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M&Aの流儀④:交渉(「さようなら」と言える日本人になろう)
細田薫です。私に気付いていただき、ありがとうございます!
「私のM&Aの流儀シリーズ」第四弾。前回に引き続き、「交渉」がテーマです。今回のフレーズは「さようなら、と言える日本人になろう」。交渉で負けないために、私が最も重要と思う部分に触れていきたいと思います。
「Bye-Bye」といえない交渉など、交渉ではない
M&A案件が失敗する理由は多様なものがありますが、私は「買収交渉負けしていること」、つまり「不利な状態からスタートしていること」が一番の理由だと思っています。
そして、買収交渉負けする最大の理由は「さようならと言わない」からだと信じています。簡単に説明すると以下です。
・私の知る限り、日本企業、特に大企業はM&A交渉で「あ、じゃあいいです。次行きますんで。あざした!」と言えるケースが少ない。
・「最終的にさようならと言わない」と途中でバレるから、相手がどんどん折れなくなる(場合によっては、最初からバレてる)。
・そしてやっぱり「さようなら」と言わないから、不利な条件で契約をせざるを得なくなる。
・そもそもM&Aというのはリスクが高いものにも関わらず、不利な条件からスタートしているから高い確率で失敗する。
皆さんも仕事やプライベートで交渉やお願いをするときに、「断られたらどうしよう」「断られない様にするにはどうしよう」と考えながらやりますよね?
この心配が無い交渉を思い浮かべてください。チョロくないですか?途中で「NO」と言われたとしても、それを理由に破談になることは無いわけです。
勿論、余りに理不尽なことを言えば相手も去って行きますが、そこに辿り着くまでにかなりの余裕があるとすると、大きな自信を持って相手と対峙出来ることになります。
「さようなら」と言えない中でやる交渉なんて、交渉ではありません。
なぜ言えないのか?
色々な理由がありますが、主に2つの理由があると考察します。
①交渉責任者≠意思決定者
②この案件無くなったら、その予算は他に行ってしまう問題
①は分かりやすいと思いますが、一つ想像してみてください。
今貴方はブラジルにいます。日本との時差は12時間、ブラジル15時で日本27時。交渉責任者ですが、意思決定者は「東京の上司の上司=A氏」です。だいぶ偉い。直接電話出来るような間柄ではありません。
そして今、相手が理不尽な条件を突きつけてきて一切譲りません。過去の話とも整合しないし、貴方は今すぐに机を蹴って出ていきたい位怒ってます。ただそうするとDeal Breakの恐れもあります。
ここで、「サラリーマンの貴方」が囁きます。
・ここで断って、本当にA氏は「よくやった!それでいい!」って言うのか?
・「なんで破談にしたんだ!?」とか言われないのか?
・いいのか、お前はここで断って?評価下がるんじゃ無いのか?
結果「持ち帰ります」と言い、出来るだけ早い東京との電話会議アレンジをトライします。しかし運が悪い。A氏は今出張中で、電話会議は最速で一週間後だと。
とりあえず直属の上司と話しますが、彼も「うーーん、A氏のご意向は聞かないとな。。。」と言い、結局メールで長々と説明し、2日後に返信がありました。「いいよ、断って」。
前回の交渉から4日経ってから先方に対して「残念ながら、その条件は受けられない。」と伝えると、なんと「OK。じゃあ取り下げよう。」とのこと。そっと胸を撫で下ろしたのも束の間、「じゃ、その代わりここはこうね」と言われて、また不利な条件が。。。。(END)
あらら、完全に「心理的川上」に立たれてしまいましたね。こうなるともう、蟻地獄です。いつかどこかで必ず譲る時が来ます。
必ずではありませんが、海外での交渉時、先方は多くのケースで「交渉責任者=意思決定者」です。少なくとも私は今まで100%そうでした。こんなチンタラやってたら舐められるのは当たり前です。
②は、より「ドロッ」とした話です。
当然会社には年間に使える金額が決まっています。それが、各部隊に分配されて、各部隊の年間予算になります。一方、投資案件というのは仕込みから実現まで2年・3年平気でかかります。そうすると、
