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【超ショートショート】(225)~孔雀の背中に恋をして〈2〉~☆CHAGE&ASKA『One Day』☆

高校3年の夏。学校が夏休み期間中、
あの美術館も不定期に休館日を設けていた。

私はその何も調べもせず、
変な自信だけに腰を押される酔うに
美術館へ向かうことを決めたのである。

通学定期も切れていたため、
わざわざ切符を通常運賃で買い、
久しぶりに切符を自動改札機に投入。
何のお知らせの音もなく、
勝手に目の前に飛び出してきた切符を引き抜き、
いつもの定期入れに失くさないように
切符をしまった。

いつもは高校の制服姿で眺めている
車窓からの景色外界違って見えた。
夏の暑く照りつける陽射し避けるように、
冷房が強めに電車内を冷やす。
そんな冷たい冷房で、
身体が冷えないように、
持参した夏のストールを肩掛けした。

その姿が一瞬、
通過していく駅の屋根に陽射しが遮られ、
車窓が鏡になると映し出された。

「あっ!」という思いと、
「これで良し!」という思いとが、
車窓の鏡越しに2人の私が会話した。
今から絵を見に美術館へ行くだけなのに、
好きな恋人に会いに行くような心持ちに、
私は自分で驚いていた。

「私が好きになったのは、人ではないのに、
なぜ、会えるというだけで喜んでいるんだろう」

初めて恋をすると
人って変わるものだと知ったのである。
これまで人を好きになったことはあったはずだが、
「心の底から」と付け加えたら、
幼い頃を振り返ってもなかった。

電車のアナウンスが
高校の最寄り駅の駅名を伝えている。
「まもなく児歩鈴駅(じぶりん駅)、
児歩鈴駅です。出口は左側です。
この電車は次に参ります特急に、
次の紅駅(くれない駅)にて
追い越し待ちの待ち合わせをいたします。
重点の御湯亜駅(おんゆあ駅)に
お急ぎの方は、
次の特急へ当駅でお乗り変えください」

児歩鈴駅に到着すると左側のドアが開いた。
私はそのことに気づかなかった。
ずっと車窓にかすかに映るもう一人の自分と
恋話で盛り上がり、児歩鈴駅で降りることさえ
忘れていた。

電子の座席でパソコンに夢中のサラリーマンが、
発車のベルが鳴ると、突然「はっ!」と
辺りを慌てたように見回した。
駅名の書かれた看板を見て、
「ぱたん!」とパソコンを畳んで、
急いで座席から立ち上がると、
ドアのそばに立っていた私に
激しくぶつかりながら、
左のドアからホームに降りた。

サラリーマンにぶつかったショックで、
我に返った私は、目の前の見覚えのある駅に、
突然驚き、息を飲む。
そして開いている左のドアへ
走り出したが、間に合わず。
ドアに挟まれる寸前というシチュエーションを
同じ車両の乗客に見られていたことに、
恥ずかしくなり、途方に暮れてしまった。
乗客たちは、何も見なかったことにするように、
見て見ぬふりの気づかぬふりして、
スマホに、本に、車窓に視線を散らしてくれた。

そんな恥ずかしい失敗から逃げるように、
次の駅で急いで電車から降りた。
そして無事に反対側のホームから
すぐ到着した各駅停車に飛び乗った。
車内では、先ほどの失敗はしないように、
次の駅で降りることだけに集中した。

無事に児歩鈴駅に到着した電車から
ホームに降りると、
電車内での失敗談で嫌な汗をかいた
額と首筋の汗を拭いて、
そのまま何事もなかったような仕草で、
駅の改札へ歩いた。

自動改札機にいつもの定期入れをかざした。
「お客さん?切符は?」
と、駅員室の窓から駅員さんが尋ねた。
「あっ!そうでした!持ってます~切符!」
いつもの定期入れにしまい込んだことを
すっかり忘れていた。
自動改札機のゲートがしまったままになったので、
切符を手に駅員室の窓口へ向かった。

