反君主の年 その2 【1000文字小説 #007】
(あらすじ)反君主の年として恐れられる千年王国紀666年を前に、フェリツ国の王、女王は、臣民を元気づける宴会を企画し、ご馳走のアイデアを募集している──
民から寄せられた便りを前に、王が思案する。
「その名も“キブロト・ハタアワ”……ウズラの苦いゼリー寄せ、か。モーセ達の宿営地の周りにうずたかく積もったウズラと、主の怒りによる疫病を再現しているんだな。考えたな」
女王も手元の用紙を王に示す。
「これもいいわ。ヨナ書からの発想よ。魚肉とハト肉をくるくる巻いて、じっくりローストするんですって。炎熱で焼くっていうのは、預言者ヨナへの主の戒めを表現しているのね。ぜんたいにエレガントだわ」
「大魚の腹に収まるヨナ……ヨナを焼く炎熱……ヨナは“鳩”という意味だからハト肉か。海藻で風味づけをするというのも、出典を読み込んだことが伺える。秀作だな」
「ヨナ書は短いからまとめやすいのね」
「でも、やっぱり旧約からのラインナップがどうしても多いなあ」
「新約は、素朴よね。パウロの目の鱗とか、テモテの水ぶどう酒とか。ミニマルというかコンセプチュアルというか、シュールだわ」
「君もなかなか審査員らしくなってきたな」
「何を偉そうに。……あら、でもこれなんてどう? 名付けて“荒野で叫ぶ者の声”。イナゴのソテー 〜野蜜のカラメリゼで〜」
「ふむ。洗礼者ヨハネも、なかなか洒落たものを食してたんだな」
「ヨハネが考えたんじゃないから」
王はある書を紐といたとき「ぐふう」と言って吹き出した。
「これは傑作だ! “少年弁当”!!」
「なによそれ」
「パンと魚、だ。主が5000人に給食をなさる前に差し出された、少年のなけなしの弁当を再現するらしい」
「もはやそれ、ネーミングが好きなだけじゃない」
「こういうものこそ素材が試されるんだ。最高にプリミティブだ!」
女王は王を無視して他を見分したが、すぐに顔を曇らせた。
「……ああ、やっぱり、来ると思ったのよ……こういうのも……」
「なになに?」
「“アケルダマ(血の畑)のユダ”よ。皿からこぼれ落ちるほど山盛りの血の腸詰め」
「ここまで来るとなあ……。ジョークと露悪の境界線は、やはりセンスが問われるよなあ」
「そもそもが、あなたの趣味の悪いジョークに付き合ってもらってるんだけどね」
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