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曽我部恵一全アルバム聴いてみた

こんにちは。暇じゃない暇人です。
今回は僕が世界で一番好きなミュージシャン、曽我部恵一の話です。

曽我部恵一のソロアルバム、過小評価されてるんじゃないか説

曽我部恵一と言えば自主レーベル・ROSE RECORDSの主宰としてDIYかつ非常に活発な作品リリースをしながら文筆や俳優など幅広く活動し、音楽シーンで独自の存在感を放ち続けるミュージシャンとして知られていますが、彼の音楽活動を語るうえで真っ先に名前が挙がるのは確実にサニーデイ・サービスだと思います。

サニーデイ・サービスは渋谷系が流行していた1990年代半ばに、70年代の日本のフォークミュージック等からの影響を色濃く受けた名盤「東京」をリリースしてシーンに衝撃を与え、2008年の再結成以後もシティポップなどの色の中で展開されるカラフルなポップスのなかに凄まじい狂気を詰め込んだ傑作「DANCE TO YOU」、新体制になり瑞々しいロックを打ち出した快作「いいね!」などで現役バンドとしての存在感を強く感じさせるなど、若い世代にも影響を与えるロックバンドとして大きな支持を受け続けています。


そんなサニーデイの活動と並行しながら曽我部恵一は活発なソロ活動も展開しています。サニーデイとソロを合わせると30年近いキャリアでリリースしたスタジオ作品の数は40枚以上にもなり、多作なミュージシャンとしてシーンで名を馳せています。ソロキャリアではサニーデイ以上にジャンルレスな活動を展開しており、バンドでの作品にも劣らないその表現の多彩さも大きな聴きどころとなっています。しかしながら、サニーデイの諸作と比較するとソロの作品群は音楽好きの人達の間でも話題に挙がることが少なく陰に隠れたアルバムが多い、というのが個人的な体感です。

今回はそんな曽我部恵一のソロワークに焦点を当てて、彼がリリースしたソロ名義の作品を全て振り返っていこう、といった旨の記事になります。ライブ盤等も含めるとその総数は50枚以上にもなる膨大な彼のソロワークスに触れてみる、触れ直すきっかけになると幸いです。

1. 「曽我部恵一」(2002)

サニーデイ・サービスの解散を経てリリースされたソロデビューアルバム。バンドからソロに転向するにおいてドキュメントを描こうとした、という本人のエピソードの通り、結婚をして家族ができた当時の彼の生活が記録された一枚。"戦争にはちょっと反対さ" という一節が象徴的な「ギター」も収録、「テレフォン・ラブ」「おとなになんかならないで」などライブでよく披露される楽曲も多く収められた。演奏の多くを彼自身の手でこなす器用さもこの時点で発揮されている、デビュー作にしてマスターピース的な作品。昨年YouTubeで公開された発売20周年記念の全曲再演ライブも必見です。


2. 「瞬間と永遠」(2003)

メジャーレーベルからの最後のリリースとなったソロ2nd。ソロキャリア屈指の名曲である「She's a Rider」「浜辺」なども収録されたソロ初期の傑作。歌詞カードには一曲のみ掲載、載っている情報量も最小限、と音楽そのものに浸ってほしいという姿勢も感じる。サニーデイの延長線上的な簡素なアレンジが特徴的だった前作と比較するとアレンジの幅が大きく広がったこともポイントで、甘美なダンストラック「White Tipi」などからもこの後のソロ活動のジャンルレスな広がりを予感させる。昨年1stと並んで待望のLP再発が実現したので、アナログレコードでもぜひ。

3. 「shimokitazawa concert」(2004)

自身のレーベル「ROSE RECORDS」からの初となるソロ作品リリースは下北沢にあるカフェでのライブ盤。サニーデイの名曲「baby blue」で幕を開ける、ゆったりとした弾き語りのコンサート。ビデオカメラの音声をそのまま音源化したという粗い音質も味がある。曽我部さんの娘の声などもそのまま録音されたアンコール「おとなになんかならないで」はこの瞬間でしか起こりえなかった感動が見事に記録されている。サニーデイの幼稚園でのライブ盤「FUTURE KISS」然り、曽我部さんの歌はこういう何気ない録音にこそ魔法が宿ったりする。

4. 「STRAWBERRY」(2004)

ROSE RECORDSからの初となるスタジオアルバム。全編にわたってダブルオー・テレサとともに録音された一枚で、のちの曽我部恵一BANDに繋がるようなドライブ感のある高いテンションのロックンロールが展開。「シモーヌ」は個人的にソロの中でもトップクラスに好きな一曲。他のアルバムと比べると録音の悪さを感じる瞬間も稀に見られるが、それも当時のライブの熱をそのまま閉じ込めたようでまた一興。人気曲「LOVE-SICK」もこのアルバムに収められている。

5. 「青い車 オリジナル・サウンド・トラック」(2004)

初の映画のサウンドトラック。インスト3曲と歌モノ3曲からなるミニアルバム。6曲入りながら多彩な音作りで飽きさせない手腕は流石のもの。アコギの弾き語りとメロウな歌声の相性が抜群な「世界の終わり」は隠れた名曲。

6. 「sketch of shimokitazawa」(2005)

