書いてきたこの駄文も、いよいよフィナーレ。
ここまで引っ張って来たけれど、言いたいことは結局のところ、一言二言で要約できる。
信頼できる人に囲まれて暮らすことが、コスパを上げるコツである。
そして、自分自身が誠実であることが、コスパを上げる最強の方法である。
私たちの事情を知り尽くした大家さんの物件で暮らすということは、お金では買えない安心を手に入れたのも同じだ。どんなセキュリティより強い安心感。
それが「信頼関係で結ばれる」ということ。
そのためには、人から見たらばかばかしいほどのことも決して手を抜かないことだ。そうした姿勢は絶対に人に伝わるものだからだ。