M&Aの流儀③:交渉(ダメ、ゼッタイ、ブレーメンの音楽隊)

細田薫です。私に気付いていただき、ありがとうございます!

「私のM&Aの流儀シリーズ」第三弾。今回と次回は「交渉」をテーマに書いていきます。今回のフレーズは「ダメ、ゼッタイ、ブレーメンの音楽隊」と題し、交渉メンバーのあるべき姿について綴りたいと思います。

ドラマでよく見ますね、ズラッと並んだ光景

よくドラマや映画の交渉シーンで、机を挟んで何人も並んでる光景、見覚えがある方もおられるのではないでしょうか?(以下、自筆イメージ笑)

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これ、実際に日本企業の交渉シーンでよく見られる光景です。が、海外M&Aで一番よくあるのはこれ。

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つまり、「先方側は一人・二人なのに、此方側にやたら人数がいる」ケースです。私はこのゾロゾロと参加する様子を形容して「ブレーメンの音楽隊」と評しています。

私はこの絵面を見ただけで「あ、この案件は交渉負けするな」と分かります。では何故こうなってしまうのか、何故これだと交渉負けするのか、そしてじゃあどうしたら良いのか、について書いていきます。

何故こんなことが起こるのか

流石に上記のケースでも、全員が1/6ずつ話すということはないでしょう。メインスピーカーがいるはずです。その場合、主に4つのケースが考えられます。

①担当者を信用していないヤーツ
担当者がメインで交渉するも、上長の意見と異なることを言ったり、オーバーコミットメントしそうになったら上長が首を突っ込むケース
②上長出しゃばるも細かいこと分かってないヤーツ
上長がメインで交渉するも、細かいことが分かっていないので担当者が横からサポートするケース
③専門部署みんな列席するヤーツ
審査部隊や法務部隊などが列席し、専門的なアドバイスをする体制を整えているケース(変なことを営業がコミットしないか見張ってるケースも)
④あんまり関係ない人が列席するヤーツ
案件には関係ないけど、「その国・地域を見てる」といった理由で何故か同席する人がいるケース

①〜③は、一言で纏めると「一人・二人でやり切れると信じてない」からこういう体制になるわけです。上長か担当者が交渉し切れるんだったら、その人がやり切ればいい。何かしら他者が必要な理由があるから、参加者が増えるわけです。

④は最悪です。でも、大手企業あるあるのようです。

ブレーメンの音楽隊をやると、何故交渉負けするのか

いくつか理由があります。

①心理的風上に立たれてしまう
6人も7人も連れてきたら、相手はこう思います。「あ、自信ないんだ。大した奴らじゃないな」と。この時点で心理的風上に立ててしまうのですが、交渉においてこの「心理的風上・風下」はめちゃくちゃ大事です。

②「弱み」を陳列しているのと同じ
この状態で数十分交渉していれば、「誰が何の役割なのか」というのは当然バレてきます。そうなると、交渉中でも休憩中でも会食中でも「そのアイテムについて分かって無さそうな奴」に質問し、言質を取りに行くことが可能になります。

例えば、こんな感じです。

(休憩中)
先方:俺たちは立ち上げたJoint Venture(JV)から毎年80%以上の配当をしたいんだが、どうかな?
分かってないAさん:お、おお。まあ良いんじゃない?

(交渉中)
先方:A氏と話をしたら、80%配当性向で大丈夫ということなので、それで。
担当者:???いやいや新規事業なので配当性向は抑えて新規投資に回さなきゃ
先方:いや、でもA氏は良いって言ったぞ、なあ?

これは非常に簡略化したケースですが、こういった事態は実は少なくありません。私が知る中で一番多いのは、交渉期間中の昼食や夕食に「よく分かってない一番偉い人が適当なことを言って、不利な立場に置かれるケース」ですね。

③「交渉責任者」のOwnershipが無くなる

これが一番重篤です。私は直近の案件の交渉では、本当にほぼ全てを任せてもらったので、死ぬ気で準備し、何パターンもシナリオを事前に想定しました。当日も「俺の後ろには誰もいない」という背水感のお陰で、先方も先方弁護士も私より遥かに年上で、遥かに経験者でしたが立ち向かうことが出来ました。

一方、ブレーメンの音楽隊はどうでしょう。担当者が鍔迫り合いを演じても、横から余計な一言が入って邪魔されたり、上記のような盤外交渉でそれまでの努力が水泡に帰す可能性があります。そうなると、Ownershipを持ち続けることは難しいでしょう。

どんな仕事でも、「Ownershipの有無」が案件の命運を分けます。これを誰も持っておらず、「あいつがあそこで止めると思ってた」とか「あいつがあそこであんなことを言ったから」といった発言が出てきたらもう終わりです。先方の良い様に条件が設定され、交渉負けするだけです。

では、どうしたら良いのか

もちろん、最適解は「交渉参加者を全員が信じて、任せる」「交渉参加者はOwnershipを持ち、全力で準備し、全力で戦い、結果に責任を持つ」状態です。

これを実現出来ているケースは、日本の大企業では少ないでしょう。半沢直樹が横から無能な上司に邪魔されている所を、皆さんもよく見ていると思います。

ただ、私の好きな「逆命利君」という商社を描いた小説に、以下のやり取りがあります。

(以下、テレックスでの交信)
部下:「事態複雑一任乞う」
上司:「一任する」

こうあるべきだと思うのです。まずはこれを皆さんが目指していただきたい。

その上で、もし一人・二人の参加者にすることが出来ないのなら、「席配置」を工夫してみてください。例えばこんな感じ。

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もしくはこんな感じ。

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とにかく「こいつが交渉責任者だぞ」というのが分かるようにしてください。そして、都度「交渉責任者の発言が全て。他の人間は当社を代表しない」と伝えることで、上で紹介したようなケースを防ぐことが出来ます。

でもどうやっても格好悪い、、、是非「一任する」という組織がもっともっと増えて欲しいものです。

おわりに

まずはお目苦しい私の絵を幾つもお見せしてしまったこと、お詫び申し上げます。iPadで綺麗に字を書くのは難しいですね!笑

最後に一言、「参加者の数と交渉力は反比例する」。これはM&A以外でも同じだと思います。が、M&Aは多岐に渡る専門分野の人が関わるので、特に人が増えやすい。これをどう戒めるか、で交渉力が大きく変わります。

例えばもし、法務関係のことで分からないことが出てきたら、堂々と離席して電話すれば良いのです。その方がよっぽどいい。弁護士二人に対して私一人でネゴる時は、法務部同期に携帯を握りしめていてもらいました笑

もちろん担当者が各分野について80−90%はカバーできている必要はありますが、全てにおいて100%である必要はありません。それは先方も同じなので。

ということで、交渉の「体制」について書いてみましたが、如何でしたでしょうか。次回は「さようなら」をキーワードに、引き続き交渉について綴ります。

もし第一部・第二部をお読みで無い方は、是非こちらからどうぞ。

細田 薫

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