下北沢の再開発問題に触発される形で発表された異色作。フィールドレコーディングを駆使した楽曲や空き缶で作ったカリンバを使用したレコーディング、ボーカルとプログラミングのみで構成された楽曲など、従来のサウンドアプローチと全く異なる色を見せる挑戦的な一枚。中でも刺激的なのはベースとのデュオ編成で即興性に富んだ20分越えの長尺曲「七月の宇宙遊泳」。下北沢限定で販売されたCD初回盤は特殊ジャケ仕様で、当時の下北沢再開発に反対するフライヤー等も折り込まれていたりと、自分のドキュメント的な作品という彼のソロ活動に対する姿勢がアルバムという形になった作品。

7. 「ラブレター」(2005)

勢いに乗った荒々しいロックンロールサウンドに粗い音像の録音、と前々作「STRAWBERRY」の要素を汲んだ熱気と気迫に溢れる一枚。演奏は全編曽我部恵一BANDのメンバーによるもので、この後本格的に始動するソカバンのプロトタイプ的な一作でもある、とも言える。歌詞に関しても直接的な表現で彼の生活を描く方向性が確立された頃であり、この時期の全力でシャウトする曽我部さんの歌唱とも相性がとてもいい。何本ものライブで鍛えたボーカルの強さがアルバムの強力さに拍車をかけている。

8. 「Live at Praha!」(2005)

曽我部恵一関連作品では彼の運営するレーベル・ROSE RECORDSのオンラインショップでCDを購入すると特典ディスクが付属することが稀にあり、今作は「ラブレター」の通販特典として付属したもの。新潟のクラブ・UNDER WATER BAR PRAHAでの弾き語りライブを収録。深夜2時に繰り広げられた熱狂の一幕が実況録音という形で生々しく収められている。オープニングでの「魔法」での弾き語りでの気迫は当時のライブにかける情熱がダイレクトに感じられる。今作はサブスクでは未配信です。

9. 「LIVE」(2005)

曽我部恵一BAND名義での初のリリース。アルバム「STRAWBERRY」「ラブレター」からも感じられたバンドとしての熱狂はライブでこそ真価を発揮。「テレフォン・ラブ」でのオーディエンスとの熱い掛け合い、全力で野太く歌い上げシャウトする曽我部さんのボーカル等聴きどころ満載のライブ盤。ソカバンのライブ盤はもう一枚出ているが、こちらはサポートでサックスが参加した「LOVE-SICK」、「浜辺」などのメロウな楽曲等ソロ名義とソカバンの過渡期的な印象を受けるのも面白いポイント。

10. 「東京コンサート」(2006)

サニーデイ・サービス屈指の名作「東京」のリリース10周年を記念して、収録された全曲を弾き語りで再演したライブアルバム。当時ソカバンの活動が活発化していたこともあり、サニーデイの時のような甘い歌声とは違った歌声になったことを感じさせて、青年時代のアルバムを俯瞰して見つめなおすような演奏になっている。曲の間で曽我部さんが話すエピソードを聞いた上でもう一度「東京」を聴くと新たな感動があるかも…?

11. 「LOVE CITY」(2006)

完全無欠の曽我部ソロ超絶大傑作です。ROSE RECORDS発足以降バンドとしての熱量だったりプライベート的な作品だったりに集中していた曽我部恵一が久々に「ポップアルバムの名盤」を作り上げた感覚。簡素な弾き語りや宅録から力強いバンドサウンド、ホーンセクションを取り入れた演奏など幅広いアレンジを提示しながらメロディーメーカーとしての才能を惜しげもなく発揮していく様は圧巻。超名曲「恋人たちのロック」も収録した、インディー感と洗練されたイメージのバランス感覚が素晴らしい、ミュージシャン・曽我部恵一の真骨頂。必聴です。

12. 「blue」(2007)

タイトルが象徴する通りアルバム全編通して「夏」のイメージが強い一枚。ソカバンでもお馴染みの一曲となる名曲「スウィング時代」や「ぼくたちの昨日」などロックナンバーも配置しながら、サンプリングを多用したミニマルテクノ的サウンドが印象的な「サマー'71」の演出する冷ややかな夏のトーンがアルバム全体を包む。同曲はその後09年にリミックスverがシングルカット、2021年にはHiroshi Watanabeとのコラボレーションで再びリカットされた。「センチメンタルな夏」も一度は聴いてほしい超名曲です。

13. 「おはよう」(2007)

曽我部恵一ランデヴーバンドの唯一となるオリジナルアルバム。5人編成での芳醇な音像が特徴的なフォークアルバムで、ほぼ全曲がダビングもなしの一発録り。突然始まるセッション的な趣もある中で、官能的で濃密な空気が漂う、彼のキャリアにありそうでなかった雰囲気の一枚。オーガニックな音世界とメロウなボーカルが紡ぐ映画のような甘美な世界。音楽を生活の一部として愛している人間だからこそ作り上げることができる、膨大なソロキャリアにひっそりと佇む隠れた名作。

14. 「Sunny Day Service Concert」(2008)

限定販売されたボックスセット「RANDEZVOUS BOX」のDisc 1に収録。サニーデイ・サービスの4thアルバム「サニーデイ・サービス」の10周年を記念した全曲弾き語りライブの模様を収録。「東京コンサート」同様、あの頃の甘さを失ったような少しハスキーなボーカルで歌われるサニーデイの楽曲はまた違った味が出て不思議な趣がある。「旅の手帖」の圧倒的な名曲感に改めて感動するばかり。サブスクでは未配信です。

