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ペットショップというビジネス第4章:売ったらおしまい

前回まで、ペットショップの不思議な料金システムをご紹介しました。今回は別のお店で、「お客さん対応」について問題を感じるケースです。ある愛犬家さんの経験ですが、ご本人から了承をいただきご紹介します。

遺伝病と闘うコタローくん

2歳半になるチワワ「コタロー」くんの闘病と飼い主さんの看病の様子がつづられたブログがあります:

コタロー セロイドリポフスチン症 「3歳までは生きれません」
 難病と闘うチワワの闘病記録

ご家族のお気持ちやご苦労を第三者が簡単に理解することはできません。ですので、ここではブログに書かれたことをあえて簡潔にご紹介し、ペットショップの対応という面に焦点を当てます。

でも、コタローくんが「3歳までは生きられないと思います」と診断された時のお気持ちは、分かる気がします。平蔵の首に遺伝性の「爆弾」が見つかった時、多分、私も同じ思いだったと思います。

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神経セロイドリポフスチン症

コタローくんは、体がある酵素を作ることができないために起こる「神経セロイドリポフスチン症」(NCLs)という病気に苦しんでいます。老廃物が分解できず、体内に蓄積していきます。

目が見えなくなったり、うまく歩けなくなったり、けいれん発作が出たりなどの神経症状が現れるそうです。人間にもある病気ですが、治療法はなく死に至る病です。

NCLは遺伝子検査が可能

遺伝性疾患であるNCLsは、どの遺伝子に変異(異常)があるのかによって人間では1型から14型まであります(9型は欠番)。

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犬の場合も種類があります。IPFD(The International Partnership for Dogs)という国際的な団体が9種類の型と好発(発症しやすい)犬種に関するデータを公開しています。

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これも一部に誤解があるようですが、

チワワのNCLsも検査で分かります。チワワの場合は主に7型のNCLで、異常を引き起こす遺伝子は「MFSD8」と同定(= 特定)されており、ここに変異(「c.843delT」という)が生じます。

IPFDによれば、日本ではアニコムさんが1、5、6、8型の遺伝子検査を既に実施しています。同社のウェブサイトには、ミニチュア・ダックスの欄にNCLが書かれているので、2型の検査もやっているようです。

チワワの7型を含め、変異遺伝子が同定されている遺伝性疾患に関しては、次世代シーケンサーなど現在の設備で検査は可能です。最近更新されたコタローくんのブログによると、アニコムさんが検査を始めるようです。

コタローくんとママさんのお陰で、
将来、救われる
チワワの命もあるでしょう!

両親から受け継いで発症

以前、優性遺伝と劣性遺伝についてご紹介しました。NCLsは劣勢遺伝の遺伝病です。お父さん、お母さん両方から原因となる遺伝子を受け継がなければ発症しません。治療法がない病気ですが、

遺伝子検査を行って
計画的な交配を行えば
間違いなく防げる病気

でもあります。

かわいそうな子が産まれないように…

コタローくんは2019年8月に4人家族の末っ子として迎えられました。当時を振り返るママさんのブログから、愛情いっぱいに育てられた様子がうかがえます。

そんなコタロー君に、治療法のない遺伝性疾患が見つかったのは去年の5月。飼い主さんはすぐに、お迎えしたペットショップに連絡したそうです。お父さん犬やお母さん犬が、まだ交配に使われていれば「またかわいそうな子が産まれてしまうかもしれない(ブログより)との思いからです。このことをブリーダーに伝えて欲しい旨、電話でお願いしたそうです。

不信感を招くペットショップの姿勢

でも、その後お店からは一切連絡なし。カスタマーセンターに問い合わせたメールにも、非常にドライな返信があっただけだったそうです:

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しびれを切らした飼い主さんが、9月にペットショップを訪問して判明したのは、

この件が放置されていたという事実…

半年が経過して…

初めてショップ側から電話連絡があったのは、その数日後だそうです。「地域統括マネージャー」なる方から、これまでの対応に対する謝罪があり、ブリーダーときょうだい犬の飼い主に連絡することを約束したとのことです。

