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物語の登場人物を設計する

 「作らなきゃ」という思いが突っ走っている時、どうすればこの制作は終わるのか、初めは全く見えていない。

 先の見えない中では、先人の作品とか言葉が、暗い道の途中に点在する焚き木というか、こころの焚き付けだった。

 デヴィッド・リンチは、インタビューの中で「語り尽くす」という言葉を強調していた。一つの作品の中で言いたいことを全部言う。言い切るために作品を構築すると。J・K・ローリングは、駆け出しの創作者に向けて「物語は完成させること」と言っている。だから私も、どんな形であれ最後まで行って見せるという気持ちは初めから強く持っていた。

 狂気に近い状態だったような気がする。当時Mr.Childrenの『hypnosis』を連続で聴いていたけれど、「全てが思い通りにいかないことなんて、いい年して骨身に染みて分かってるけど、すんなり受け入れられもしない」という緊張状態がずっと続いていた。

今日も見果てぬ夢が 僕をまた弄んで
暗いトンネルの向こうに 光をチラつかす
叶うなら このまま 夢のまんま
もう 現実から見捨てられても 構わないさ

hypnosis|Mr.Children

 実際、現実よりも夢の方を選んで仕事を辞めたわけなので、この曲を片手間で作っていたらどうしてくれるんだいと思ったりもしたけど、桜井さんはきっとそんなことしないはず、魂から叫んでいるはずとか思わせる、この絶大な信頼は何だろう?


固まり始める

創作第二の月 後半

 創作2ヶ月目の後半である。物語世界についての重要な要素が湧き出してきていた。

  1. キャラクター設計の深入り、生い立ちの作成

  2. 物語の1/3が組み上がる。書き出しの舞台イメージが固まる

  3. 重要な資料が見つかる。資料の難易度が上がる


キャラクター設計の深入り、生い立ちの作成

キャラクター設計

 序盤に動かすキャラクターの造形が進んできた。この時は4人の主要キャラクターを固めていた。

  • 主人公(男性)

  • 主人公のサポート(女性)

  • 主人公の師的存在(男性)

  • 主人公の影の存在(女性)

 逆にいえば、これ以外のキャラクターの描写はまだまだ針金人間に近かった。まだヒロインもきちんと立ち上がっていない。

 前の記事で、キャラクター設計は履歴書方式ではなく、ストーリーテリング上での「主人公の役割」や他のキャラクターとの関係性を踏まえたと書いたが、言葉で説明すると難しいので、当時のノートを掲載する。

 左に円があるが、これが主人公の人格をなす。

 ロバート・マッキー式のキャラクター設計では、主人公には相反する要素が共存していてもいい。何か一つの属性に特徴づける必要はない。むしろ矛盾こそが立体的な人物を作り出す。その他の登場人物は、主人公との関係性の中で、主人公の矛盾を際立たせるためにある。主人公は一貫して矛盾していることを表現する必要がある。以下は私が作ってみたキャラクターである。

 主人公は、家族を愛していて、自分の妹については無条件に受け入れ、助ける。主人公の愛情深さを説明するために、彼に甘えるという脇役を設定する。一方で主人公は執念深くもあり、自分を傷つけたかつての恋人を完全に許せてはおらず、心の片隅に元彼女への闇を抱え続けている。元彼女からっとした人物で、主人公に自分の子供の世話も任せたりするが、かつては主人公と妹の関係性に入っていけず嫉妬をしていた……。妹は兄に甘やかされるままに精神的に自立できないで育ち、夢見がちでいつつエネルギーを持て余してもいて、田舎者の兄とは別のタイプのギラギラした悪そうな男に惹かれて現実逃避を図っている……。

 主人公に十の矛盾を用意したとしたら、主人公に呼応するキャラクターにも二、三の矛盾を用意しながら組み立てていくと、物語のエピソードも生まれてきやすい。

キャラクターの容姿

 子供の頃、あるゲームのノベライズに夢中になっていた。それによると、登場人物の容姿が事細かく、華美なまでに描写されていて、子供心に耽溺したものだった。真似をして書いてみた物語でも、やはり、登場人物たちの容姿をどれだけ言葉で再現できるかにこだわり、自分の表現力の乏しさ、幼稚さに愕然となったものだった。小中学生にして自分にはとても物語は紡げないと失望し、筆を折ったのはそのせいかもしれない。おいおい。

 その後文学小説も読むようになり、容貌の描写が最低限だったり、主人公によっては着てる服とか持ち物以外にはなにも情報がないというものも珍しくないことに衝撃を受けたりした。