15. 「RANDEZVOUS CONCERT」(2008)

「RANDEZVOUS BOX」のDisc 2に収録。ランデヴーバンド唯一のライブ盤です。音源でも即興演奏のような空気感を漂わせていたランデヴーバンドだが、その世界はライブでも同様に演出されている。「おはよう」収録の楽曲に加え「テレフォン・ラブ」「おとなになんかならないで」等も演奏、ラストで演奏されたサニーデイの「24時のブルース」はランデヴーバンドの持つ世界観を描くのにこの上なくピッタリの曲で最高の演奏。ボックスセットのDisc 3はランデヴーバンドのライブDVDです。

16. 「キラキラ!」(2008)

結成以降ライブ活動に精力的に取り組んできた曽我部恵一BAND、結成4年目にして初のフルアルバム。疾走感のあるエネルギッシュなロックンロールが詰め込まれた若々しい一枚。ソロの代表曲としてお馴染みの「魔法のバスに乗って」を筆頭に、少し恥ずかしくなるくらいにキャッチーなメロディーが並べられている。青春を第三者からの視点で描くようなサニーデイと対照的な、青春そのものを突っ走る「青春狂走曲」のセルフカバーも最高。オリコンチャートにもランクインするなどヒットを記録した名盤となった。

17. 「トキメキLIVE!」(2008)

22曲78分、CDの容量ギリギリまで詰め込まれたソカバンのライブベスト。「恋人たちのロック」で幕を開け、ソロの名曲たちがライブでのエネルギッシュなサウンドで楽しめる大充実のライブ盤。2005年の「LIVE」同様に、ソカバンの本領はライブでこそ発揮されるということを示す熱狂と興奮が生々しく収められた記録。サニーデイ「胸いっぱい」のセルフカバーもソカバンの疾走感とマッチしていてGood。今のサニーデイで同曲が定番になっているのはソカバンの影響も大きいだろうな、と思う。

18. 「LIVE@HOME」(2009)

「藤原ヒロシと曽我部恵一」名義でリリースされたアコースティック・ライブアルバム。Fairground Attraction「Perfect」、Madonna「Like A Virgin」、Junior Murvin「Police and Thieves」、The Beatles「Strawberry Fields Forever」の4曲のカバーとMC、リハーサル音源を収録。ゆったりと洋楽カバーを楽しむリラックスした雰囲気の一枚。サブスクは未解禁、CDも一部店舗での限定販売でしたが、現在はデジタル・ダウンロードで購入可能です。

19. 「ハピネス!」(2009)

前作「キラキラ!」から1年で早くもリリースされたソカバンの2nd。多幸感溢れる先行シングルの「ほし」など前作同様過剰なくらいにキャッチーでエヴァーグリーンなロックンロールだが、ギタリストの上野智文がボーカルを務める「明日と夢を」などからは、ソカバンというバンドとしての確立だったり一歩踏み込んだ音楽表現の導入だったりも感じられる。昨年のサニーデイのツアーの一部公演でセルフカバーされた「永い夜」は叫ぶようなボーカルと繊細ながらメッセージ性の強い詞が胸を打つ反戦歌。

20. 「ソカバンのみんなのロック!」(2009)

「手のひらを太陽に」や「うみ」など子供時代に歌った童謡をロックンロールやアコースティックサイケ風にカバーしたミニアルバム。「かえるのうた」にはDUBミックスが施されていたりと不思議な構成の一枚。ソカバンらしいロックにアレンジされた「思い出のアルバム」は当時日産セレナのCMソングに起用された。

21. 「ビレバンのソカバン」(2009)

ソカバンによるヴィレッジヴァンガード下北沢店でのインストアライブを収録したライブ盤。いつものソカバンとは異なるアコースティック編成で演奏されたライブで、定番曲に加え西岡恭三「プカプカ」のカバー、書き下ろしの新曲「ビレバンへ行こう」、サニーデイ「若者たち」のセルフカバーも収められた貴重な一夜の音源。エネルギッシュなソカバンとは一味違うもう一つの側面が楽しめる一枚。

22. 「Sings」(2009)

アコースティック・ツアーの会場限定でリリースされた弾き語りのカバーアルバム。のちに一般流通も行われました。名曲「Snow」のプロデュースを担当したりサニーデイでツーマンライブを行ったりと彼と関わりの深いスコットランドの至宝・Trashcan Sinatrasのカバーから始まり、Velvet Undergrondや大滝詠一、The BeatlesにBen E. Kingなど彼のフェイバリットトラックを中心に収録。ローズのオフィスにレコーダーを置いて録音されたもので、外を走る車などの音もそのまま収録された極私的な情景も感じさせる一枚。

23. 「Remix Collection 2003-2009」(2010)

ソロとしては初となるリミックスアルバム。ジャンルレスな活動を続けてきた彼の楽曲が更なる飛躍を遂げて生まれ変わっている。多幸感溢れる変貌を遂げた「ミュージック!(DJ YOGURT@P.A.D. Studio Remix)」を筆頭に、完売だったアナログ盤に収められ入手困難だった曲たちをコンパイルした極上のダンスミュージック集。今作自体はサブスク未解禁ですが、ランデヴーバンドとして発表された「街のあかり」のリミックス以外はシングルのB面としてサブスクで聴くことができます。

