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3/5 君は「インスタの広告でよく見る映画オーディションの正体」を知っているか。

先週、演劇サークルを引退した。卒業公演では脚本と演出を担当したのだけれど、これまでは基本的に役者をやっていた。そのモチベーション、というか「役者をやってて楽しいな」と感じる理由は、役者をやっていると「堂々とスラスラ喋るのは楽しい」という気分になるという点にある。

普段、自分は「堂々とスラスラ」喋ることはあまりない。それこそ今回演出をやったが、何か自分の考えを求められるときや場をどうにかしなければいけないとき、そういった「堂々とスラスラ」発言できれば一番良いような場になると「あ゛〜、ぅ、ぇ〜」か沈黙してしまうというケースが多い。こういうとき、別に頭が真っ白になっているわけではない。色々なことが浮かんでいはするが、どれを正解として言えば良いのかわからなくなって黙ってしまう、というのが正直なところだ。

しかし、役者には台本がある。正解の言葉はすべてそこに書かれており、何を言うか悩む必要がない。よって「堂々とスラスラ」喋ることができる。自分は舞台上でいつも「あ〜今自分、堂々とスラスラ喋れてる〜!楽しいな〜!!」と思っているのだ。

今回は、そんな楽しい「役者」について書こうと思う。「役者」というか、正確には「役者のオーディション」についてだ。Instagramで、こんな広告を見たことはないだろうか?

個人的には、かなり頻繁に出てくる類の広告だと感じる。リンク先に飛び、詳細を見てみよう。


しかし、怪しい。まず社名を出せよ、という感じだ。(ちなみに広告で名前を出していないのでここで書いておくが、「株式会社REAL」というのが社名だ。なぜ伏せているのだろう。何かやましいことでもあるのだろうか?)

というわけで、自分はこのオーディションに申し込んでみた。去年のことである。するとメールと、オーディションシートなるものが送られてきた。

ところで、オーディション日時に注目して欲しい。「11/12」とある。去年の話だ。そして、最初に自分が「こんな広告を見たことはないだろうか?」と貼ったスクショはついさっき(3/5の18:30ごろ)のものだ。両方とも「2023年公開予定の映画」という触れ込みで募集されたほとんど同じ広告であり、監督も同一人物(岡本英郎監督)だった。確かにさっきスクショした広告には「第二弾」と書かれていたし、11月のものが「第一弾」であってもおかしくはない。しかし、2023年公開予定の映画のオーディションを11月と3月にやるというのは……映画業界では当たり前のことなのだろうか。3月って遅すぎない?

というか、リンクを開いたらページ名が「2022年公開予定映画のメインキャストを……」になっている。これ2年くらい前から同じページ延々流用してない?

さて、ここまでで何となく察してはいるだろうけれど……このオーディションは「悪質商法」の一環と言って良いと思う。注意したいのは「詐欺」ではないということだ。なぜ自分がそう考えたのか。実際にこのオーディションに参加した話をこれから書いていくので、読んでみてほしい。

広告オーディションへ、GO

募集ページにあった電話番号にかけると、女性スタッフが応対してくれた。オーディションを受けたい旨を伝えると「次の土曜日にもあるんですが、来れますか?」と言ってきた。え!?次の土曜日?次の土曜日というのは、要は翌日だった。

マジかコイツ、え?オーディションってやっぱり夢のためなら何でもする役者志望を相手にしているせいで感覚が麻痺しているのだろうか……許せない……今度脚本を書くとき「夢を理由に無茶苦茶なことするキャラ」を出そう……などと思った。実際のところ次の土曜日、翌日は暇だったのだがその通りにするのもシャクだったので別日にしてもらった。

さて、オーディション当日。西新宿駅で降り、数分歩いたところがオーディション会場となっていた。ビルの地下一階が鏡張りのレッスンルームのようになっており、参加者(自分含めて7〜8人)はそこで監督を待つように言われ、待機していた。部屋には監督の過去作品や、オーディション主催事務所が協賛した映画のポスターなどが貼られており「いかにも真っ当な事務所っぽいな」と思った。もちろん、真っ当な事務所である❗️

しばらく待つと監督と、謎の男が現れた。この男の肩書は最後までわからなかった。誰?