「今この案件をここで断ったら、折角確保した予算が他部隊に行ってしまう。しかも次に仕込む球(案件)がこのステージまで来れるかも分からない。。。つまり、次のチャンスはいつか分からない。。。。くっ。。。ならば行くか、地獄の釜の底へ・・・・!!!!」
という心理状態になり、「さようなら」と言えずに相手の要求を呑んでしまう訳です。以上、①と②を纏めると、
・そもそも余程のことが無い限り、「さようなら」と言いたくない。
・そして言うにしても、その場で自分で決められない
ということです。闇ですね〜。
では、どうしたらいいのか
一つは、「意思決定者であろうが無かろうが、自分で決めて、その決定に自分で責任を取ろうとする社員を増やす」ということです。
私はとある案件で、意思決定者ではなかった上司が日本時間27時に「さよならレターを書くから、お前もサインしろ」と言われ、驚いた経験があります。
確かに、相手が明らかに付け上がっていたのでBest Timingであるのは分かっていましたが、翌日まで待っても良いわけです。でも、相手が理不尽なことを言った「その日・その瞬間」にカウンターを食らわすことに意味があると判断し、その日にレターを送りました。
その結果、そのレターに面食らった先方が態度を変え、それ以降よりフラットな形で交渉を行える様になりました。結果、客観的に見ても「フェアであり、当社側に不利な項目がない」契約になったと思います(自社に有利にするのはまた違う。次週触れます)。
私も今は「責任者」として矢面に立つことが増えましたが、NOと言いまくってます笑
もう一つは、「権限移譲する or 上司がとことん部下を信じ切る」、です。
社内ルール上、実際に権限移譲出来れば、それに越したことはありません。でもそんな簡単なことではありません。他にも多様な権限があり、それらとの整合性もあるでしょう。
なので、やはり大事なのは「信じる」「責任を取る」ということに尽きます。
以下交信は、前回もご紹介した「逆命利君」という商社を描いた小説の一コマ。
(以下、テレックスでの交信)
部下:「事態複雑一任乞う」
上司:「一任する」
こんなシーンがあちらこちらで見られる会社で、「ネゴ負け」なんて起きないでしょう。信じてもらった彼・彼女は、勇気を持ってその場で決断するはずです。
私は今や相談することも減ってしまったので、この憧れのシーンを再現できなさそうですが。。。
「信じる」から「成長する」
上に挙げた2つは、非常に密接に繋がっています。いきなりそんな「覚悟のある優秀な奴」がタケノコのようにポコポコでてくる訳がありません。
「任せられて、失敗して、学ぶ」、このプロセスを踏んで初めて人は大きく成長します。それも「非連続的」な成長です。
でも、M&Aとなると「社運」とまでは行かなくとも「本部運」とか「部運」が賭かることがあるでしょう。その時に、どこまで任せられるか。偉い方々の胆力が求められます。
私は、27歳の時に「この60億円の案件、任せたよ。チームはお前ともう一人だけだ。」という意味不明なコメントをいただき、本当に任せてもらいました。
それからというもの、ベンチャー投資や別のM&Aなど色々やってきましたが、この最初の案件が無ければ、全てが違っていたでしょう。あの時任せてくれた上司には今でも感謝と尊敬の念が絶えません。
私も、これを「恩送り」ならぬ「信頼送り」が出来るよう、精進していきたいと思います。
おわりに
書いていて驚きましたが、前回と今回、同じ着地点になりました。「如何に信じてあげられるか」。
最近人事関係、組織論関係の本を読み漁っていますが、学べば学ぶほど、事業の成否は表面的なテクニックではなく、その組織の文化や仕組みによって決まる、ということを強く感じます。
このシリーズではある程度テクニック的なところも触れていきますが、やはり根っこの部分が何より大事だ、ということを忘れずに連載していきたいと思います。
今回も最後までご一読いただき、ありがとうございました。以下に過去シリーズを挙げておきます。
細田 薫
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