24. 「LIVE LOVE」(2010)

下北沢Club Queでのライブを収めたライブ盤。この日のライブはマイクもアンプもなしの完全アコースティックサウンド。「恋人の部屋」「ここで逢いましょう」「スロウライダー」などサニーデイの名曲から「3つの部屋」「朝日のあたる街」などソロでの楽曲もたっぷり披露した、完全生音でのライブの様子が生々しく収められた彼の神髄とも言えるライブの記録。フィジカルではDVDも付属し、そちらではライブ2日目から7曲を収録。ランデヴーバンドの名曲「女たち」が嬉しい。

23. 「けいちゃん」(2010)

意外にも初となる弾き語りのみで構成されたオリジナルアルバム。シングルとしてPSGをフィーチャーしてリリースされ、ソロキャリアでも屈指の名曲として名高い「サマー・シンフォニー」は彼1人での弾き語りバージョンで収録。歌とギター、という極限までシンプルな編成に立ち返ったからこそ生まれたありのままの歌たち。もともとジャンルにとらわれない活動を展開してきた彼だが、このアルバムあたりの時期から後輩のミュージシャンを自分の作品に迎え入れたりと若手のフックアップにも力を入れ始めた印象で、そう考えるとソロ活動の中では大きな契機になった一枚なのかも、と思う。

24. 「PINK」(2011)

ソロ活動10周年を記念してリリースされた一枚。しかし祝祭感というよりかは穏やかなムードが全体を包む一枚に。東日本大震災を受け先行公開された「春の嵐」をはじめとして、彼のキャリアの真骨頂とも言えるような暖かいソングライティングが印象的な楽曲が多く収められた。「ねぇ、外は春だよ。」といった叙情性豊かなフォークソングも今作の大きな特徴。マスタリングはTelevision「Marquee Moon」やTalking Heads「Remain In Light」も手掛けたNYの巨匠・Greg Calbiが担当した、芳醇な音像が楽しめるキャリアの集大成的な一枚。

25. 「SPRING FEVER - live at SENDAI 2011.5.13」(2011)

アルバム「PINK」のリリースを記念して行われたツアーより仙台公演の模様を収録。ソロのライブ盤では非常に珍しい7人でのバンド編成で、これまでのソロ活動での名曲を中心に穏やかなサウンドで紡がれた14曲が収められている。「PINK」がソロキャリアでも結構特異点的な空気感を孕んだ作品であり、その風景をパッケージングした今作はとても貴重な記録。今の曽我部さんはバンドサウンドはサニーデイでソロは弾き語り、というライブスタイルを取っているが、たまにはバンド編成のソロライブも見てみたいな、と少し思ったりする。

26. 「ホームタウンコンサート」(2011)

こちらは香川・高松でのカレー屋でのライブを収めた一枚。島フェスという香川でのフェスが台風で短縮開催となり、その影響を受けて急遽開催されたライブとのこと。マイクとアンプなしの完全生音ライブ、観客は約30人という貴重な一夜の記録で、キャリア全体から万遍なく選ばれた豪華なセットリストが楽しめる。2004年の「shimokitazawa concert」同様に盤としてリリース予定ではなかった音源とのことだが、こういう何気ない録音物が不思議な臨場感を生み出して魔法を宿すのが彼の歌だと思っている。

27. 「曽我部恵一BAND」(2012)

サニーデイ10年ぶりの新作、ソロでの多くのリリースを経て遂に放たれたソカバン3年ぶりのアルバム。しかし「キラキラ!」の頃のような初期衝動感溢れるロックンロールは大きく変貌を遂げ、「ソング・フォー・シェルター」や「兵士の歌」などシリアスさを内包した楽曲に進化。ローファイなオルタナロックやダブの影響を受けたポストロック的なサウンドなど、今までの彼の実験精神とソングライターとしての力が合わさってとんでもない化学反応を生んだ一枚。「満員電車は走る」はソロキャリアの最高到達点の一つでもある感動的な名曲。間違いなくソカバンの最高傑作と言えるだろう。

28. 「曽我部恵一 live@2012.5.10」(2012)

アルバム「曽我部恵一BAND」の通販&ライブ会場特典として付属したライブアルバム。アルバム収録の15曲を全曲弾き語りで披露した一枚。アルバム全体に漂うシリアスなムードが弾き語りでまた違う雰囲気を放つ。弾き語りの形態で歌われる「満員電車は走る」の圧倒的なパワーは流石のもの。今年の2月に足を運んだソロライブでもこの曲が披露されたが、その時も鳥肌モノの凄まじいパフォーマンスだった。

29. 「listen 2 my heart beat」(2012)

ヒューマンビートボクサー・AFRAと曽我部恵一によるコラボアルバム。The Beatles「Ob La Di, Ob La Da」やSly & The Family Stone「Dance To The Music」、ゴダイゴ「MONKEY MAGIC」、はっぴいえんど「春らんまん」など洋邦問わず選曲されたカバー曲とオリジナル曲によって構成。AFRAのビートボックスとラップ、曽我部恵一の歌とギターによる独特かつ強烈なグルーヴが炸裂する、極限までミニマルな構成ながら無限の可能性を感じられる異色のコラボ作。サブスクでも聴けるので是非。

