見出し画像

第六十三話 薬との決別

職人を辞めて、水商売の世界に入る頃、私は薬物はだいぶ抑えるようになっていた。だが週に何回かはマリファナを吸わなければ落ち着かなくなっていた。その当時の彼女、フィリピン人のチェリーもマリファナは好きであったので店が終わった後会う時などは一緒にマリファナをよく吸った。

キャバクラで働き始めてからは、深夜まで仕事をして次の日は昼過ぎには家を出なければならない生活になっていたので、自然にマリファナをやったり買いに行く回数も減っていき、彼女と会う時間もなかなか取れなくなっていた。その頃にはスカウトで実績を上げることが自分の中での目標になっており、その他の事にはあまり関心がなくなっていたのだ。

彼女と会う時間は、週に一日日曜日になっていた。日曜日はお互い仕事が休みだったからだ。マリファナを吸うのも週に一日になっていった。キャバクラで働き始めて半年がたったころ、チェリーはフィリピンに帰らなければならないと言ってきた。またビザを取って日本には戻ってくるのだが、どの地方に行くかはまだ分からないというのだ。東京だとしてもどの店に行くかはその時になってみないと分からないらしい。

話し合った結果、彼女とは別れることにした。日本に戻ってきたとしても遠距離になるかもしれないし、会えなくなる可能性のが高かったからだ。私は正直その時は仕事に集中したかったし、会えなくなれば仕事がメインになってすぐに忘れるだろう思っていた。会わなくなってから彼女の事を考えることもなくなっていた。

それでも週に1~2回はマリファナを吸っていたのだが、そろそろ薬物は止めようという気持ちが出てきた。もう少しで20歳の誕生日が来る頃だった。20歳になるのをきっかけに薬物をやめる決意をした。決意はしたもののなかなか完全に止めるのは難しかった。どうしてもたまにやりたくなって買いに行ってしまう。止めよう止めようとする思いと、少しだけやりたいという気持ちとの綱引きであった。止めようという気持ちが強ければやらないでいられるが、やりたいという気持ちが強くなってきてしまうと買いに行ってやってしまう。

マリファナをやっても仕事を休むことはなくなっていた。職人をやっている頃は人手に余裕のある日などはついつい休んでしまう事があったのだが、キャバクラで働き始めてからは仕事が面白く、休むことはなかった。なんとかマリファナを止めようと頑張った。やりたくなっても買いに行くのをグッと我慢した。最初は辛かったが、なんとかこらえられるようになってきた。辛くなったときはスカウトをした女の子に連絡をしてみたりと、仕事をすることによって耐えるようにした。

20歳の誕生日が来て、今まで月に一回通っていた保護司も終わりになる。色々とお世話になったので「ありがとうございます」と素直に感謝した。
「もう悪いことするなよ」と言われ、「わかりました」と返事をした。
そして20歳になって少し経った頃には、完全に薬断ちをすることに成功した。思えば中学生の頃のシンナーから始まり、色んな薬物を経験してきたが、完全に止められる日が来るとは思ってもいなかった。薬物を止めたことによって、これからは真っ当な生き方が出来るとこの時は思っていた。

スキやコメントを頂けると毎日更新の励みになります。

次回もよろしくお願いします。

次回に続く

よろしければサポートをお願いします。いただいたサポートは、noteの有料記事の購入やクリエイタとしての活動費などに使わせていただきます