鑪ら場

久しぶりに鑪ら場へ行った。東京にいる予定の日だったけど、内藤重人ソロで単発遠征と聞いて予定を早めて愛知に帰ることにした。

鑪ら場も久しぶりだったけど、リアルライブに行くのも3ヵ月ぶりだった。前回のライブが4月初めのブラジルコーヒー。その時も内藤さんが出ていた。自粛前の最後と自粛後の最初。同じ名古屋で内藤重人を聴くというのも因縁じみていて良いのではないかと思う。

店内は全員揃ってマスクをしていることを除けば何も変わっていなかった。最前ブロックも無ければ無粋な垂れ幕も無い。喫煙所もそのまま。名物のからあげ丼もキーマカレーも出していたし、何なら新メニューまで登場していた。それは対策がいい加減って事ではなく、鑪ら場の店主はちゃんと合理性を考えて、やってます感ばかりの風潮を排除したからこうなったのだと思う。座席を市松模様に取り払った飲食店で距離を取った客同士が大声で会話している店よりよっぽど安心な雰囲気を感じた。

言いかえれば、わたしは実貴子さんといさみさんを信頼しているから安心できるんだろうなあ。たぶん、ローグでも同じことを感じると思う。法律や条例で線を引けないところに安心感の差が生まれてくるような気がしてる。

やがて最初のバンドの手が上がり音が鳴り始めた。知らないバンドだったけど身体を包み込む音の塊に触れて泣いてしまった。新しい生活様式。毎日のように流れてくる配信ライブ。3カ月間、音の響かない世界に慣れすぎてしまって、わたしはもうライブハウスで揺れる心を失っているんじゃないかって怖くなっていた。杞憂だった。

この日、内藤さんは柔らかくて優しいピアノを弾いた。わたしは歌うでもなく揺れるでもなく無言でぼろぼろ泣いていたけど、新しい扉が開いた気がした。


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