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【超ショートショート】(137)~北風に愛染める明るい王様~☆CHAGE&ASKA『北風物語』☆

冷たい秋の北風が吹く日に、
些細なことでケンカとなり、
あなたは家を出ていってしまった。

私たちは、
紆余曲折ありながら、
やっと友人の協力で一緒になったふたりだった。

何度も切られそうになる愛の糸を、
お互いにこっそり胸の奥で守ってきた。
「絶対に切れない!絶対に繋がっている!」
そう信じて。

あなたが出て言ってから、
私も少しケンカの余韻まかせに、
ついふたりの名字が書いてある玄関の表札を、
はずしてしまった。

力まかせに、床に叩きつけて、
表札は割れてしまった。

そんな頭の怒りとは別に、
心は冷静に今の状況を眺めていた。

少し頭を冷やそうと、
洗面台で顔を洗って、
ふと鏡に映る
愛染明王(あいぜんみょうおう)のように、
真っ赤な怒りを携えた表情が消えない
自分を見てしまった。

なぜ、そんなに怒りに狂うのか?

私には、
哀しい過去がある。

子供の頃、幸せになりたいと思って、
父のため、母のために、
良い子でいたつもりだった。

そんなある日、母が家に帰らなくなり、
父とふたり暮らしになった。

それから私が小学3年の頃、
いつものように夕方5時に学童を出て帰宅。
ご飯を炊いて、
お豆腐とわかめと油揚げとネギの味噌汁を作って、
キャベツの千切りをしてサラダをお皿に盛って、
父が買ってくるコロッケの居場所を広めに取って、
父の帰宅を待っていた。

だけど、夜7時になっても、
夜8時になっても、夜9になっても、
夜12時なっても、朝6時になっても、
父は帰って来なかった。

用意した夕食も食べずに、
待ち疲れて眠っていた。
そして、朝食も食べずにまた学校へ。
「今日はお父さん、戻ってくる!」
そう信じて。

結局、父は帰って来なかった。
約2ヶ月、
父が居ないことを誰にも話さず、気づかれず、
父のヘソクリをみつけて、
小学3年で一人暮らしを経験した。

夜の風の強い日は、
アパートのドアが風に叩かれ、
まるで父が叩く音に似ていて、
朝まで一睡もできなかった。

また、階段を歩け足音、廊下を歩く足音が、
いつも父のものに聞こえて、
テレビはいつも小さくして見ていた。

大人になって、
やっと愛の糸で結ばれた人に出会ったと
信じていたのに、
今は愛染明王のような赤い怒りの顔をして、
その愛の糸さえ切ろうとしている。

でも、どこかであなただけは信じていた。

大人になってから、
父と再会した時、あなたは私の代わりに
父を叱ってくれた。
私が言いたかったことすべてを話してくれた。
そして、
そんな父を許し、受け入れてくれた。

どんなにあなたに感謝しているか、
あなたは知っているのかしら?

あなたが居なくなってから、
ずっと北風が吹いて寒いし、
ドアを叩いて困っています。

今日はやけにしつこいから、
大家さんに文句でも言ってやろうと、
とりあえず、
ドアの向こうに人が居ないことを確かめるために
玄関へ。

「(ドアを叩く音)ドン、ドン!
おい!早く開けてくれ!」

あなたの声がした気がした。
嘘だと思って、玄関の覗き窓から
ドアの向こうの人にわからないように、
気配を消して、ゆっくり覗いた。

「あっ!どうして?」

「おい!早く開けろ!」

玄関の前で、あなたがいることを、
どう理解したらいいのか?
玄関を開けていいのか?
またケンカしにく来たのか?
それとも別れを告げに来たのか?
自分の荷物を取りに来たのか?
そんな悩みでいっぱいになっていると、
あなたはドア叩いて、私を焦らせた。

「とにかく開けてくれ!」

私は何で震えているのかわからない身体で、
ドアを叩く音から逃れるために、
玄関を開けてしまった。

「ほら!」

「・・・(困)」

「ほらったら!」

「・・・何?」

「今日、お前の誕生日だろう?」

「今日は、誕生日じゃないわよ!」

「だから誕生日だよ!」

「違います!(笑)」

「ほら月命日があるみたいに、
月誕生日もあって良いんじゃないか?(笑)」

「・・・(笑)」

「何だよ!笑ってないで、早くケーキを受け取れ!
店で一番大きなデコレーションケーキを
買ってきてやったんだからな(笑)」

「・・・うん!(笑)」

その日の夜は、
何度も玄関を北風が叩いたが、
愛染明王から
京都にある永観堂のみかえり阿弥陀のように、
私の後ろに隠れるあなたを、
何度もふりかえり見つめた。
そして、
あなたは奈良の東大寺の
戒壇堂(かいだんどう)の四天王立像のような
男らしい胸のなかに私を入れるまで、
こわい表情を遊ばせ、
ポンと私を胸のなかに閉じ込めると、
中宮寺の
如意輪観音(にょいりんかんのん)みたいな、
穏やかな微笑みで私を見つめた。

私は、別の意味での、
愛染明王になるしかなかった。
(幸)。


(制作日 2021.10.18(月))
※この物語はフィクションです。

今日は、
1982年10月25日発売 シングル
CHAGE&ASKA『北風物語』
まもなく発売から「39周年」

その『北風物語』を参考にお話を書いてみました。
この曲は、
1番の別れと2番の幸せという物語があります!
そんなことを真似して、
今日のお話となっています。




(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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参考にした曲
CHAGE&ASKA
『北風物語』
作詞飛鳥涼・松井五郎 作曲 ASKA
編曲 平野孝幸
(1982.10.25発売シングル)
☆収録アルバム
CHAGE&ASKA
『熱い想い』
(1982.5.25発売)

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