ひつまぶし

大学院生です。暇つぶしに私見を書き連ねたり,思い切って短編小説を書いてみたりします。

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大学院生です。暇つぶしに私見を書き連ねたり,思い切って短編小説を書いてみたりします。

最近の記事

ベジータ

Tシャツ1枚では少し肌寒いある日、 僕はコーヒーチェーン店のレジの列に並んでいた。 僕の前には、4、5歳の男の子を連れた女性が並び、その前では、中年の男性がコーヒーを注文している。 「うーん、アイスでいいよな」 僕は、今日もまた夏を引きずって、 アイスコーヒーを飲むことに決めた。 そして、アイスコーヒーを買うためのクレジットカードを財布から取り出した。 財布から目線を戻すと、前に並んでいた4、5歳の男の子が振り返って、僕と目が合った。 言いたげな表情をしているので、 こ

    • どちらにしようかな?神様の言う通り…

      私には恒例の儀式があった。 2つのもので迷ったときには,それらを交互に右手の人差し指で指しながら, 「ど,ち,ら,に,し,よ,う,か,な。か,み,さ,ま,の,い,う,と,お,り!」と唱える。 儀式をするのに特に理由なんてなかったし, 神様の存在も信じていなかった。 数少ない友人に指摘された時も,「なんとなくだよ。」と答えた。 続けて,捻くれた友人がその文字数なら,最初に指をさした方が選ばれるんだと指摘してきても,儀式をやめることはなかった。 今思えば,私以外に,機械的にでもど

      • 処女作

        もうずっと前から,私は独りだった。 もうかれこれどれくらいだろう。思い当たらない。 以前,いつだったか,火災警報器の点検の業者がやってきて以来, 私以外にこの部屋に出入りする者はなかった。 ただ,私は孤独に慣れていたし, コントロールすることができる気がしていた。 というのも,私は,その研究室に一人しかいない博士後期課程の大学院生であった。 博士前期課程の頃から独りであったし,孤独の中で学問に没頭することこそ,大学院生なのだと信じていた。 私は,その日も研究室で独りだった