オーディション参加者が一人一人自己紹介をし、自己アピールをこなし、それに対して監督と謎の男が2.3質問をする。厳しいことを言われるでもなく、比較的なごやかにオーディションは進む。そのあと2人組に分けられ「ラーメン屋の店主と客。2人は会話しても良いし、しなくても良い。自然な様子を即興で演じてください」と言われ、順に演じていった。その後、一人一人呼ばれて「二次面接のスケジュール調整」を行い、その場は解散。これが一連の流れだった。

会場から出て駅に向かおうとすると、オーディション参加者の1人と鉢合わせた。曖昧な挨拶をして帰ろうとしたのだが、今日の感想やら二次面接への展望を話し出したので、一緒に帰ることにした。少し前に別のオーディション参加者がいたのだが、彼はその人にも声をかけて会話に巻き込み、オーディションを終えた3人は連れ立って新宿駅へ向かった。

しかし、どうやら自分以外の2人はあのオーディションを「怪しい」と考えてはいないようだった。2人とも自分とは違い、エキストラだか若手俳優だかの事務所に所属しているようで、これは自分が単なる素人大学生だから業界のセオリーがわからないのかと思ったが、どうなのだろうか。騙されかけていると感じたのは、あの会場で自分だけだったのだろうか。

おそらく、この映画オーディションで不合格になるものなど誰1人いない。最後に今後の流れを説明されたが、順序としては「オーディションに合格した人には、事務所で一定期間レッスンを受けてもらい、その後撮影。撮影した映像は映画祭に出品したり、DVDを製作する」ということらしかった。これこそ、自分が「悪質商法」だと感じた理由だ。

もし、このオーディションが有料かつ、オーディション後にまったく音沙汰が無いとかであればそれは純然たる詐欺だろう。しかしそうではない。

オーディションは無料だ。そして合格したら、レッスン料を取り、撮影をし、作品は完成、DVDが出来上がる。その制作費はどこから出ているのだろうか?オーディション合格者が支払うレッスン料からなのではないか……と、自分は考えた。レッスン自体は行われている、作品もできている。文句を言う筋合いはない。しかし、オーディション参加者には「この映画への参加がプロの役者として食べていくきっかけになれば」「映画業界に入れたら」と考えている人も多いだろう。勝手に期待しただけだ、と言われればそうである。しかしその期待を利用して、せいぜい思い出作りにしかならない映画製作とそれを使った金儲けが行われているのではないか。

数日後、二次面接。

というわけで、自分は断る気満々で臨んだ。会場となるのはオーディションの際と同じビル。監督や謎の男はおらず、スタッフの女性が待っていた。そこでまず、先日のオーディションの感想を書くように言われたのだが、字の圧が強すぎるねと笑われた。笑ってもらえて嬉しかったので「へ、ヘヘッ!!」と言っておいた。

そこからまず、オーディションの合格を告げられた。そのときは「全員に言ってるんだろ!」と思っていたが、そこからがヤバかった。正直にいうと、あれだけ事務所や監督のことをネットで調べ、十分に断るだけの理由と断る気持ちでやってきたにも関わらず、50万円近くレッスン料を払って映画に参加しても良いかな……と思ってしまったのだ。なぜか。二次面接を担当したスタッフが「君が一番上手かったし、監督もそう言ってたよ」と言ってきたからである。

最初にそう言われたときは「全員に言ってるんだろ……」と思った。しかし、「本当に良かった」「あの中で一番褒められてた」と繰り返され、「この人優しい……上手いって言われた……け、契約しちゃおっかな……?」と思ってしまったのだ。就職先も決まっておらず、おそらくほぼ留年も確定し、演劇も休止中で、卒論を書くことだけを楽しみに過ごしていた当時の自分としては、将来がやや不安だったのもあったかもしれない。

たとえ常套句であることなどはなからわかっていても、「1番褒められてた」と言われてしまえば、めちゃくちゃ揺らぎ、すがりたくなるという自分の心性に気付かされたのはこの一連の出来事における大きな学びだった。あと、監督に「どんな脚本書いてるの?」と聞かれてモゴモゴ言っていたら「それを端的に答えられるようになると良いよ」と言われ、確かにそうだ、最もなアドバイスだなと思った。ありがとう監督!!!

今回の総括。

このようなオーディションを、自分は良いとは思わない。悪質だ、と感じる。たとえ出演したとしても、それが役者としてのキャリアになるとはあまり思わない。ただ、同時に意味のないものになる可能性しかないかと言われれば、そう断言するのは難しいと思う。誰かに認めてもらえたり、気の合う仲間ができたり、もしかしたら本当に役者として成功する道が掴めるかもしれない。それは正直わからない。ただ、「自分はこういう体験をしてこう考えた」ということだけは、ここに記録しておこうと思う。

最後に、本オーディションの主催である株式会社レアルが2020年に紛争案件となった際の報告書を添付して終わる。

https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/sodan/kyusai/documents/87houkokusyo.pdf

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