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M&Aの流儀⑧:可愛い子には権限と責任を渡そう

細田薫です。私に気付いていただき、ありがとうございます!
このシリーズも残すところ、あと2回。ぜひお付き合いください!!

「私のM&Aの流儀シリーズ」第8弾。今回のフレーズは「可愛い子には権限と責任を渡そう」。ここでいう「子」は、時に担当者、時に事業会社を意味します。

自分の大事な「子供達」にしっかり権限委譲できるか、任せてあげられるかが、M&Aの成否を分けます。

第一ステージ:出資完了まで 〜担当者を信じてますか?〜

出資完了までは社内の話です。

その案件のことを一番わかっているのは誰でしょうか?言わずもがな、「担当者」です。担当者は、自身の案件の成就のため、日夜その案件のことばかりを考え、没頭しているはずです(そうでないのなら、M&A担当者は務まりません)。

先方との交信、先方意向の理解、出資スキーム、シナジーの作り込み、出資後のPMIスキーム組成、何百頁に及ぶ契約書作成、DD推進、そして税制・労働法・会社法・会計制度・マクロ環境の理解、さらには社内説明資料の作成、、、、

その夥しい量の業務を一手にこなし、その案件のミクロもマクロも理解しているはずです(多くの方のサポートを受けながら)。

私が過去に両手両足を突っ込んで実現させたM&A案件は二件ですが、「絶対に何を聞かれても答えられる」という自信を持っていたのをよく覚えています。

一方、M&Aでは数十、時には数百、数千億円が動きます。その意思決定をイチ担当者がする訳もありませんし、担当者は少なからず前のめりになっていますので、それはそれで健全な姿ではありません。また、意思決定者においても清水の舞台から飛び降りるような案件かもしれません。その上で、

「貴方は担当者にどこまで任せられますか?」

この回答によって、案件成否が決まります。

人間、任せられれば任せられるほど、やる気が出ます。潜在能力が発揮されます。一方、やたら細かく確認や報告を求められたら、「あ、俺は信頼されていないんだな」となり、出力は本来の80%にも50%にもなります。

とんでもなく重い荷物を持って走ってるのに、イチイチ止まっていたら、担当者は前に進めないのです。

所謂「大企業」では、担当者から決裁者までの間に関係者が多数います。ギアを調整する人、性悪説的に案件を斜めから見る人は必要ですが、それ以上に関係者が多く、意思決定者以外にも歩みを止めようとしてくる人、走ってるのに横から質問してくる人がいます。

そんな彼らに対して、「俺はこいつに任せてるんだ」と意思決定者が言えるかどうか。これが必死に走っているランナーの歩みを止めない、最高の一言です。

この、「任せているかどうか」は交渉の場面でも重要になってきます。それについては第三弾で綴っていますので、合わせてご覧ください。

第二ステージ:出資完了後
〜自分が選んだ会社・経営者を信じてますか〜

ここからは出資後の話です。所謂PMI(Post Merger Integration)のステージです。

1年以上の歳月、そして多額の資金を投じて実現させた買収案件です、会社側は何としてでも「成功」させたい。しかし、

・PMIは「現場」で起きているので、毎日何が起きているかはわからない。
・現場から送られてくる報告も、文書だと十分にはわからない
・何か悪い情報が書かれていると、気になって仕方がない
・社内の定期報告会で、PMI進捗報告が求められる(これが一番?)   …etc

こういった状況が株主を「ヤキモキ」させます。ついつい口を出したくなってしまう。ついつい元々のスケジュールに無かった突発的な会議や追加の定例会議を設定してしまいたくなる。

しかし、PMIの現場は戦場です。そもそも、株主が変わり、よく分からん外国人が数名来ている時点で、事業会社側は非常に不安定な状態になっています。そんな不安定な状態に配慮しながらも、最初のハネムーン期間に色々と推し進めねばならず、PMIチームは必死の日々を送っています。

そんな中、遠方の地からピントのズレた質問だったり、不急の会議の設定依頼が来たらどうでしょう。「はあ!?」「はあ。。。」の両方の気持ちが巻き起こり、シンプルにDemotivateされ、しかも時間を取られるので「量と質」の両方が下がり、結果としてPMIの成功確率が下がっていきます。

また、これは経営者との距離感にも言えることです。

本来的に株主と事業会社・経営者の接点は「株主総会」だけの筈です。株主側従業員が取締役になっている場合は取締役会もそうなりますが、いずれにせよ「年に数回」の筈です。

そして、株主は経営者の手腕を見込んで買収している筈です。さもなければ、買収時に社長を変えています。その優れた「経営者」とのコミュニケーションは、現地のPMIチームの仕事です。

しかし、「不安」な株主はここでも経営者とのコミュケーションを取ろうとします。月次業績開示の度に直接会話をして、質問して、提案して、、、そのうちその経営者はこう思います。

あれ?俺って信頼されてないのか?

経営者側も不安なんです。新しい株主が自分をどう思っているのか。口では「任せた」と言っても、行動が全てです。1kmごとにラップを取られては、監督を信用することなど出来ません。つまりは、

・事業会社、経営者、自社の担当者を大人扱いしましょう
・困っていたら手を差し伸べてあげましょう
・ 大事な意思決定の時は、一緒に考えてあげましょう

これがPMI含めた、買収案件成功の秘訣です。株主は頑張って「不安」を押さえ込んで、ドンと構えましょうよ。

おわりに 〜私の経験〜

この「M&Aの流儀」シリーズは、基本的に私の体験談に沿って執筆していますが、今回は特に実体験として強く感じている標語をご紹介しました。

というのも、過去2案件ともに「上司たちが尋常じゃなく任せてくれた」のです。初期的交渉からPMIまで、本当に任せてくれた。止められるようなアプローチを受けた記憶はほとんどありません(少しノスタルジーが悪さをしていると思いますが笑)。

両案件をやった時、私は今よりも更に未熟でした。でも、任せ切ってくれたからこそ、300%の熱量で取り組み、足りない知識はその場で必死に補い、自身の成長を伴いながら、なんとか2案件を実現させることができました。そして、今の所、両案件とも「成功」と言っていただける成果を出しています。

もし定点観測をされ、イチイチ誰かの承認や決定を求められていたら、あの熱量は生まれなかったですし、案件の成功は無かったと断言できます。

また、今いる会社の経営者も、本当に任せてもらっています。その結果、新体制の下で伸び伸びと経営を行い、結果を出しています。

自分も今後「任せる」立場になっていく中、自分がやってもらえたことを他者に出来るような人間になりたい、という想いも込めて綴りました。

最後までご一読いただき、ありがとうございます。もしよろしければスキやシェアをお願いします!

次回最終回、「失敗は希望」、お楽しみに。

細田 薫

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