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上原正三さん死去。『帰ってきたウルトラマン』で差別問題を扱った脚本家が遺したメッセージとは?/1月9日ハフポスト日本版(著者:安藤健二)

ウルトラマンをはじめ、特撮の脚本家として知られる上原正三さんが1月2日肝臓がんで死去した。82歳。

タイトルにある差別問題とは、帰ってきたウルトラマン第33話「怪獣使いと少年」のこと。上原さんがどんな思いだったのか探ってみたい。

宇宙人だと言われていた少年は、大人から無視され、年上の子供からは壮絶ないじめにあっていた。彼は中年男性を匿っており、この男こそがメイツ星人だった。そんな事情を知らない大人は集団で少年を襲いに来る。

全く救いようのない展開。子供番組であるのに、癒しや楽しさは皆無といっていい。

注目すべきは3点。

1.「少年はなぜ宇宙人だと言われているのか」

冒頭から少年はいじめられており、明確な理由は描かれていない。(正確には、そう思わせる描写はあるが、登場人物たちは知らないはず)

これは上原さんが沖縄出身であることが関係している。沖縄は、GHQの占領下にあった日本の主権が回復された後も米軍の統治下におかれており、日本に復帰するのは1972年のことである。

当時、沖縄から本土に渡るためにはパスポートが必要だった。ということは、沖縄は日本ではないのである。上原さんも「琉球人だ」と思っており、上原さんは基地問題に関してこんなことを言っている。(※1)

「これが沖縄とヤマト(本土)の溝、沖縄は本当に日本なのか」

上京した上原さんは、沖縄出身ということで差別を受けた。「この差別の正体を知りたい」と。

※1、朝日新聞デジタル(2016.8.22)

2.「ウルトラマンは人類を見捨てた」

大勢の大人たち(警官も含む!)に襲われた少年を助けようと、メイツ星人が飛び出したところ警官に射殺されてしまい、メイツ星人によって封印されていた怪獣が姿を現した。大人たちは助けてくれと叫ぶのだが、

「勝手なことを、怪獣を出したのはあんたたちだ」

そうウルトラマンが思うほどの集団による狂気だった。関東大震災の朝鮮人虐殺のときのような、集団による狂気だ。これも上原さんが伝えたかったこと。沖縄出身の上原さんの感情が込められている。

沖縄は日本から見捨てられた。

そして少年はアイヌの血をひく設定。それは琉球人も朝鮮人も、実際に震災の時のデマで殺されているから。ウルトラマンは物語なので、震災時に殺されていないマイノリティを選んだらしい。(※2)

そう一口にマイノリティといっても色々だ。

3.「1971年」

今作が放映された年で、この6月に沖縄返還協定の調印式が行われている。

本土復帰を誰もが喜んでいたわけではない。上原さんは「今までアメリカに支配されていたところに、更に日本からの支配を受けるのかと思うとうんざりした」と。(※2)

記事のなかに印象的だった上原さんの言葉がある。

「自主規制がはびこると作品自体を貧しくしちゃう気がします。作家の想像力までを規制してしまう。表現の自由の中には、自分の良識の範囲内でというのも当然あるが、クリエイティブの世界では、ある意味での狂気は必要だと思うんですよ」

上原さんは、ケチャップが嫌い。それは戦時中、食料が尽きてケチャップを主食にせざるを得なかったから。

現在「怪獣使いと少年」は欠番にはなっていない。歴史は確かに存在し伝えようとしてくれているのだから、隠すようなことはしてほしくないと切に願う。

※2、知識情報オピニオン 第19回 上原正三「戦争と想像力」
わたしは琉球人である (2017.10.31)

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