30. 「トーキョー・コーリング」(2012)

現時点でソカバン最後のアルバムとなっている4枚目。前作のシリアスなムードは更に変貌を遂げ、今度はシンセなどを大胆に導入したダンスミュージックの色が濃い一枚に。サニーデイサービスもエレクトロに傾倒した名作「LOVE ALBUM」を以て一度解散となったが、ソカバンもバンドサウンドの分解というテーマで作品を作り上げて幕を下ろすこととなった。そんな中でも「LOVE STREAMS」のような4人でのコーラスが聴ける一曲だったりとほのかにソカバンらしさが漂う一面も。一抹の切なさを感じつつもダンスミュージックの快楽に酔いしれるような独特の空気感の一枚。

31. 「12月の組曲」(2012)

「トーキョー・コーリング」の通販&ライブ会場特典CD。未発表曲「ミッドナイトエレクトリックピアノイントロ」「今日のダンス」と下北沢440での弾き語りライブ7曲を収めた一枚。ライブトラックではソロ屈指の名曲「She's A Rider」やサニーデイのレアトラック「果実」が入っているのが嬉しい。未発表曲のうち「今日のダンス」はのちにシングルとして配信リリースされたのでサブスクでも聴けます。

32. 「曽我部恵一 BEST 2001-2013」(2013)

サニーデイのベストと同時にリリースされた自身初のベスト盤。ソロキャリア全体から満遍なく厳選された名曲の数々を収録。「She's A Rider」や「3つの部屋」あたりの曲が収録されていないのが惜しいが、ソロ活動の中でこの2枚組に収まりきらない名曲を生み出してきたことの証明でもある。完売したアナログ盤限定の曲や未発表テイクなどレア音源も多く収められた、入門編としてもピッタリの一枚。遂に世に出た「STARS」のスタジオ録音は必聴です。

33. 「プライベート -Home Recordings and Other Studies vol.1-」(2013)

「曽我部恵一BEST 2001-2013」のROSE RECORDS通販特典として付属したデモ音源集。「浜辺」「テレフォン・ラブ」などソロ活動の中で生み出されてきた数々の名曲の原形が楽しめる貴重な一枚。次女のために作ったという「ねむり(うみへ)」など未だに未発表の曲も。ベスト本編に入らなかった「センチメンタルな夏」の弾き語りバージョンがめちゃくちゃいい。個人的にはのちにサニーデイとして発表された「まわる花」のソロバージョン、しかも名盤「LOVE CITY」期の録音が収録されているのが嬉しい。

34. 「超越的漫画」(2013)

ベスト盤のリリースもあって活動に一区切りがついたソロ活動の次なる一手は更なる攻めの姿勢。ラストを飾る「バカばっかり」が象徴するようにある種の怒りや行き場のない感情をぶちまけてしまったような衝撃的な一作。ライブでも度々披露される「6月の歌」など前作「PINK」の流れを汲むようなメロディックな曲も節々に見られたりするものの、今までの作品と比べても衝動的な勢いが色濃く出ていて、この後ソロ活動で、更にはサニーデイでも展開していくことになる暴走の出発点とも言える重要作。名盤です。

35. 「その頃の曽我部恵一 2013.9.17 live@恵比寿BATICA」(2013)

「超越的漫画」のROSE RECORDS通販特典として付属したライブ盤。ROSEのレーベルメイトである神さまの2ndアルバムの完成を記念したライブで、最後には神さまと一緒に披露した「青春狂走曲」も収録。このライブの直前に楽屋で書き上げたとMCで本人が語る、出来立ての状態の「汚染水」も歌われた。数多くリリースされた曽我部恵一のライブ盤の中でも「テレフォン・ラブ」の盛り上がりはこの時が最高潮だと思います。東京オリンピック決定の話題で観客を煽って盛り上がっているワンシーンが今は悲しい。

36. 「まぶしい」(2014)

「超越的漫画」からわずか5か月という短いスパンで放たれた23曲67分の大作。モダンなポップサウンドに振り切った先行シングル「汚染水」をはじめとして、ロックやエレクトロ、アカペラにノイズなど彼が培ってきた様々なジャンルをごちゃ混ぜにして詰め込んで歌と対峙する、という趣の一枚。とりあえず自分がやりたい音楽像をできる限り全部形にする、という彼のミュージシャンとしての力量が存分に感じられる傑作。のちにサニーデイとして繰り広げられた暴走を経た今こそ再び評価されるべき作品だと思う。

37. 「四月EP」(2014)

LP+CDの限定フォーマットでリリースされたEP作品。"DISCO side" と "家 side" に分かれた構成になっていて、"DISCO side” には「リスボン」(「超越的漫画」に収録) と「ちりぬるを」(「まぶしい」に収録) のリミックス版が収められている。"家 side" には彼がひとりで制作した新曲6曲が収録。日常の中でいつの間にか生まれてそのまま録音されたような、ローファイで飾らない素朴な魅力を感じる楽曲群。「shimokitazawa concert」あたりでも触れた何気ない録音物にかかる魔法が今作にもあるように思える。力作揃いのキャリアの間にそっと佇む隠れた名曲たちが収められた一枚。

