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製薬会社が置かれる環境変化まとめ。(製薬会社は生き残れるのか)

河畑茂樹著「製薬会社は生き残れるか 持続可能な医療が日本の未来を救う」を読みました。今、そして近い将来、製薬会社はどのような環境に置かれるのか、本書を読んで学んだことをまとめました。

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もくじ
1.社会保障費が国家予算を飲み込む?!
2.創薬の標的分子や創薬コンセプトの枯渇
3.AIやICTなどのデジタル技術による医療の変化
4.製薬会社のコアコンピタンス

1.社会保障費が国家予算を飲み込む?!

厚生労働省が平成24年に発表した「社会保障にかかる費用の将来推計について」によると、2025年に医療費は50兆円、介護費が20兆円に達すると予想されている。国家予算全体はおよそ100兆円なので、社会保障費が国家予算を飲み込んでしまう。

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そのため、国は以下のような取り組みを推進している。

・予防医療推進
・医療機関の分化、連携
・在宅療養の推進
・療養病床の転換支援

そして、医療費のおよそ20%を占めている薬剤費を抑制しようとする圧力が大きく、製薬業界は苦しい立場に立たされている。

医薬品の価格は法律で決められているので、容赦なく進む薬価切り下げによって、製薬業界は苦しい局面を迎えているようだ。そのため、これまでのように一つの新薬開発で1000億円稼げていたビジネスモデルは成り立たなくなると予想されている。

2.創薬の標的分子や創薬コンセプトの枯渇

「創薬の標的分子や創薬コンセプトの枯渇」とは、簡単に言えば新しい薬の開発に繋がりそうな研究はしつくしてしまったということだ。ヒトの生体も遺伝子も意外に単純な構成のようだ。

そのため、最近は以下のような研究が発展しているようだ。

◆ドラッグリパーパシング(Drug Repurposing)
市販薬を本来の対象疾患以外の疾患の治療薬として使うための研究のこと。ドラッグリポジショニング(Drug Repositioning)とも呼ばれる。

ドラッグリパーパシングに使われる治療薬は、すでにヒトでの安全性確認が済んでいて、製造方法も確立しているので、開発期間を短縮し、研究開発コストを低く抑える事が期待できる。

2020年4月7日のグローバル・ブレイン株式会社のプレスリリースによると、「AIを活用した希少疾患向けの治療薬開発を行うHealxが、既に承認された治療薬の薬効から、別の疾患に有効な薬効を見つけ出す手法であるドラッグリパーパシングによるCOVID-19向けの治療薬開発に着手した」ということだ。

3.AIやICTなどのデジタル技術による医療の変化

AIやICTなどのデジタル技術によって業界の構造が変わらない業界はおそらくないのだろう。医療、製薬業界もデジタル技術によって構造が変化している。

本書では、抗がん剤の例が紹介されていた。抗がん剤の開発は、数ヶ月の延命効果を示す新薬が盛んに開発されている領域である。しかし、最近はオンラインアプリで肺がん患者の治療後フォローをすると、患者の合併症やがんの再発を早期に発見でき、生存期間を7ヶ月も延長することができるという報告もあるそうだ。

新薬の開発には10年単位の年月を要するが、アプリの開発は年単位で進む。そして、なによりこのようなアプリが安価に手に入れられるようになった時、果たして高価な新薬がどれほど市場に浸透するのだろうかといった疑問が投げかけられていた。

4.製薬会社のコアコンピタンス

1~3まで、製薬会社が直面する厳しい現状をまとめてきた。製薬会社がこれまで通りのビジネスモデルでは生き残って行けず、変化が欠かせないということがわかった。では、一体どのように変化していくべきなのか。製薬会社の変化について考えるヒントとして、製薬会社のコアコンピタンス(=他企業を圧倒的に上回る能力)について本書で著者が述べていた内容をまとめた。

◆製薬会社のコアコンピタンス
・これまでのように疾病治療薬に限定することなくヘルスケア全体を俯瞰し、医療の質向上だけでなく医療の効率化を実現する画期的なアイデアを創出する力
・生まれたアイデアを実現するための最適な手段を見つけ出し、社内外のリソースを活用してうまく早く患者さんに届けるべくプロジェクトを推進し事業化する力
・これらを実現するために、異業種や受託会社、アカデミアを含む社外と共同するネットワーク力、ビジネス構築力(収益の適切な分配)
・当局や医療関係者の理解を得て、新たに創造した製品の価値を適切に示していく力

これからの製薬会社には、このように今までより幅広い視野で、他機関を巻き込んでヘルスケア業界の進化を支えていく存在へと変化することが求められていると感じた。

まとめ

製薬業界を含む、ヘルスケア業界は少子高齢化を迎える先進国やこれからも人口が増え続けて医療が行き届いていない途上国で必要とされ続ける業界だろう。ただ、少子高齢化が進んでいる国では財政面から医療費の削減が欠かせない。また、高価な技術を発展させ続けるのではなく、デジタル技術を活かして安価で効果の高い包括的なサービスの開発に注目が集まっていると感じた。

本書を読んでいて私が最も印象的だったのもAIやICTなどのデジタル技術の医療への影響に関する情報だ。AIを使ったドラッグリパーパシングの事例や効果で開発に数十年もかかる新薬と同等の効果を発揮する安価で数年で完成するオンラインアプリの事例に心を惹かれた。

今後も、ヘルスケア業界でのAI、ICT活用事例についての動向を追っていこうと思う。