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乾いた人生に5色の薔薇を添えて④

彼らがいれば平穏な人生を保てた。

上司から叱られても、先輩から嫌がらせを受けても、親から怒りの捌け口にされても、彼らの姿を見るだけで全てがどうでもよく思えるくらいに、私が社会に紛れるためのサポートをしてくれた。

よく親が家にいない休日には、いつも占領されている大型テレビの前にローテーブルを設置し、スーパーで買ってきたアルコール度数の高い缶チューハイとお惣菜を並べ、彼らのコンサートDVDを流し、簡易的コンサート会場で大はしゃぎした。推しがピンで抜かれた映像は、1回目は目視、2回目は写真、3回目は動画用に何度も巻き戻しをして、何度も新鮮に感動していた。

このまま貯金に回すはずだった費用を彼らに全て当てても構わない、後先考えず好きなものにはまっしぐらで極端な考えを抱いていた。

そのまま時は過ぎ、私は無事一人暮らしを始めた。

解き放たれてしまったのだ。今までは家族の目を気にして絶対に一人の時にしかDVDやCDは掛けなかったし、目につかないように私しか開けない引き出しの奥へ潜ませていた。会報も親が郵便ポストを見る前に必ずお迎えに行った。今は何も遮るものがない。いつでも部屋をライブ会場にすることができた。引っ越してすぐDVDを鑑賞できるように私が引っ越し先に到着する当日にテレビとレコーダーを仲間にした。

休日に今日は何を鑑賞しようかなと選ぶのが幸せだし、必ず自室を暗くして推し色に染まる一輪の薔薇の如くペンライトを握りながら浸っていた。

彼らの夢の1つであった24時間テレビでのメインパーソナリティを何故かその時期だけ美しい金色に輝かせた姿で発表され後悔する推し、24時間テレビ当日、推しの出る時間帯を調べ私のスケジュールを組み、私が号泣する中誇らしい笑顔を咲かせていた誇らしい推し。

その日も推しが出ている番組で、推しが流行りの芸人の格好をして盛り上げようと奮闘している姿を肴に、ご飯を食べていた。

続くと思っていた。この幸福感が。


続く

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