38. 「氷穴EP」(2014)

配信サイトOTOTOY限定でリリースされたEP。山梨県・青木ヶ原樹海の東にある鳴沢氷穴でレコーディングされた、ここでしか聴けない新曲4曲と近田春夫のカバー「若者たちの心にしみる歌の数々」をハイレゾ音源で収録。地下21メートルで気温0℃という環境で録音された、息遣いからギターの一音一音を紡ぐ様子まで生々しい弾き語りの歌たち。洞窟内の溶けた氷が滴る音までそのままパッケージングされた究極の生音が収められている。

39. 「My Friend Keiichi」(2014)

大作となった「まぶしい」、サニーデイサービス「Sunny」のリリースを経て2014年の暮れに届けられた、一晩で制作されたという弾き語りアルバム。真夜中にひっそりと佇むような、歌とギターのみの繊細な歌の数々が心に刺さる。ソロとしても傑作「超越的漫画」「まぶしい」の後で、この後サニーデイとして超傑作「DANCE TO YOU」がリリースされたのもあり地味な立ち位置となってしまっている作品だが、彼のシンガーソングライターとしての力量の強さを優しさの中で楽しめる、ミュージシャン曽我部恵一の核とも言える表現での一枚。

40. 「スプリング・コレクション」(2016)

彼のキャリアの中から「春」に関する曲を集めたベストアルバム。リリース時期がレーベル閉鎖の危機にまで追い込んだといわれるサニーデイの傑作「DANCE TO YOU」の制作期あたりだったことを考えるとレーベルを立て直すためのリリースとも言えなくはないが、その結果あの傑作が生まれたなら言うことは何もなし。サニーデイの名曲「恋におちたら」の弾き語りライブテイク、「夜のメロディ」のセルフカバーも含む13曲。加地等「春の電車」のカバーもここでしか聴けないレアトラック。新曲「春風ロンリー」も彼の得意とするカッティングギターが気持ちいい素朴なポップソング。

41. 「サマー・コレクション」(2016)

先述した「スプリング・コレクション」に引き続き、今度は「夏」に関する楽曲を集めたベストアルバム。こうして一枚に集められた夏歌を聴くと、爽やかなものだけではなくじっとりしていたり冷ややかだったりと彼の夏に対するこだわりが窺える。サニーデイ「八月の息子」のセルフカバー、新曲「ひまわり」も収められるなど、オリジナル作品を聴き込んだリスナーにも楽しめる構成なのも嬉しい。しかし彼の代表作とも言える夏の大名曲「サマー・ソルジャー」が入っていないのは何故なのか…。

42. 「Marine Book E.P.」(2016)

サニーデイサービスの傑作「DANCE TO YOU」のROSE RECORDS通販特典として付属したインスト・ミニアルバム。CDの盤面に「Vote 2 Ben Watt」との記載があるように、彼が人生最高のアルバムと語るBen Watt「North Marine Drive」のネオアコ的な空気感を彷彿とさせる作品。以前サニーデイの「本日は晴天なり」は生活感のあるシューゲイザーを趣向して作った作品、とも述べていたが、今作に収められた「Shoegazer Boy」からも曽我部さんのシューゲイザー観が窺えるような気がする。

43. 「止められるか、俺たちを オリジナル・サウンド・トラック」(2018)

2004年の「青い車」以来となった映画のサウンドトラック。キャストである門脇麦の虚ろな歌声で幕を開け、ジャズやガレージロック、歌謡などまで飲み込んだジャンルレスな音楽性で進んでいく劇中音楽。本人歌唱による主題歌「なんだっけ?」はシンプルなバンドサウンドが映える、軽快でどこか涙を誘うポップソング。

44. 「ヘブン」(2018)

サニーデイ「DANCE TO YOU」、更に遡ればソロでの「超越的漫画」から始まった曽我部恵一による音楽的探究という形の暴走がこのアルバムによって完成することになる、かねてからヒップホップ的な手法を取り入れてきた彼の初となる全編ラップアルバム。PC上で作られる現代的なラップミュージックの作風ではなく、サンプリング主体のアナログなトラックを用いた結果、靄がかったような独特のドープな音像に仕上がった。シンガーソングライターとして言葉を巧みに操ってきた彼のラップはどことなくポエトリーリーディング的な趣も持つスタイルに。シンガーソングライターとして長いキャリアを築いてきた曽我部恵一だからこそ作れた孤高のヒップホップ作品。

45. 「There is no place like Tokyo today!」(2018)

前作「ヘブン」から僅か2週間という極めてハイペースで産み落とされた暴走の記録。楽曲の多くがオートチューン加工されたボーカルとコンピューターによるエレクトロニックなビートが支配する、掴みどころがないようで近未来的なポップミュージック。そんな中でも歌詞では日常のワンシーンを切り取ったような卑近なワードチョイスが目立つ。ベッドルームポップ的な雰囲気も漂わせつつも、トラップビートやエレクトロ、更にはノイズまでも飲み込んだ彼の無尽蔵な才能が溢れ出た一枚。サニーデイ田中貴によるベースラインも極上のアグレッシブなシンセポップナンバー「暴動」は必聴。

