臍から歯がはえた

妊娠6か月、お腹が大きくなってきた。
これまでの人生で太ったことはあるが、その場合は脂肪ばかり増すのでお腹はふにふににたるみ、なんなら段にさえなり、臍は横に押しつぶされる。
ところが、妊婦のそれは内側から徐々に拡げられていくので、ぱつぱつして臍も開いてゆく。

わたしには自分しか知らない秘密がある。
でも……noteに書いたら世界中どこからでも誰からでも見られてしまうから恥ずかしいな。今からものすごく高い有料記事にでもしちゃおうか。まあいいか。
秘密。それは、臍の中にほくろがあるということである。
初めてそれを知ったのは10代かそこらで、臍の手入れをしていた時のことだ。
ベビーオイルと綿棒をつかって、人生で初めて臍のごまというものをとっていた。その時見つけたのである。すでに目立つ汚れは取った後のことだった。
「おや、でかいごまだ」
奥の方なのでかなり広げないと見えず、わたしは変な姿勢でそれと戦った。
でも、なかなかとれない。へそも赤くなってきてしまい、臍や身体のあちこちが痛くなってくる頃に、これはごま、というか垢ではなくほくろであると気づいた。
立体的で茶色くて、いかにもとれそうなのにとれない、なぜこんなところに……と一瞬思案に暮れたが、そのことはすぐに忘れた。なにしろ、臍の奥地の話である。誰がわたしの臍をよーく広げて奥の奥まで見るというのか。
以来、たしかに臍の手入れをするたびに目にはしていたが、そのほくろのあたりまで進めばもう見た目にはほぼ完璧な状態になるので気にしていなかった。

のだが!

ここのところ、秘められた蕾が開くように、臍がご開帳を始めてしまったのだ。
えっ、そんな。そんなに広げたら奥まで見えちゃう。恥ずかしい。

安心してください。画像はありません。

たしかに素敵なマタニティフォトを見た時に、臍が真っ平らになったお腹をしていたなあ。それに近づいていっているんだなあ。
としみじみ思いつつも、自分だけの秘宝だった臍のほくろがもう、どこからでも見られるかたちになってしまったことにわたしは戸惑っている。
わたしの認識では、身体の他の部分に立体的なほくろはない。そんなレアなものがひっそりと臍の奥地に存在することは、自分だけの秘密だった筈なのに……。
(自分の臍の緒が取れた時のことが関係しているのかな?という仮説も立ててみたけど、真相はよくわかりません)
まあ、それを目にするとしても夫や母などの親族か医療関係者に限られると思うので、大した問題ではないのだが、ぱかんと開いた臍のそれを目にするたびになんともいえない気分になるものだ。

そんなことをなんとなく考えていたら、開いた臍から歯が生えてくる夢を見た。
臍がどんどん大きくなり、唇のようにめくれてきて、その内側に小さく不格好な歯が二、三本生えていた。
ものすごく気持ちが悪い見た目だった。もちろん、件のほくろもその下に存在していた。
今にもよだれをたらしたり、ものを食べそうなその歯を思い悩み、「妊娠 臍に歯が生える」とグーグルで検索したが何もひっかからずに、しかし検診の日が近づいてくるのでその時にはお腹を出さなければならない、どうしよう、自分で抜こうか、いや歯だから歯医者で抜いてもらえるのか、臍の歯を……と途方に暮れるあたりで目が覚めた。
悪夢である。
起きて確認してみたところ、ほくろだけがひっそりとある、ふつうの臍だった。ほっとした。
人面疽のような、というか、ホラー向きなネタなので、そのような小説を書こうかなとも思ったのだが、それもなんだか気持ち悪い話にしかならないうえに妊婦自らががわざわざ書くようなものでもないような気がして、そっとnoteに置いておく。

ここで教訓。
どうせバレないからいいやと隠していたものは、いつか思わぬタイミングで明らかにされることがある。

安心してくださいね、画像はありませんから。

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