そこでは、1駅分往復した事を正直に話すと、
1駅分の往復分の運賃260円を請求され、
泣く泣く支払ったのである。

これから向かう美術館の入場料は300円。
そのうちの260円が電車代に消えたと、
高校生には痛い出費となってしまった。

駅からは、これまで失敗を忘れるように、
また町の商店のガラスに映る自分を探して、
身だしなみを整えながら美術館へと歩いた。

途中のパン屋さんの前で信号待ちをする間、
ガラスに映る自分を見つけて、
笑顔の練習をしていた。
すると、今まさにこの店一番の人気商品の
クロワッサンを取ろうとしたお客さんと見つめ合い、
クスクスと笑われながら、
青に変わった横断歩道を小走りで渡った。

「何でこんなにソワソワしてるの?」
と自分で自分に尋ねながら歩くうちに、
美術館に到着した。

美術館の入口に行くと、
いつものように開館中の立て看板は・・・
なかった。
その変わりに、
ドアに臨時休館を伝える紙があった。

「本日は都合により臨時休館と致します。」

私は、やっと好きな人に会えると
ここまで喜んできたことが、
急に恥ずかしさよりも情けなさに代わり、
すべての喜怒哀楽の思考が停止するのがわかった。

息することも忘れていた時、
「呼吸しろ!」と身体から
苦しいのサインがもたらされると、
深い深呼吸をして、
徐々に我に返った。

美術館の入口の前で佇むこと、
何時間の気分の数十分、
ようやく今日の再会をあきらめ、
家に帰る決意をした。

その時、肩を「ポンポン!」と叩かれた。
「どうしたの?」
と聞き覚えのある声の主。
「かっ、かっ、館長さ~ん!」
と涙声で館長にすがり付いた。
「おい!おい!どうした?今日は・・・」
「休館日って・・・」
「まぁまぁ、泣くな!休館日のことは、
美術館のホームページにも書いてあるぞ!
見なかったのか?」
「・・・はい・・・」
美術館は私が通いだしたこの約2年、
休館日はあったものの、臨時はなかった。
必ず見に行く日は開館しているイメージだった。

「今日はどうしたんですか?」
「今日か?」
「はい!」
「朝から病院だよ!」
「どこか悪いんですか?」
「いや違う、持病のかかりつけの担当医が、
いつもの休館日の木曜日に診察ができなくなって、
急遽今日病院に行く
スケジュールに変わってしまっただけだよ!」
「そうでしたか。お元気で良かったです。」
「ありがとう」

そんな会話をして、
私は美術館に入る事をあきらめ、
美術館から離れようとしたとき、
館長さんが話しかけて来た。

「もう帰るのかい?」
「はい、今日が臨時休館日とは知らずに、
来てしまったので、あきらめて帰ります。」
「なんだ!せっかく見に来たなら、入りなさい!」
「でも今日は」
「お休みだけど、私もお休みの日を利用して、
書類整理や掃除などをしてるんだなよ!
もし良かったら、あの絵見ていきなさい!」
「良いんですか?」
「もちろん!その代わり掃除くらいは
手伝ってくれるかな?」
「よろこんで!」

~つづく~

(制作日 2022.1.15(土))
※この物語はフィクションです。

今日はきのうのつづきです。
お話は、絵の中の背中の男(ひと)に恋をした
高校生が夏休みに、その男(ひと)に会いたくなり、
夏休みの猛暑日に家を出たら・・・。

恋をすると人は心ここにあらずになり、
何気ない失敗をするものかもと、
今日選曲したCHAGE&ASKA『One Day』の歌詞を
参考にしました。

今日のお話のつづきはあすの予定にしています。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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参考にした曲
CHAGE&ASKA
『One Day』
作詞作曲 ASKA 編曲 松本晃彦
☆収録アルバム
CHAGE&ASKA
『CODE NAME.2 SISTER MOON』
(1996.4.22発売) 
YouTube
【CHAGE and ASKA Official Channel】
『One Day』ライブ映像
https://m.youtube.com/watch?v=zGPVhDdSX-k

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