46. 「The Best Of Keiichi Sokabe -The Rose Years 2004 - 2019-」(2019)

ROSE RECORDS設立15周年を記念してリリースされたベストアルバム。CD、レコード、配信の3形態で発表され、それぞれ収録曲が異なるという仕様。こうして並べてみると素朴な弾き語りからエレクトロニックなビートが光る近未来的なポップソングまで、彼の取り組んできた音楽性の幅広さに驚かされるばかり。その中でもブレない芯としてあり続ける歌心の強さも改めて感じられる。アルバム未収録だった名曲「bluest blues」もここで初収録となった。ソロの入門編としても総括としてもピッタリなベスト盤。

47. 「純情LIVE」(2020)

大槻泰永率いる真黒毛ぼっくすと曽我部恵一のコラボによるライブ盤。サニーデイの楽曲もソロの楽曲も代表曲揃いで、ホーンや鍵盤などを擁する真黒毛ぼっくすの手により豪華なアレンジが施された名曲たちが楽しめる一枚。ヘタウマな感じだが歌心溢れる大槻泰永の歌と曽我部恵一のパワフルな歌声の絡み合いも大きな魅力で、ライブ終盤に披露された真黒毛ぼっくすの名曲「酔いどれ東京ダンスミュージック」、サニーデイの名曲「サマー・ソルジャー」はライブの白眉。祝祭感溢れるプレミアムなライブの記録。

48. 「LIVE IN HEAVEN」(2020)

2018年のアルバム「ヘブン」を引っ提げて行われたラップセットでのライブを収めたライブ盤。アルバムでは彼が作ったビートに乗せて歌われていた楽曲群を、サニーデイの2人も含む5人編成のバンド演奏で披露した一夜。彼のラップは音源より更にエモーショナルな気迫を感じさせる世界観に変貌し、生演奏ならではのグルーヴ感が「ヘブン」の靄がかったダークな雰囲気を彩っている。コロナ渦の中で数十人の観客に向けて放たれた、まさに異形のパラダイス。「ヘブン 2」のリリースもあったし、再びラップセットでのライブが見てみたい。

49. 「Loveless Love」(2020)

「DANCE TO YOU」あたりからの曽我部恵一が激動の数年間を過ごしていたことは間違いないだろう。サニーデイのオリジナルメンバー丸山春茂の死、新メンバー大工原幹雄を迎えた再始動、コロナ渦での活動停止、と崩壊と復活を繰り返しつつも苦境に立たされ続けてきた。今作はそんな数年間のドキュメントでもあるのだろう。84分と長尺のアルバムというフォーマットでなんとか繋がれたジャンルも長さもバラバラな14の歌たち、内省的でいてどこまでもイメージを膨らますような詞世界。その中に置かれた「永久ミント機関」や15分にも及ぶ「Sometime In Tokyo City」でのポジティビティ溢れるリリックが歌を作ってカレー屋に立って、というこの危機の中での彼の生き方と強さを象徴しているようだった。間違いなく彼のキャリアの中でも一つの到達点にして最高傑作の一つだ。

50. 「旧市街地から」(2021)

コロナ渦の中で彼が開店した中古レコード店・PINK MOON RECORDS限定でリリースされた未発表曲集 (PINK MOON RECORDSは2023年10月末で惜しまれつつ閉店)。ソロ活動を開始した2001年以降の楽曲の中からリリースされてこなかったものを選び12曲収録。素朴な手触りの曲を中心に収められた曲たちからは彼のソングライティングのクオリティの高さを改めて感じる。「おじいちゃんの思い出」はオリジナルメンバーの丸山春茂も参加したサニーデイサービスとしての未発表曲。ドタバタしたドラムがまさしく春茂さんのプレイで愛おしい。配信リリースもなく、現在はCDとLPともに完売で入手困難となっているが、どこかで機会があれば是非聴いてみてほしい。

51. 「DORAYAKI」(2021)

写真家・佐内正史と曽我部恵一によるユニット・擬態屋の1stアルバム。佐内正史によるポエトリーリーディングと曽我部恵一が紡ぐ開放的で伸びやかなサウンドが聴く人の心を様々な場所へと連れていく。千葉のアジフライから太古の恐竜まで沢山の景色を見せながらまた新たな世界へとリスナーを誘う。ポエトリーリーディングに寄り添うように丁寧に紡がれつつオルタナティブな一面を覗かせるサウンドも彼らしい心地良さを放っている。SSWとして日本語を操り続けてきた彼による言葉を使った新たな挑戦であり、音と言葉で聴く人を果てしない旅へと連れて行ってくれる一枚。

52. 「恋人たちが眠ったあとに唄う歌」(2022)

PINK MOON RECORDS音楽作品第2弾、下北沢440でのライブを収録したライブアルバム。「ふつうの女の子」やピアノ弾き語りで披露された「ベティ」などソロキャリアの中でもかなりのレア曲、これも新鮮な印象を受けるソカバン「天使」の弾き語りなどファンにはたまらない選曲。弾き語りで歌われるサニーデイの「コンビニのコーヒー」はバンドとはまた違った優しさに溢れていて好きなテイク。彼のライブ盤は数多く出ているけれど、今作は真夜中にじっくり楽しみたいような濃密な時間が広がっている。また今作は配信なしのレコードのみでのリリース。現在は完売しています。

