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サニーサイドアップ

 手のひらを上にした時、見えるくらいの長さの爪でキーボードを叩いている。昨日は褒められたのに、もう色が剥げてきた深紅のマニキュア。

 寝室にあるネイル落としを思い浮かべながら、カチャカチャのキーボードの合間に携帯をチェックする。

 彼女からの連絡はまだない。爪の音が忙しくなる。

 ほらね、もしかしたら彼女、私の気持ちに気付いちゃったのかもよ。後ろめたい感情は、自分の業務の中に埋もれていく。メールもプレゼンの資料もデータも、全部用意したって、彼女がこっちを振り向いてくれるわけじゃないのにね。


 明日になったら、世界がひっくり返ってくれていると嬉しい。目覚ましを睨む午前七時、多分、彼女からのメッセージだけが、差し込む朝日のように優しく私の薄眼を撫ぜる。

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