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芥川龍之介「仙人」を読んで

ネットで、芥川の「仙人」についての記述があり、興味を持って、かつて買って読んだ文庫本の中に入っているのではないかと思い、書棚を探してみると、忘れもしない、中一の夏に買って読んだ文庫本所収の作品でした。
ちょうど共通テスト対策国語で、芥川の「桃太郎」の文章を扱うことになっていたので、これはおもしろいし、生徒に伝えたいことともちょうど重なるので、演習の前にみんなで読むことにしました。

大阪での話。
ある田舎者が、仕事のあっせん所ののれんをくぐり、とにかく

仙人になれる仕事

を求めてやって来ます。
なんでもいいから仙人になれる仕事をしたいと言って、番頭を困らせるので、次の日までに探しておくから翌日に来るよう権助に話すのです。

その間に近くの医者に相談しますが、その奥さんが、狡猾な人で、その権助をタダ働きさせようと画策します。

大真面目に初日には紋付を着てやって来た権助はそれから一生懸命に働きます。
そして約束の20年目の日に、約束通り仙人になる方法を教えてくれるように頼むのです。
医師はもとよりそんな方法は知らないので、奥さんが知っていると言って逃げます。

ここで、計算をしてみました。
無休で働いてきたので、もし1か月20万だとすると、12か月で240万円。
それが20年ですから、訴えられたら、4,800万円の損害賠償請求をされることになります。
いや、債務不履行には、あ、債務不履行というのだから、仙人に慣れない場合ですが、奥方は、それでできなかったら、まだまだ修行が足りないと言って、あと20年タダ働きさせる気でいます。

このあたり、純朴な権助が哀れに可哀想になってきます。

生徒たちも、可哀想だと言っています。

奥方は高い松の木に登るように言い、それ以上高いところはなくなったところで、右手を離せと命じます。
権助は言うことを聞きます。
その次は左を離せと言います。
なんぼなんでもそれは下に石があるし、落ちたらただでは済まない、と医師の夫も外を見に頭を出します。

が、その瞬間、

おかげで仙人になりました・・・。

と言って、権助は空を一歩一歩高みに向かって歩いて行ったのです。

芥川らしい、裏にある真実を書かれた作品ではありますが、権助が最後に仙人になるところに、大いに昇華されるものがあると思います。
信仰にも似た純粋な思い。

正直、私は、こういう話が大好きです。

が、芥川はあの世で、

いやいや、実は続きがあるんだぜ・・・。

とイケメンの顔にニヒルな笑いを浮かべていそうな気もしますが・・・。

意外に、人生もこういうことってあるような、自分の人生を振り返って思います。

この権助のようなところが私にもあります。
周りの人を疑うことを知らない。
そして、何かあることが発覚した頃には、

なあんだ!

という驚きと共に、私は何らかの恩恵を被っているのです。
たとえば人財を得ていたり、信用を得ていたり、何らかの合格であったり、もっと言うなら、それをした人の失脚だったり。最後のは嬉しい類のものではありませんが。

どうせなら誰かを使った人なら、それ相応にしあわせになっている方がこちらも気が楽ですが、そうはいかないのが世の中のようです。
私の知る限り、そういう人は必ず因果応報めいたことになっている。

良くも悪くも。
そんなことを思わされた作品でした。

それにしても、中一の夏、私は夢中で芥川の作品を読んでいました。
ちょっと憂いのある、寂しい夏でした。
そんな雰囲気まで思い出してみると、ああ生きることがずいぶん楽になっているなあ・・・、と実感します。


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