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桃太郎は家来を従え、鬼ヶ島に向かう前に、一度自宅に戻ることにしました。

桃「おばあさん、ボク奇妙に感じたんだ。キビダンゴひとつで鬼ヶ島についてくるなんて。命の危険もあるのにだよ。この"キビ"ってやつ、一体なんなんだい?」

婆「桃太郎や、余計なことは聞かなくていいんだよ」

桃「犬もサルもキジも、みんな、『お腰につけたキビダンゴ、1つくださいな』って。袋に入ってて中身が見えてないのにだよ。独特な香りもするし。なんならネコもウマもこっちを見てた。視点も定まってないし、よだれもたらしてたし。このキビってまさか…」

婆「桃太郎、あんた、足を踏み入れちゃいけないところに入ろうとしてるねえ」

お婆さんは、懐に忍ばせていたキビダンゴを少しかじりました。すると急に興奮状態になり、ナタを持って桃太郎に襲いかかりました。

桃「チッ!やっぱりヤバい成分だったか!」

中にいる赤ん坊に傷ひとつつけず桃を割ったナタ使いの達人です。桃太郎は必死のパッチで逃げ回り、落ち着きを取り戻しつつあるお婆さんにこう言いました。

桃「はあはあ、お婆さん。ふたつ確認したいことがあるんだ」

桃太郎は息を切らせつつも言いました。

桃「ひとつめは、このキビダンゴの成分について。これって食べると猛烈な快楽を得ることができるんじゃない?ちょっと危ない常習性もあるけど」

婆「…」

桃「もうひとつは、このキビダンゴ。鬼はこのダンゴの存在に気づいてるのかな?」

そう話すと、ガラッと奥の扉が開きました。

爺「桃太郎や、お前をちょっと賢く育てすぎたようじゃのう」

お爺さんでした。穏やかな口調で話していますが、目の奥は笑っていません。手には芝刈りに使っていた鎌を持っていますが、今日に限ってはそこに鎖と分銅がついていました。

爺「さて、質問に答えようかの。ひとつめについてはイエスじゃ。危険性も伴うがそれを超える快楽を与えてくれる。その快楽が鬼ヶ島に行く怖さを上回ることは桃太郎、お前が示してくれたのう。」

お爺さんは答えながら、分銅を回し始めました。

爺「ふたつめじゃが、鬼は知らんよ。知られてしまっては鬼に準備をされてしまう。キビダンゴを食べたものによるテンションMAX奇襲攻撃で鬼から財宝を奪う計画が台無しになってしまうからのう」

なんて安易な計画でしょう。しかし桃太郎は自らの思考を上回る意外性がなかったことに安堵しました。

婆「爺さんや。桃太郎が様々な動物たちを戦力化できることは示してくれましたねえ。もうこれで十分なのでは?」

お婆さんはめんどくさそうに言いました。

爺「婆さんや、そうじゃのう。わしらの手を汚さずともワンチャン、桃太郎がやってくれるかもとは思うとったが…。おっと、ワンチャンは家来の犬とかけたわけじゃないぞう」

お爺さんはカカカと笑いながら言いました。

お爺さんの笑い声が止むと、お婆さんはナタを強く握って前線での戦闘態勢を、お爺さんは分銅を回す速度を上げながら後方支援態勢をとりました。

お婆さんが「いきますよ」と言いかけたそのとき、桃太郎は妙に落ち着いた表情を浮かべながら口を開きました。

「一つ提案があります」

(続く。もしくは続かないかも)

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