国語的教科探究「思考と言語」2022春・夏
第1時 ことばで考えを共有する
『普通の小学校では、国語って呼ばれる時間があるんだけれど、ヒロックでは「思考と言語」という時間があるよ。ところで「思考」と「言語」ってなにか知ってる?』
「かんがえることと…言うって書いてある」
3年生のある女の子が言いました。
「そうだね!思考っていうのは考えること、言語っていうのは言葉ってことだ。ヒロックでは物語を読んで想像したり、言葉でいろんな考えを表したり、そんな時間をこれからとっていくよ。」
とても抽象的ですが、まずどんな時間なのかを言葉で伝えることはとても大切です。この後の体験が文字通り学習者の思考と言語感覚を育んでいきます。
活動①「こころかるた」
こころかるたは山札からカードを1枚取り、書かれたお題に対しての自分の考えをお互いに伝え合う遊びです。
フリートークではなかなか自分の意見を話せない子もいますし、傾聴するのが苦手で「ぼくはね!」「わたしはね!」と相手の話のときに遮ってしまう子もいます。
一人ひとりの個性は尊重されるべきですし、無理に矯正する必要はありませんが、学びの時間の中には自分の考えを伝える時間、相手の考えを知る時間は意図的にデザインされる時間もあっていいと考えています。
「今までに自分で発見したことを一つ教えて下さい。」
「あなたは友だちから何かを借りたいときどういうふうに話しかけますか?」
「お休みの日は何をするのが好きですか?」
「あなたは勇気を出して何かをしたことがありますか?それは何ですか?」
このようなカードの中には今まで考えたことがあるような質問もあれば、考えたことがないような質問もあります。
また、今後生きていく上でこのような問いの答えは変わっていくでしょう。
このような問いに答えを出したり、別の意見を聞いたりすることは自己と他者の理解を深めるきっかけになります。
「伝えられて嬉しい。」
「あなたの気持ちを知れて嬉しい。」
「考えるって面白い。」
「ことばってすごい。」
そんなことに気づく時間になればと思います。
活動②読み聞かせ
思考と言語の時間には物語や説明文、エッセイなどを扱います。今回は
「アームストロング 宙飛ぶネズミの大冒険」(トーベン・クールマン/作、金原 瑞人/訳)を扱いました。絵も綺麗で、物語自体も年齢問わずワクワクする素晴らしい一冊です。
読み聞かせをしながらシェルパは
「このねずみはどんな性格をしているんだろう?」
「なんで宇宙に興味を持ったんだろう?」
「宇宙のことを調べているとき、どんな気持ちだったんだろう?みんなは何かを調べているときどんな気持ちになる?」
『「得意げに発表している」と書いてあるけれど、「得意げ」ってどんな意味?』
上記の質問にも、こころかるた同様明確な答えはありません。「自分はこんな想像をした」「自分だったらこう思う」自分の思考を言語化していきます。
また、絵の中に何があるかをよく観察します。
「ねずみは人間と一緒に住んでいるのか?」
「なぜこの部屋にこんな物が置いてあるのか?」
「もともと誰の部屋だったのか?」
じっくり絵を観察することで観察力、想像力を駆使する「学習者の身体」を育むことができます。
ヒロックは異学年で活動していますが、異学年の集団の中には言葉に慣れている子もそうでない子も混ざっています。しかし、各々の感性で想像したり、理解したことを拙い言葉でも伝え合うことで個々人の言語感覚は洗練されていきます。
国語の問題というと答えが一つしかないペーパーテストが想像されますが、このようにそれぞれの捉え方により自分で考え、言葉で表すことは言語活動により育まれていきます。
第2時 何が描かれている?
先日に続き、「アームストロング 宙飛ぶネズミの大冒険」の読み聞かせです。
「前回どんな話だったけ?」そうシェルパが聞くと
「月が好きなネズミがでてきた!」
「仲間のネズミにも月のよさを伝えようとしたけど、仲間のネズミは全然聞いてくれなかった!」
「あ、そうそう!他のネズミはチーズに夢中だったんだよ!」
「丸いチーズって月に似てる!」
週に一回、一度しか話していないお話でもこれだけ覚えているのは
テストで問われるために学ぶ物語ではなく、物語そのものが楽しかったからでしょう。
今日も読み聞かせをしながら物語を進めていきます。
宇宙が好きなネズミは、ある手紙を受け取り、ニューヨークへ旅立ちます。
差出人不明の手紙を受け取るところからネズミの冒険が始まり、コゥ・ラーナーたちはドキドキがとまりません。
絵本のいいところは文字情報以外からも解釈を膨らませられるところです。
挿絵を見たコゥ・ラーナーたちは矢継ぎ早に自分たちの発見したことを話します。
「ねずみはどこ見てるんだろう」
「手紙を見ながら歩いてる!」
「ドキドキしてるかもね」
「はじめてのところにいくからじゃない?」
文章からも、挿絵からも状況を理解することで登場人物の気持ちを推察します。
気持ちを推察するのは「登場人物の気持ちを答えよ」という問いがあるからではなく、相手の状況を理解すると自然に気持ちを推察しはじめます。日常生活と一緒ですね。
ただ、「何を見ているか」「なにを推察しているか」は人によって違います。だからお互いの考えたことを自然とシェアする環境が大切です。
第3時 子どもの生活とリンクする
ネズミはニューヨークで同じ空を飛ぶことを夢見る老ネズミより激励を受け、ロケットづくりを決心します。
