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M&Aの流儀②「はじめまして、好きです」、そんなわけないよね
細田薫です。私に気付いていただき、ありがとうございます!
「私のM&Aの流儀シリーズ」、第二弾。ここからはM&Aの実際の流れに沿う形で流儀をご紹介していきます。今回は「Long list & Short List」です。先にこちらに来られた方は、是非第一弾を読んでいただければと思います。
そもそもLong List、Short Listとは
M&Aを検討する場合、幾つかの始まり方があります。
①投資銀行などからの紹介・持ち込み
②お偉いさん同士(Top to Top)で合意
③まず戦略を立て、その上でM&Aが戦術として正しいと判断
恐らく他にもあると思いますが、私の周りで多いのがこの3パターンです。書き振りからも分かる通り、①は受動的、②はケースバイケース、③は能動的です。
この中でLong List・Short Listが主に使われるのは③ですが、①・②も補助として登場することがあります。ここでLong List・Short Listをわかりやすく言い換えると、
Long List :買収候補先一次予選突破者一覧
Short List:同二次予選突破者一覧
となるでしょうか。つまり、「まずいくつかの要件を満たした候補企業一覧」がLong Listで、そこから更に絞った会社一覧がShort Listになります。
多くのM&A案件がこのプロセスを経て候補先決定に至り、その後初期的交渉・Due Diligenceなどに入っていきます。このプロセスを経るメリットは以下の通りです。
(A)広く構えて、そこから削っていくことで「優良候補先」を見逃さない
(B)最終的に選択した候補を相対的に評価出来る(決め打ちだと絶対評価になる)
上記①・②のケースでも「補助として登場することがある」と言ったのは、決め打ちM&Aだとしても、「本当にこの企業がいいのか?」を相対的に評価する必要があるので、類似プロセスを踏むことがあります。
今回は③のケースを前提に進めます。
私の嫌いなLong List・Short Listの作り方
私の嫌いなLong List・Short Listの作り方は「コンサルにお任せクッキング」です。つまり、現地の市場コンサルやどこかの投資コンサルに依頼し、彼ら主体でLong Listを作り、彼ら主導でShort Listを作っていくやり方です。
「え、自分の会社の案件なのにそんなことあるの?」と思われる方がいるかもしれません。でもあるんです。そして結構。
なぜそんなことが起こるのか?答えは「今の事業フィールドから離れた場所でM&Aをやろうとするから」に他なりません。いわゆる「飛び地案件」ということですね。
コンサルの方々は大変要点を抑えた、大変綺麗な資料を作ってきてくださいます。そしてこちらが起用側なので、知りたいことは出来る限り調べてくれます。そうすると何が起きるか。
「わかった気になる」
んですね。これはM&Aに限らず、他の仕事でも往々にして起こることだと思います。優秀な部下・後輩が色々説明してくれると、自分は何もしていないのに分かった気になる。
分かってるんだから、決断を下せちゃう訳です。でも、自分も他の同僚も、その候補先たちに会ったことも無い。
皆さんは、自分のことをよく知らない他人から「スゴイおすすめの人がいるんだよ」と言われて異性を紹介され、「おお、君こそが僕の求めていた人だ!!!」となりますか?ならないですよね?それが何故かM&Aでは頻発しています。「そんなことは起きないことだ」という前提に立ってください。
注:決してコンサルの方々を中傷している訳では無いこと、申し添えておきます。起用側におけるコンサルとの付き合い方の話をしています。
なぜ「コンサルおまかせクッキング」がダメか
答えは簡単です。どこかのタイミングで必ず「こんな筈じゃなかった」が起きるからです。一緒に仕事も事業もやったことが無い相手のことを、外部情報だけで分かるわけがありません。理解度はせいぜい0.01%でしょう。そんな中でM&Aという超高難度なことをやれば、失敗確率が上がるのは当然です。
「だからDue Diligence(DD)というプロセスがあるんじゃないか!」という声が聞こえてきそうですが、DDをやって分かるのもせいぜいその会社の数%程度です。「DDをやれば会社のことが分かる」と思っている人は、M&Aの経験が足りないと言えるでしょう。
因みに、私がこれまで関わってきた案件は、必ず①当社自身かグループ会社が取引関係にあり、②Long List・Short Listを自前で作成してきました。
日頃から付き合いがあるので、社長・会社の性質、事業規模、強み・弱み、対象会社の競合環境、、、がよく分かっています。しかし、それでも会社の理解度は30−40%程度でしょう。DDやって40−50%くらい。そのくらい、「第三者の会社のことを知るのは難しい」のです。だから世の中の7割のM&Aは失敗していると言われているのです。
では、どうするか 〜飛び地M&Aを極力避けたい〜
M&Aというもの自体がハイリスクなものである中で、飛び地M&Aがどれだけリスキーなものか、というのは感じていただけたと思います。もし皆さんが飛び地M&Aを検討しそうになったら、是非こう問いかけてみてください。
なんで対象会社に自社は一切関与が無いんだ?