52. 「劇場 (Original Sound Track)」(2022)

3作目となる映画のサウンドトラック。原作又吉直樹、キャストには山崎賢人と松岡茉優と豪華キャストで制作された作品の音楽を担当。アコースティックな質感の音作りの暖かさが印象的な劇中音楽。行定勲が作詞を担当した共作曲「Cold Night」含む全10曲。

53. 「プリンは泣かない」(2022)

曽我部さんも出演したParaviのオリジナルドラマ「それ忘れてくださいって言いましたけど。」の主題歌や劇中歌をコンパイルしたアルバム。アコギの弾き語りを基調とした素朴なサウンド中心に展開される、ほっこりする軽快なポップソング集。ドラマのキャストである吉田羊とのデュエットバージョンも収録された。発表時にアナログ盤も発売予定とのステートメントがあったものの現在は未だ配信オンリーでのリリース。

54. 「ビリーバーズ (Original Sound Track)」(2022)

4作目となる映画のサウンドトラック。山本直樹の漫画「ビリーバーズ」の実写化の劇伴を担当。ローファイな電子音の中にメロディックな一面が顔を覗かせるアンビエント的な方向性も感じさせる楽曲集。劇中歌を引用した主題歌「ぼくらの歌」も含む27曲。

55. 「Memories & Remedies」(2022)

2022年の7月に新型コロナに罹患した曽我部恵一がその療養期間に作り上げたアンビエントアルバム。出口の見えない展開の中で、手短にある楽器を用いて何重にも重ねられた音たちが作り上げる曖昧模糊とした世界観の向こうに、彼が病床で見たのかもしれない幻想的な風景が思い起こされる。最後に収められた「Love In The Time of COVID」ではシューゲイザー的な音像が渦巻く。彼の飽くなき創作意欲と想像力は時代の異常事態に巻き込まれた時にも才能として形になるということが証明された一枚であり、コロナ時代の貴重なドキュメントでもある作品。

56. 「甘い送電線」(2022)

PINK MOON RECORDS音楽作品第3弾、「旧市街地から」に続く未発表曲を集めたアルバム。前作と比べるとサウンドのアプローチも多彩になり、未発表曲を集めたとは思えない充実っぷりが楽しめる一枚となった。インダストリアル的なローファイさが感じられる「この雨に抱かれて」や、3人の登場人物の恋模様を描いた軽快な弾き語り「ジュン、トモコ、マリー」など、改めて未発表曲ですらソングライティングのクオリティの高さに驚かされる。こちらは現在もROSE RECORDSの通販でレコードは購入可能なのでぜひ。

57. 「ハザードオブラブ」(2023)

彼の原点とも言える日常を切り取った極上のポップソング集の2023年版とも言える作品。「メタモルフォーゼラブ」でのアグレッシブなギターリフから幕を開け、ドライブ感溢れる「観覧車」、児童合唱団を迎えた「まる。」など伸びやかなメロディを惜しげもなく放出した心地良い楽曲が続く。ソロの初期を彷彿とさせる素朴なアレンジの中で日記的な歌詞を綴る、彼のソロ活動に対する姿勢が良く出た一枚。その中で現代のポップスと呼応するようなアレンジを入れ込むあたりに彼の器用さと才能を感じさせる。"とはいえ毎日が新曲なのさ" と未来への確かな希望も持ち合わせたエネルギッシュな今の彼のモードが伝わるアルバム。

58. 「ヘブン 2」(2023)

「ハザードオブラブ」の発売前日に同時リリースが発表された、2018年の衝撃作「ヘブン」の続編にあたる作品。前作に引き続き、サンプリングを主体とする靄がかった不穏なサウンドにポエトリーリーディング的なラップを乗せるというスタイルのラップアルバム。歪なビート、歪んだギターと閉塞的な音像に乗るリリックは現代社会に対して斜に構えたような皮肉さも見える言葉選びで、「ハザードオブラブ」で描いた明るい世界観と表裏一体であるような印象を受ける。極私的な記録から混沌とした社会への苛立ちまでラップミュージックに落とし込みシニカルな表現で2023年のシーンに叩きつけた、曽我部恵一にしか作れない独自のヒップホップの世界。大傑作です。



おわりに

というわけで全58枚、彼の膨大なキャリアを振り返ってきました。ジャンルレスかつ留まることを知らないスピードで放たれていく凄まじいソロ活動の魅力が少しでも伝われば幸いです。先日のライブで「ハザードオブラブ」の続編的な作品を制作しているとも語っていた通り、これからも衰えない創作意欲とスピード感で更なる傑作を聴かせてくれるはずです。サニーデイ・ソロともにこれからの活動も要チェックです!!!

最後に、僕が選んだ曽我部恵一ソロキャリアの名曲を20曲厳選した曽我部恵一マイベスト・プレイリストを置いておきます。ほぼベスト盤のような選曲になってしまいましたが…。一番お気に入りの曲を選ぶのも非常に難しいのですが、「Sometime In Tokyo City」は自分の中でとても大きな位置を占める大切な一曲です。


それでは、かなり長い記事となりましたが、ここまで読んでくださりありがとうございました!


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