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物語を書き上げることと、仕事


仕事もそれなりに重要だった

 創作ノート(1)の初めの数ページには、当時の仕事のメモが残っていた。創作ノートはそもそも仕事用に買っていたのだった。

 上司との評価面談で話すことが羅列してあった。この仕事で未来を見ていたんだな……と思うまでもなく、がんがんに仕事をやりまくっていた自分の精神状態がありありと蘇る。まだ完全に過去の記憶ではないのだ。

 それなのに2023年の後半以降は作ることだけを考えるようになっていく。

 当時の仕事は、わりとやりたいことができていたように思う。仕事を広げていく展望もあった。もっとできるようになりたかった。最終的な私の仕事への想いはそこに終始する。もっといい仕事をするために、引っ越すことさえした。

手に入れる為に捨てるんだ 揺らした天秤が掲げた方を

同じドアをくぐれたら|BUMP OF CHICKEN

 天秤はどれだけ重いかを重要としない。相対的に軽重があれば傾く。仕事も大事だったけれど、作ることのほうが僅かにでも勝ち、それだけに両方持つには重すぎたので、軽い方を捨てたのだ。


仕事から学んだこと

 noteを読んでいると、兼業作家の方も、かつて兼業作家だったという方もいる。海外の有名作家で、この方は書物以外の仕事で得る知識を創作に転化しているんだろうという方がいる。もちろん、学者で物語作家という方もいる。

 私に関して言えば、「この仕事が私のキャリアを作る」くらいまで突進していた仕事があったからこそ、初めて長編に挑んだに関わらず、35万文字を書き切るだけの気力、体力、自信、盲信、情報管理力とか粘り強さが発揮できた。

 むしろ辞める前の怒涛の半年があったから、創作意欲の導火線に引火したんじゃないかとすら感じている。

 仕事で得たその職業独特の知見が役立ったというよりは、実作業以外のオペレーション部分や進捗管理への貢献が大きい。作品へは「組織の中で人はこういうふうに考えて動く」とか「組織の中に異端児がいたり事件が起こると、割と簡単に波風が立つが、最終的には変わらないことが多い」とかいう、背景的なことを盛り込んだ。


三つ子の魂百までの真実味

 作品作りの振り返りをしたくなったきっかけの一つが、過去の文章にある。

 2016年にもまとまった文章を書こうとしていた痕跡があり、3000文字ほどの草稿がiCloud上にあったのだ。
 7、8年前である。「原稿は寝かせろ」と説くスティーヴン・キングも太鼓判を押してくれるであろう、ほかほかに発酵した文章だ。

 読んでみて、「良く書けてる」と思った。

 2024年に長大な文章を書き切って、自分なりに筆力がバカ上がりしたぜ! とかいい気になっていたが、2016年の時点で書きたいと思っていた文章と大きく違うかというと、細かいレトリックへのつっこみを除いてはさほど変わっていなかった。それが結構な衝撃だったので、今こうして自分の作文生活を位置付けてみたくなったのだ。

 じゃあ何が違うのかというと、ひとえに「完成させてない」ことに尽きる。当時の私には物語の着想力はあっても完成させる力がなく、価値もわかっていなかった。「啓示が降りてくれば書ける」とか思っていたんだろう。天啓ファーストの創作態度である。


散歩のついでに富士山に登った人はいない

 作品を仕上げるにはそれなりの執着が必要だ。作品を作り上げていく生活の中で、日々受ける小さな天啓や偶然の一致によって励まされて仕上げていくのだ。「日毎の糧を今日もお与えください」と毎日祈りながら少しずつ書き上げていく。

 執着はカッコ悪い。当時の私はまだまだカッコつけだった。2016年から2年たち、その後6年続いた仕事に就くことになったが、その仕事を通して本当の社会人にならせてもらったと思っている。「やり切る」という事の集大成がその仕事にはあった。自分が本当にやりたいことではないから、できてもできなくてもいい、結局何も変わらんだろ、という思いを一旦脇に置き、カッコいいことも悪いことも併せ飲みながら進み続けた。

 先ほど組織はなかなか変わらないと言った舌の根も乾かないうちになんだが、長い時間の中では変わらないことなど絶対にない。それでも人間の営みが本質的には変わらないとしても、自分の周りの小さな社会のなかで、仲間と力を合わせて一つのことを目指す瞬間にしかないものがある。

 創作と社会生活はよくテーマに上がるが、どのような道を選ぶとしても、目の前のことを一所懸命やればよいと考える。

これからの自分と仕事について

 今は無職だが、目の前にやるべきことがあれば自分は切り替えて取り組むだろうとわかっているので、心配していない。

 年をとる事の利点として、自分に必要なものがわかってくる。20代の頃は自分になくてはならないものはもっと多いと思っていた。今現在は、書き続けるために、自分を保つために必要なものだけあればいい。あくまでそれは最低限でいいということではないが。

 自分は兼業作家になるのか、社会人に戻るのか、物書きでいることを目指すのか、今は保留期間だ。少なくとも、あと数ヶ月は作ることに集中できそうだ。それなりに長い物語がもう一本生み出せるだろう。何者でもないにしても、創作することにだけ集中できるまとまった時間は、もしかしたら社会人を退くまでもう持てないかもしれないのだ。



 何者でもないアラフォー女性が、35万文字の物語を完成させるためにやった全努力をマガジンにまとめています。少しでも面白いと思っていただけたら、スキ&フォローを頂けますと嬉しいです。


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