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ハイモジモジ10周年ふり返り(1期目の後半)

ハイモジモジ代表の松岡です。

2010年4月28日に創業し、間もなく10周年を迎えます。そこで、この10年の歩みをふり返っていきます。今回は1期目の後半をお伝えしていきます。


ロフトでデビューしたものの


2010年の夏、デビュー作の「LIST-IT」がロフト京都で華々しくデビューを飾りました。が、売れ行きは芳しくなく。

今でこそアイデア文具のコーナーは盛況ですが、当時の小売店における文具コーナーは「デザイン」や「アイデア」は控えめだった記憶があります。実際、「LIST-IT」も文具コーナーに導入されたわけではありませんでした。(これは問屋さんの都合でもあったのですが)

商品が導入されても、売れなければ意味がありません。しかも「上代(=販売価格)」と「下代(=卸価格)」の違いもよく分かっておらず、製造原価に自分たちの利益を少し乗せただけの価格設定にしていたため、問屋さんに卸せば卸すほど赤字になることに気づいてしまいました。

さりとてオンラインでの直販もほとんど動きなし。せっかく開設した電話やFAXのベルが鳴ることもありません。途方に暮れてしまいました。

あまりに暇すぎるので、自宅兼事務所の目の前に広がる一橋大学のキャンパスで松田(現デザイナー兼妻)とふたり、ひたすらバドミントンをしていたこともありました。運動不足解消といえば聞こえがいいですが、ただの暇つぶしです。

一応、日中は営業時間の意識もあり、電波がぎりぎり届くコードレス電話を家の外に持ち出しては、新規取引の打診やお客さんからの問い合わせ電話がかかってくるのを待っていましたが、電話はうんともすんとも言いませんでした。

そんな中、リストイットの製造過程で廃棄される紙があるという話を印刷会社さんに聞き、ただの捨てるのではもったいないということでカラフルなブロックメモを作ったりもしました(オンライン販売限定)。


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いやはや、どうやったら会社が軌道に乗るのでしょう。

1店舗とはいえ超大手のロフトさんで取り扱われても全然売れず、直販サイトも伸び悩み。メンタルがあまり強くない私は創業する前もそうだったように、ふたたびベッドにごろんと転がる日々が続きました。何の解決策も浮かばず、ただ落ち込んでいるだけです。

その姿を見て「この人はダメだ」と感じた松田が、何やら動き始めます。



ヒット商品の誕生


業務委託で週に数日会社勤務していた彼女は、デスクに不在の同僚に「取引先から電話がありました」といった伝言を伝えるのに苦労していたことを思い出します。

相手のデスクにメモを置いても書類で埋もれる、パソコンのモニターに付箋を貼っても剥がれてどこかにいってしまう。そこでキーボードのすき間にメモを立てて目立たせる、そんな自分の行動を思い出し、何か商品化できないのかと試作を始めます。

そうして生まれたのが、パソコンのキーボードに立てて伝える伝言メモ「Deng On(デングオン)」でした。


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きっかけは、デスクに顎を乗せてくつろいでいたときでした。パソコンのキーボードが、まるでビルが林立する都市のように見え、ここをステージにして戦うウルトラマンと怪獣の形をした伝言メモがあったら面白いなと着想。しかしウルトマランを商品化する許諾の取り方がまったくわからず、断念した経緯がありました(後に実際にウルトマラン版が商品化されます)。

次に、著作権のない「動物」を使えばいいのではないかと問屋さんのアドバイスをもらい、試しにネコのシルエットでデザインします。これが案外よくできて4種類ほどできたので、4種類をまとめたアソートパックの商品化する方向で話が進みます。

しかし私は思ったのです。

アソートパックではビジネスが発展しにくい。4種類がまとめて買えてしまったら、お客さんとの接点は一度しか生まれない。それよりネコに限らず色んな種類の動物をつくり、おひとり何点でも買えるようにすればいいんじゃないか。種類が豊富なら選ぶ楽しみも生まれるんじゃないか、と。

そうしてペンギンやウサギ、ブタやキリン、シロクマといった動物たちを単品パックにして販売することにしました。


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リストイットに続く第2弾、「Deng On」の完成に手ごたえを感じたデザイナーの松田は、私にこう告げます。

「今の会社、辞めるわ。こっちの方が面白そうだから」

まだ売り上げがほとんど立っていない、創業間もない零細ベンチャーにジョインする勇気。ここからハイモジモジは2人体制になります。2010年秋のころでした。


初展示会と「すごい文房具」


そして、会社は攻勢に転じます。

もう家でじっとしていてもしょうがない。この新商品を引っさげて、世の中に出ていくのだ。強い決意をもとに、私たちは展示会への出展を決めます。池袋はサンシャインシティの展示ホールで開催された「プレミアムインセンティブショー」に出展し、取引先をつかみにいったのでした。


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この「プレミアムインセンティブショー」は販促関係の展示会で、イベント等で配布されるノベルティーを作る会社と、使えるネタを探している会社がマッチングする場。

