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【(超)ショートショート】(7)~mebiusの生き残りゲーム~

ドイツのある地域に存在するという
「mebius(メビウス)」という都市。

だが、この都市の入り口を知る者はほぼいない。
地図にも載っていない、幻の都市。

ある研究者が、古い本から、
この「mebius」の地図を発見する。
その地図には、こう書いてあった。

「この都市には近づくな!
万が一この都市に入ってしまうと、
この世、つまり人間の世界には戻れなくなる。
だが唯一この世に戻れる方法がある。
それは・・・・・・・だ!」

研究者は、何の迷いもなく、ドイツへ向かった。
研究者には協力者はいなかった。
過去、「mebius」の話をしたことがあったが、
誰も信じてくれなかった。

「mebius」には何があるというのだろうか?

ドイツに着いた研究者は、
早速地図にある地域へ向かった。
研究者は、途中のコンビニやレストラン、
ホテルや通行人にまで、
「mebius」のことを知っている者がいないか
訪ねてみた。
だが、誰も知らないという。

かつて「mebius」は
世界中の人が知っている有名な都市だった。
現在は、4年一度のオリンピックだが、
「mebius」では毎年開催されていた。
オリンピックの発祥の起源は、
実は「mebius」だったという話も残っている。

研究者は、
「mebius」があると思われる小さな町に到着。
ここでしばらく情報収集をするつもりでいた。
まず敵を攻略するためには、
やはり事前調査はおろそかにできなかった。

ふらっと入ったBar(バー)。
数人の客がそれぞれ1人の時間を楽しむように、
Beer(ビール)とソーセージでくつろいでいた。

研究者も、それらの客と同じように、
Beerとソーセージを頼んだ。
研究者は、もともとBeer好き。
実は「mebius」の研究のほかに、
Beerの研究もしていた。
このBeerの研究とは、
世界中のBeerをどれだけ制覇するかだ。
そんなことだから、ご想像の通り、
母に怒られるくらいの
Beerラベル収集家であった。
この日の収穫は、10ラベルだった。

気づけば深夜1時、
もうそろそろ閉店も近づき、
帰ろとしたときのことだった。
ひとりの老人が話しかけてきた。

「mebiusに興味があるのかね?
ワシが案内してやろうか?
ちょっと高いけどな?(笑)」

翌朝、ひどい二日酔いの中、
老人との約束に間に合うように、
朝食もそこそこに、フル装備で、
待ち合わせの場所へと向かった。

待ち合わせ場所はカフェ。
二日酔い覚ましのコーヒーを頼んだ。
すると、モーニングが出てきたのだ。
日本で言えば、名古屋のモーニングが有名な、
ボリュームとヘンテコな料理が並んでいた。
店主が、

「これを食べるように言われています。」

コーヒーの脇に、手紙があった。

「残さず食べろ!」

詳しいことは話さないが、店主は、
老人の指示のもとに、
このモーニングを用意したのだろう。
とりあえず研究者は食べた。
そして、最後のデザートのケーキに手を伸ばすと、
店主が肩越しに、

「このケーキはすべて食べてください。
絶対に残さないで!」

少し変わった青色のケーキ。
見た目からレアチーズケーキを想像。
一口食べると、食感はレアチーズケーキだが、
香りが?奇妙にまずい!
食べきれない、我慢すれば食べられそうな
青色のケーキを完食してみせた。