さらに数週間待って、やっと報告があり、1)ブリーダーは2年前に廃業し、お父さん犬・お母さん犬は違う所で暮らしている;2)きょうだい犬の1頭については飼い主さんに連絡した;3)もう1頭のきょうだい犬の所在は不明、ということだったそうです。

ここまで、ご家族がペットショップにコタローくんの遺伝性疾患を報告してから、すでに半年が経過していました。複数の命に関わる問題ですが、

ペットショップ運営企業の対応に、
プロとしての意識は感じられません。

「当社規定の遺伝子病検査」

このペットショップのウェブサイトには、

「ご家族として迎い入れた後に遺伝子検査上リスクが判明した場合は全額返金致します(原文ママ)」

と書かれています。「Q&A」にはもう少し詳しい説明もあります:

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コタローくんが発症した遺伝性疾患は、神経セロイドリポフスチン症です。この会社の「規定の遺伝子病」ではないので、返金はできないと言われたそうです。

チワワ

また、「保障プラン」に入ってないので、治療費の負担も難しいという回答だったそうです。理不尽には感じておられると思いますが…、飼い主さんはお金を望んでいるわけではないと感じます。

ココは私の想像ですが、一番納得出来ないのは、この事業者から

飼い主さん(= お客さん)に
寄り添う姿勢が一切見られない

ことではないかと思います。「統括マネージャー」が飼い主さんの前に顔を見せたことはないようです。「また連絡します」と電話は切られたそうですが、未だに「なしのつぶて」だそうです。11月末に電話をかけたところ、「本部で検討中」という返事だったとのことです。

姿勢の問題

コタローくん、毎日お薬を飲んだり頻繁に通院したり大変だと思います。真夜中にてんかんの発作を起こすことも少なくないようです。ご家族は精神的にも肉体的にも大変な日々を過ごしておられるはずです。

このペットショップ運営会社が、

・真摯な謝罪の姿勢を見せ、
・同じ不幸を起こさないための「プロらしい」具体的な方策を立てれば、

ご家族の気持ちが少しは癒されるかも知れません。もちろんコタローくんの病気が治るわけではありませんが…。

ママさんのブログにはこんなくだりがあります:

規定の遺伝子病じゃないからと
知らんぷりはひどくないですか?
実際に何十万も検査や治療費にかかり
治療法はなく余命も告げられている
飼い主の気持ちがわかりますか?
目が見えなくなってわけがわからない
発作も起こしてしまうコタローの苦しみ
がわかりますか?

プロとは?

健康診断にもれなく別料金を取ったり、病気の補償に高額なオプションを購入させたり、前回までは販売のシステムについてペットショップのやり方を問う内容でした。

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今回は、人間的な部分も含め、商売する「姿勢」という面でペット業界のおかしなところをクローズアップしてみました。

これまでも繰り返し書いてきましたが、すべての病気が事前に分かるわけではありません。分からないものの方が、まだまだ多いでしょう。チワワのNLCは、日本ではほとんど認識されていなかったようです。平蔵の首も同じような状況でした。

病気になってしまったことは、私たち飼い主は受け入れる他ありません。受け入れて、できる限りのことをします。

平蔵環軸

じゃ、事業者は?

分からなかったとはいえ、自身の責任からトラブルが生じた時は、正面から向き合い、謝罪すべきは謝罪し、原因を究明し、対策を講じるのがプロの仕事ではないでしょうか?繁殖屋、ペットショップを問わず、

この業界には
大きな課題が
少なくありません

風当たりが強くなっている生体販売業界ですが、

その原因の多く
自らが作り出したものでしょう

第4章のキーメッセージ:ペットショップに限らず、「何かあった時」の対応に本当の姿が現れます。コタローくんのエピソードは、フード抱き合わせ販売で有名な某店の姿勢を、よくあぶりだしていると感じます。

最後にダークサイドから本音を:あなた方が商材として「適当に」扱っているのは「命」です。そして、その1つ1つの命には「家族」がいます。それくらいは、理解できませんか?ビジネスと割り切るとしても、社会から理解されるようなやり方は、いくらでも思いつきますが…