様々な試行錯誤をしますが、ネズミはついに大失敗をして隠れ部屋を火事にしてしまいました。しかし、その後ネズミはその教訓を生かしてロケットを成功させます。
丁度その日はスクール全体でタイムマネジメントがうまく行かなかった日。こういったときによくあるのは「失敗をどう活かすか」といった話し合いです。
もちろんそういった議論は大切です。
しかし、その手前に考えるべき大切なことがあります。それは「失敗したときに感じていることはひとりひとり違う」ということを認識することです。
今回物語に登場するネズミは「失敗しても深く落ち込まず、試行錯誤と改善を繰り返す」性格でした。
しかし、全員が全員そういった性格の持ち主ではありませんし、性格に優劣があるものでもありません。
「失敗した時、どんな気持ちになる?」
そう聞くとコゥ・ラーナーたちは
「すごく落ち込むけれど、次の日になれば元気になる!」
「結構引きずっちゃう…」
「どうすれば良くなるか考えることが多い!」
十人十色の感じ方です。
失敗を糧にして建設的に考えることは素晴らしいことですが、自分はどう感じやすいのか、を知る機会を得られたり、ストーリーを通じて新しい考え方に出会うのも物語のよさです。
第4時 実際の世界とリンクする
今回の物語には実際の歴史とリンクするものが登場しました。
挿絵の中に冷戦のを想起させる描写があったのです。
そういった時はすかさず読むのを止めて説明をはさみます。
・昔はアメリカとソビエト連邦が戦争はしていないけれどケンカをしていて…
「どうしてケンカしていたの?」
「戦争しないけれどケンカしていたってどういうこと?」
・お互い大事にしたい考えが違っていて、どちらのほうが素晴らしいかを競っていたことがあって…
・どちらの科学のほうが進んでいるかを見せつけあっていることもあったよ
「大事にしたいことって?」
「あ、どっちがいいロケットを飛ばせるかって競争?」
この段階で大切なことは正確な知識を詰め込むことよりも「自分なりの疑問を持つことで歴史とつながること」です。
その上で歴史の知識を知ることで物語にも厚みがついていきます。
ヒロックでは、覚えるだけの歴史ではなく、ストーリーがある歴史、人々の息遣いが聞こえる歴史を理解できるようなタイミングで歴史に触れていきます。
第5時 聞き手から読み手へ
シェルパは元教員です。教員の世界には児童生徒に「聞かせる技術」もあります。
しかし、教員が「表情豊かに読んでくれるから楽しく聞ける」という状態だけでは消費的な楽しさにとどまってしまいます。
あるコゥ・ラーナーがいいました。
「ぼくも読んでみたい!」
そのようなチャレンジは積極的に応援します。うまく読めても読めなくても、成長につながるからです。
また、うまく読めても読めなくても、コゥ・ラーナーたちに
「チャレンジしていいんだ」
「やりたいことを表明していいんだ」
ということを伝えられる機会になります。
どれだけ教員が「チャレンジが大事」といってもそういった場をつくることができなかったら、もしくは失敗を咎めてしまったら児童生徒に伝わるのは「うまくいくチャレンジしか認められないんだ。」ということです。
こういったことはヒドゥンカリキュラムと呼ばれ、多くの教育現場で矛盾を引き起こしています。
逆に言えば成否に関わらずチャレンジを応援することで、言葉で伝える以上にチャレンジを促す文化を作れると考えています。
消費的な楽しみから創造的な楽しみへ。
受動的な楽しみから主体的な楽しみへ。
物語を通じて様々な楽しみを伝えていきます。
第6時 もしも言葉がなかったら
5時間をかけて一冊の絵本を読み切りました。
ここで「物語」という言語を使った具体物から「言語そのもの」へ視点を移そうと思います。
今回はコゥ・ラーナーに一つのお題を出しました。それは、
「言葉(声・文字)を使わず、今日、学校が終わった後何をするか教えてください。」
というものです。
最初は口をパクパクさせたり、指や手、身体全体を動かして何かを伝えようとするコゥ・ラーナーたち。最初から「絵を描く」という視点しかなかった大人であるシェルパは
(そうか、なんとかして伝えようとすると身体が先に動くんだな)
と改めてコゥ・ラーナーたちのクリエイティブに驚きました。
その後、あるコゥ・ラーナーが「どうしても声出させて!絵を描いて伝えたいから紙がほしい!」と話しました。その後別のコゥ・ラーナーが「だったらスクールタクトにページ作ってよ!」と提案します。
みんながなにをするのか、どんなふうに表現したのかスクールタクトで共有します。
「ここから声出していいよ」
とシェルパがいうと「ああ〜話せるって素晴らしいっ!」という第一声。
コミュニケーションは心地よいものですね。
そこであるコゥ・ラーナーがポツリと言いました。
「そうか、絵だけじゃなくて、写真も言葉なんだ。」
何かを伝えるのは文字や声だけではありません。何かを伝えるためにアイディアを出す、そうやってコミュニケーション(人と人の関わり)の歴史は紡がれていったのでしょう。
最後にふりかえりです。文字はどんな時に使っている?どんな役割がある?そんなことを考えました。
「文字はどんな時に使っている?どんな役割がある?」
この問いは今回で終わりではありません。文字に対して、言葉に対して様々な活動を通じて理解を深めていきます。
その時にまたこのシートに立ち戻り、自分の言葉に対しての理解の変化を楽しんで欲しいと思います。
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