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【超ショートショート】(53)☆愛温計☆~赤い糸を届けてくれる結び目~

♪君に逢う日は 不思議なくらい♪

と、私の側で、
子守唄のように、
私が好きな歌を歌う人がいる。

でも、歌が上手すぎて、
眠れず、耳をすましてしまう。
 
歌う人の息遣い、ギターのノイズ、
譜面にない音がたくさん聴こえてくる。
譜面にある音でも、
耳をすましてみたから聴こえる音もある。

歌う人が、眠れずにいる私に気づくと、

「何?聴こえてる?」

と話してくる。

でも、
私はマイクを持っていない。
どんなにお返事しても、
それは歌う人には届かない。

まるで、
ニュースの台風中継の
現場とスタジオのよう。
音声が現場から届かず、
「では、一旦スタジオに戻します!」
と、先を急ぐキャスターと、
現場の状況を伝えるために、
必死に豪雨や強風に耐えるリポーターのように、
どこか哀しいやり取りに似ている。

歌う人は、
今日予定している曲数をこなすため、
キャスターのように、
次の曲へ急いだ。

私は、
いつでも眠れるように、
ベッドに横になり、
肌触りがお気に入りの毛布を抱きしめる。

♪世は移れど 君恋しと♪

♪きっと幸せは♪
♪ほんのわずかな愛を見逃さないこと♪

眠るはずが、
つい口ずさむ歌を歌う人が歌ってしまう。
だから、
歌う人の歌い方を真似て口ずさむ。

少し朝に近づいた真夜中、
鼓動でドキドキしているのか?
動悸でドキドキしているのか?
歌う人の音が途切れて無音になる間、
自分の心臓のビートを確認。

どうやら、

♪体を流れる赤いパイプが♪

寒さで、

♪脈を打つかどうかの話にしたいぜ♪

と、わざと身体を震わせた音みたい。

♪冬は重ね着しよう♪

と、歌でコーディネートする歌う人を信じて、
お気に入りの毛布をもう一枚重ねてみる。

♪僕は君の側で 背伸びをする♪

と、本当に背伸びをされたら 
歌う人の歌が突如聴こえなくなる。

♪ワイパーの真似をしながら♪

私は、歌う人を探す。

♪やっと何処かで つながりながら♪
♪ガタゴト揺れる 線を描いて♪

いる、歌う人のマイクの線を見つける。

♪少し冷めた身体が♪

と、私の身体が気になる歌う人は、

♪夢を巡る毛布のなかへ 君を♪
♪また迎えに行こうか♪

と、本当に迎えに来て、
側で、また歌い始める。

私に、そっと掛けられた毛布は、
歌う人の歌熱により温められ、
歌う人の吐息と同じ温度に、
私の身体もなる。

♪息をきらし胸をおさえて♪
♪うっすら汗までかいて♪

しまうくらい、

♪身体にまとったかげりを脱ぎすて♪
♪薔薇より美しい♪

と、言われて嬉しくなって、

♪幾通りもある接吻(キス)♪

を選らばず、毛布にキッス。
毛布に恋するように、
目の奥が溶けた頃、

♪この日この時の気持ち♪
♪どんなだったか憶えておこう♪

と、力の限り毛布に身体を預ける。

「絶対、忘れない、この感動!」

そうつぶく誰かをよそに、
あまりの夢心地の気持ち良さで、
本当に夢の入り口に誘われて。

♪ダイヤモンドさえも 年を重ねてる♪

という店員さん。
でも、

♪僕らはきっとこのままで 何も変わらずに♪

♪俺たちはひとつ名で♪

♪はじめから 並んで いつも並んで いたような♪

そんな気持ちがする。

♪ジェット機が空を飛ぶ♪

♪桜三月の 空を埋めた♪

頃、

♪鳴り止まないサイレンの音♪

で、目の奥が赤色に染まると、

♪背中は寒いね♪

と、夢の出口に近づく。

♪花は咲いたか 夢は見えたか♪

と、歌う人が語りかける。
まだ、朝だと信じたくないでいると、

♪どうしたって 過ぎて行く 時の中さ♪
♪止まっても 運ばれて行く 時の中さ♪

と、朝、歌う人からのお小言が始まる。
仕方なく目だけは開けて見せる。

♪わずかばかり 抱き合っていたいんだ♪

と、またお気に入りの毛布が私を引き寄せる。

♪愛が愛に抱かれたら 人は人をくりかえす♪

♪君のそばで 今日も明日も♪
♪君を抱いて いつも眠ろう♪

カーテンを開けば、朝の日差しが、
夏の暑さを告げている。
テレビを見れば、
もう6時。
付けっぱなしの冷房で冷えた身体を擦りながら、
二枚重ねた冬の毛布をたたむ。

♪それはきっと見えなくて♪

結局、好きな歌を歌ってくれた人は見えなかった。

♪それはずっと消えなくて♪

でも、身体に残る毛布の感動は消えなかった。

♪ふたりだけが感じ合える♪

好きな歌を歌ってくれた人の息遣いを感じ合った、

♪結び目が ここに在る♪

耳を抱くヘッドフォン。
それが、 
あなたと私をつなぐ赤い糸の結び目。

また、今夜も誘われてみたいと、
ヘッドフォンに朝食代わりの充電を食べさせる。

(制作日 2021.7.26(月))
※この物語はフィクションです。
※「♪」マークは、ASKAさんの曲の歌詞です。

今日は、
2006年7月26日発売された、
ASKAさんのコンサートDVD
『My Game is ASKA』
発売から今日で「15周年」になります。

このDVDの全曲24曲中23曲の歌詞を、
繋ぎながら、特に『愛温計』を参考に、
夜、寝るときにヘッドフォンで、
DVDを楽しむ一人の女性を書いてみました。

好きな人の声を耳元に届けてくれるヘッドフォンは、
まさに恋のキューピッド。
毎晩、とろけてしまう感動と
恋心を忘れないように、
耳から目の奥の海馬に、
赤い糸の結び目を作ってくれる。

この彼女にとって、
ヘッドフォンをしている時にだけ、
本物の好きな人に逢える時間なのかもしれません。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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参考にしたコンサートDVDは
ASKA
『ASKA concert tour 05>>06
My Game is ASKA』
(2006.7.26発売)
★収録曲★
01.君が愛を語れ
02.birth
03.はるかな国から
04.風の引力
05.君が家に帰ったときに
06.In My Circle
07.背中で聞こえるユーモレスク
08.愛温計
09.good time
10.Girl
11.同じ時代を
12.月が近づけば少しはましだろう
13.you&me
14.共謀者
15.花は咲いたか
16.Now
17.loop
18.晴天を誉めるなら夕暮れを待て
19.next door
20.心に花の咲く方へ
21.抱き合いし恋人
~アンコール~
22.君は薔薇より美しい
23.cry
24.はじまりはいつも雨

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