すると、その完食を確認したかのように、
老人がやって来た。

「じゃあ、行こうか!」

深い森の中をしばらく走ると、

「ここで降りるぞ!」

車を降りて、草木に覆われた道無き道を、
老人は迷うこと無く、
時々研究者を気遣うように、
スタスタと歩いて行く。

「着いたぞ!」

緑の中に、ひっそりとわずかな光を放つ
洞窟の入り口が、そこにはあった。

「覚悟はいいな?」

研究者がうなずくと、
老人は洞窟の中へ入って行く。
研究者もその背中を追った。

老人は、ここに来るまでの車中で、
「mebius」について話をした。

「mebiusは、
一度入ると出られないというのは本当だ!
だが、1つだけ出られる方法がある。」
「それは何ですか?」
「お前さん、さっきケーキを食べただろう?」
「青色のケーキ?」
「そうじゃ!」
「少しまずかったけど、
店主が完食しろと言うので食べました。」
「あれが唯一の脱出方法なのじゃ!」
「はぁ?」
「まだわからぬか?」
「何がですか?」
「この町の人間は皆mebius出身なのじゃよ!」
「えっ!?
ではここはmebiusということですか?」」
「イヤ、それは違う。」
「じゃあ、どういうことですか?」
「それはな、mebiusでの生活に合わなかった者が、
この地球の暮らしを求めて、脱出したんだよ。」
「mebiusは苦痛何ですか?」
「イヤ、ちがう。
あまりに居心地が良すぎるのじゃよ!」
「居心地が・・・良い?」
「そう!だから家族を置いて逃げ出したんだ!」
「ご家族がいるんですか?mebiusに?」
「ワシに家族が居たらおかしいか?
こんな老人に?」
「いえいえ、そうじゃなくて・・・(苦笑)」
「まぁよい!(笑)。mebiusの出入りは、
ワシらは自由にできるから、
いつでも会えるのじゃ!」
「はぁー、そうですか?安心しました。(笑)。」

このほかの他愛のない話もしながら、
最後に老人はこう話した。

「良いか?mebiusに入ったら、
お前さんは、念ずればいつでも地球に戻れる!」
「はい。」
「さっき教えた方法と合言葉を忘れるな!
良いな?」
「はい。」

洞窟に入り、どれくらい歩いたのだろうか?
わずかな光だったものが、
突然に大きな光へと変わった瞬間、
mebiusの都市を見渡す高台へと出たのである。

「ワシはここまでじゃ!しっかりやれよ!」

老人に代わり、まるで妖精のような女性が、
研究者の手を持って、mebiusの都市まで、
案内しようとしている。
一歩一歩歩くうちに、
Beerで酔ったような心地よい気分になっていく。

「老人が話していたのはこの事だったのか!」

あれから何年経つのだろうか?
研究者は、地球へ戻って来た。
ドイツから何とか帰国すると、
そこには研究者の家も家族も職場も、
いや、町並み全部が変わってしまっていた。

研究者が地球に戻ったのは、
400年後のことだった。
が、研究者は、
mebiusに入った年齢のままの姿。
まさか436歳の老人には、
誰の瞳(め)にも映らなかった。

400年後の生活は苦労なくスタートしたが、
研究者を知る者がいないという現実が、
とても寂しくて堪らなかった。

ある日、朝食を食べるために、
いつものカフェに向かった。

「いつものモーニングを!」

少し太った小柄な、そう若くはない女性が、
モーニングを持って来た。

「モーニングです。ごゆっくり召し上がれ!(笑)」

ふと研究者が顔を上げると、
もう今は居ないはずのママがそこには居た。
声も身体もママそのものだった!

「ママ!」
「はい?」
「あっ、すみません。人違いでした。
あの~、お名前は?」
「私ですか?◯◯◯◯です。」
「えっ!(涙)」


いつだっただろうか?
老人はこんなことを言っていた。

「お前さん!良いか?生き残れ!」と。 

(制作 2021.6.11(金))

1987年に発売された
CHAGE&ASKAのアルバム『Mr.ASIA』
その2曲目が『mebius』である。
作詞作曲は飛鳥涼。

歌詞にある「生き残りゲーム」
この言葉をヒントに物語を書いてみました。
ショートショートなので、
曖昧な部分が多くあると思いますが、
読者のご想像におまかせします。

『mebius』という楽曲自体も、
不思議な妖艶なメロディ。
どんな世界へと向かうのか?
そんな歌詞でもあります。
ぜひ曲とあわせて聴いてみてください。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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(超)ショートショートに登場する楽曲は、
CHAGE&ASKA
『mebius』(1987年)
作詞作曲 飛鳥涼
★収録アルバム『Mr.ASIA』

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