実はその会社を買収する前にやることがあるんじゃないか?
M&Aの一番の目的であり魅力は「時間を買える」ことです。その会社が何年・何十年掛けて培ってきたものを、お金を使って一瞬で手に入れることが出来ます。この魅力が大きすぎて、浮き足立ってしまうことが多いです。
しかし、何度でも言いますがM&Aは非常にリスクが高いのです。その前に、対象会社と一緒にビジネスをやってみる、対象会社の業界に入り込んでみる、そういった手順を踏めるなら、絶対に踏んだほうがいい。その方がDDなんかよりも遥かにその会社のことを知ることが出来ます。
当然、このステップは時間を消費します。「早くやれ!」という上長の声が聞こえてきそうです。でも落ち着いて考えてください。
それまで何年・何十年とアプローチしてこなかったフィールド・会社ですよね?何故そこでいきなり半年や1年を勿体無く思うのでしょうか。よく聞くのは「今しかないんです!!」。本当にそうでしょうか?この言葉を聞いて実行した案件は、私の知る限りでは大半失敗しています。
是非、「今の事業領域から一歩出た所まで」の中でM&Aを検討ください。これがM&A成功の一つ目の鍵と信じてやみません。
何故優秀PE・ファンドは飛び地M&Aを成功させられるのか
所謂 PE(Private Equity)やハンズオンの投資ファンドは、全く知らない業界の会社に入って行って、会社の状態を良くして、売却して利益を出します(時にはコストカットだけの時もありますが)。
それが出来るのだとすると、私がここまで述べてきたことが嘘のようです。ですが、そもそも事業会社が行うM&Aと彼らが行うM&Aには異なる点が多いので、そこを勘違いしてはいけません。そこを押さえて、今回を終えたいと思います。
①経験値が全く違う
・彼らは「それ」を生業にしている人たちです。ノウハウの量が違います。
抱えている人材プールも違います。
・彼らの方が「優秀」なのではなく、「それ以外のこともやってる人」が、
専門の人に勝てるわけがありません。
②長期目線(事業会社)VS短期目線(PE・ファンド)
・短期決戦の方が、ある程度の「テンプレ」を発動させやすいのは間違いあり
ません。私ですら、自分の「Quick Synergy白書」みたいなものが出来つつ
あります。
・一方、長期的な成長を実現させるための「足腰の鍛え方」はより各業界や会
社毎に変わってきます。なので、より対象会社のことを事前に分かっている
必要があります。
ただ、それでも優秀なPEやファンドから学ぶべきものは大量にあります。この①と②を言い訳にせず、もっともっと彼らから吸収していきたいと思います。
おわりに
今回は、M&Aの入り口における流儀をご紹介しました。
飛び地M&Aで成功している案件も、もちろんあります。その案件の成功要因は是非学びたい所です。ですが、自分だったら怖くて出来ません。何故なら、
M&Aはその会社の従業員・家族の人生を大きく変えてしまう(第一の流儀)
ことを良く分かってしまっているからです。飛び地M&Aを検討されている方の多くが、この点を良く分かってないからそんな怖いことが出来るんじゃないかな、と思って見ています。
次回からは「交渉」に入っていきます。乞うご期待。
細田 薫
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