私たちはもう資本金が底をつき、後がありませんでした。「Deng On」の特許権または実用新案権を取得する費用に使うか、展示会に出展する費用に使うかの2択に迫られ、後者を選んだくらいお金がありませんでした。

小売店のひとつふたつに導入が決まるくらいでは会社がつぶれる。もっと大きな売上を立てなければ。そう考えて、小売は一旦あきため、大量受注が見込めるノベルティー商品としての活路を見出すことにしたのです。

(この判断は間違っていませんでしたが、このとき「Deng On」の知的財産権を押さえられず、数多くの模倣品、類似品を許すことになります)

そして来場者の中に、東急ハンズとの取引をメインにしている問屋さんがいらっしゃり、「ぜひハンズさんに紹介したい」「すぐに見積もりをくれ」と熱いラブコールをいただきいて、話がトントン拍子に進みました。

ノベルティーの受注は残念ながらもらえなかったのですが、結果的に「東急ハンズとのパイプ」をつかむことができたのでした。

しかも「プレミアムインセンティブショー」が開催された初日、ある歴史的な雑誌が出版されます。KKベストセラーズから刊行されたムック「すごい文房具」でした。


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それまで文房具というのは大手企業を中心に、社員に「支給」されるものでした。ところが、かのリーマンショックが起こり、企業は大きな痛手を受けます。そこで文房具の支給を取りやめ、自分で使う文房具は自分で用意するという時代の流れが起きます。

その流れの中で、様々なアイデア文具が生まれ始めており、それらをピックアップした「文房具だけの雑誌」という当時としては尖りまくりのメディアでした。

その誌面にハイモジモジの「リストイット」も加えていただき、初のメディア・デビューも飾ったのでした。リーマン・ショックうんぬんの流れはまったく意図していない、ただのビギナーズ・ラックだったんですけどね。


「これが売れることは分かってる」


そして後日、展示会で知り合った問屋さんの仲介で、当時は渋谷にあった東急ハンズ本部に足を運びました。

私は出来上がったばかりの「Deng On」を本部バイヤーにお見せし、反応をうかがいます。「こんなの全然面白くない」「よくあるアイデアだ」なんてあしらわれる可能性も頭に入れながら、商品の特長を必死に説明しました。

するとバイヤーさんは、こう言いました。

「これが売れることは分かってる」

うちで取り扱うか、取り扱わないかはじゃない。この商品は絶対に売れる。問題はそれを私たちがいつから販売できるんですかということです、と。

こんなにシビれる言葉があるでしょうか。

この日からハイモジモジは本格的に「Deng On」の量産体制に入ります。印刷会社を通じてレーザーカットの職人さんに加工をお願いし、本体と台紙を内職の方々がアセンブル(封入)してくれ、ほとんど手作業で商品ができ上がっていきます。

そして東急ハンズ全店への導入がスタート。


ハンズ横浜店


あわせて「LIST-IT」も従来のアソートパックをやめ、単色パックにリニューアル。商品の種類を増やし、お店の「面」を取る作戦に出ます。全国の東急ハンズで「Deng On」と「LIST-IT」がずらっと並んだ「ハイモジモジのコーナー」が展開されました。

メディアでもどんどん取り上げられていきます。雑誌、新聞、テレビ、ラジオ。そしてネット。5大メディアを総なめしていきます。

在庫もあっという間にはけていきます。工場から仕上がった商品がその日のうちに売れ、毎日1,000個以上出荷する日々が続きました。当然、生産が追いつかなくなります。

東急ハンズのような大手雑貨チェーンでは在庫を切らすことはご法度です。お願いしている工場だけでは埒が明かないと判断し、封入作業を自分たちでもやることに。それでも追いつかず、時間のある友達にアルバイトに来てもらって、みんなでせっせと内職しました。

梱包作業もバタバタ。ヤマト運輸のドライバーさんが17時に来るまでに、その日の注文分を用意しないと問屋さんに叱られてしまいます。大汗をかきながら、息を切らして必死に商品をつめこみます。ヤマトさんがダンボールを抱えてトラックに乗せたころには、ほとんど気絶寸前で倒れ込む毎日でした。

こうしてハイモジモジ1期目は序盤から中盤にかけてほとんど売上げもなく、時間を持て余し、危機感がありながらものほほんとしていたのですが、「Deng On」を開発したことと東急ハンズ全店に導入されたことで状況が一変。ロフトでも全国の店舗で取り扱われ始めました。

創業月と期末(3月)の売上げは、実に10,000%アップ。いや、創業月はほとんど売上げがなかったんですけどね。


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▲2011年の年始に届けた年賀状


そんな怒涛の1年目がもうすぐ幕を閉じようとしていたときでした。

あの東日本大震災が起こったのは。


ハイモジモジ10周年まで、あと22日。

(つづく)


【ハイモジモジ PROFILE】
2010年創業。「Kneepon from Nippon!」を合言葉に、思わず膝を打つアイデア・プロダクトを日本から発信している。キーボードに立てる伝言メモ「Deng On」、耐洗紙のメモ「TAGGED MEMO PAD」でグッドデザイン賞を受賞。人気シリーズ「WORKERS'BOX」好評発売中。

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