 この作品の制作序盤でも、主人公の着ているものとか乗り物とかにおいて、ある程度詳細に説明できるようにスケッチを試みている。しかし、誰も見たことのない世界を描写するのにどれだけの複雑な言葉が必要だろう。それに、小説は半分以上は読者の経験や想像力に信頼するところが大きいのだ。

 最終的には、必要と思われるキャラクターによっては髪の色や目の形、服装を描写したが、特に主人公の容姿は想像の余地を持たせるためにあまり書きすぎないように注意をした。ハンサムかぶさいくかも明言しなかった。これは別の主要キャラクターが世に稀に見る美男子であることを強調するためでもある。そのように物語の中で設定された目的を踏まえて描写に濃淡をつけた。

物語の1/3が組み上がる。書き出しの舞台イメージが固まる

 第二の月の最後には、ごちゃごちゃと洗い出してきた物語の断片を整理した項目が残っている。

  1. 、故郷に帰ってくる。

  2. に再会。しかし死亡する。

  3. の棺を運ぶ。

  4. 医師に出会う。

  5. 医師を解剖する。の秘密を発見。

  6. 医師、秘密を発見したために偉い人に逮捕される。

  7. 医師偉い人、秘密を発見したために襲撃される。

  8. 襲撃者の逃亡、偉い人は戦闘不能に。

  9. 偉い人友達が現れる。の過去が明かされる。

  10. がかつて暮らしていた国へ、偉い人が旅立つ

  11. 途上でまた襲撃に遭う。

  12. 撃退。襲撃者が仲間に加わる

 要約だけ眺めてみると、すごくよくありそうな話がてんこ盛りである。眺め直してみると、冒頭の[2.妹が死ぬ」という契機事件らしい山場はあるものの、[1.妹が帰ってくる」というのは「カルメン、故郷に帰る」みたいなクリシェの塊すぎて、当時の自分でも気になったのか、「序盤の前半」もっと違う事件を持ってきて、「1.妹が帰ってきて〜」から「9. 妹の過去」の流れは「序盤の後半」に展開されていくことになる。[10.旅立ち]〜[12.新しい仲間]は[9.]までの流れに組み込んだり、没にしたり、完成品の中盤に持って行ったりしている。

 妹が死ぬまでの顛末と、妹が死んで兄自身も過去への精算を済ませる、という流れを丁寧に書くことにより、完成品の1/3が作り上がった。35万文字の1/3なので、通常の物語ひとつ分がほぼ出来上がったということだ。今後はここまでの作業や文字量を参考にしながら、一つの物語を構想するのに役立てることができるだろう。
 12万文字程度というのは、主人公と相手役の関係性を丁寧に描いてちょうど終わるくらいの分量だということになる。

 第二の月下旬には、noteで開催されていた漫画原作公募に、この作品を応募することを見据えていたようだ。応募要項には3話分のエピソード(約2万文字)を応募してくれとあり、そのためにも序盤にインパクトのある事件を盛り込むべく、今にして思えばたいそう露悪的なシーンを考え出していた。発想を振り切ってみるのは悪いことではないと繰り返し言いたいが、「この物語は何のために存在しているのか」制作を通して考え続ける中で、思い切って書きなおす勇気も必要になってくる。


重要な資料が見つかる。資料の難易度が上がる

 長い時間書き続け、考え続けているのだから、読むことに関しても習熟してくる。以前は読み込むことができなかった資料とか、素通りしていた専門書にも目が開かれてくる。

 世界観の設定を進めるうちに、都市計画、共同体、エネルギーについて広く深く調べることになった。新しい知識を得るというのは、その巨人に自分が斃されないかの恐怖と戦うことでもある。知らない間に知識に飲まれていて、進む方向を間違ったらどうしようとか。

 何にでも言えることだが、挑戦しないことの大きな理由の一つが、「できない自分に出会いたくない恐怖」があるからではないだろうか。「まだ力がない自分」「器用じゃない自分」「理解できない自分」に出くわしたくないから、挑戦しない方が安心していられる。

 しかし、その恐怖は分厚い本をとりあえず開いてみるとか、100メートル走ってみるとかで消えてしまうことの方が多い。



 何者でもないアラフォー女性が、35万文字の物語を完成させるためにやった全努力をマガジンにまとめています。少しでも面白いと思っていただけたら、スキ&フォローを頂けますと嬉しいです。


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