見出し画像

撤退の成否と能力

撤退が上手い人は能力が高く、組織であれば致命的なミスを犯しにくい経営をしています。

戦略に則り、勢いに乗って攻め込むのは、流れができれば意外と容易にできることです。半分はタイミングと運に左右されるので、リーダーの能力はあまり問われません。

一度決めたからと勢いに乗って、形成不利だとわかった後も猛虎突進する人は、大概大きな落とし穴、罠にハマって痛い思いをします。そういう人や組織は数多く見てきましたが、見事なまでにスムーズに撤退をすることができる人や組織は非常に少ないようです。

今日、五輪のトップスポンサーでもあるトヨタ自動車が、五輪関連のCMは放送をしない、更には開会式にも出席しないという意思決定をしたことを発表するニュースが流れていました。類稀に見る素晴らしい撤退例になるのではないでしょうか。

トヨタ、国内で五輪関連CM放送せず…「色々なことが理解されない五輪に」
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20210719-OYT1T50098/

トヨタの対応は、組織におけるリスクマネジメントの観点から英断と言えることでしょう。これまで巨額の金を注ぎ込んで備えててきたわけです。開催が一年延長され、企業としては一年分の費用も追加で負担しているにも関わらず、直前のこのタイミングでの意思決定です。

撤退することは非常に難しいものです。一度決めたことをやめる、見直す、取り組んでいた事業から撤退する、誰もがやりたくないことですが、世の中、半数以上もといほぼすべて当初の想定通りにはいかないものです。その中で撤退することが最善の策であることが理解できるリーダーか否かはその組織において重要な意味をなします。

昔から撤退が一番難しいと言われています。撤退が必要な時な自分達が劣勢にある時です。相手が勢いよく攻め込んできている状態で撤退するのですから、撤退時の殿(しんがり)を努めるのは非常に高い能力を求められると同時に、殿として指名されるということは名誉とされます。一番有能な人が選ばれるからです。

撤退の成否は、当然撤退に追い込まれた状況にも左右されますが、判断のタイミングと意思決定の内容、その徹底とスピード感で決まります。当然のことながら高度な状況判断も必要ですから、必然的に能力が求められるわけです。

今は命を落とすことはありませんが、戦であれば命を失うリスクもありますし、撤退に失敗したら部隊が全滅することもあり得るわけです。殿を努めるには、単なる精神論や根性論の覚悟だけではなく、その状況に見合った能力が求められます。

果たして、今の日本でそのような役割を担える人が何人いるでしょうか。政治の世界をみたら皆無です。組織においては、そういう役割を担える人がいる組織がどの程度あるでしょうか。かつて一流企業と言われていた組織ですら、残念ながらそういう人は残っていないようです。

しかし、そういう人がいなくなったわけではありません。本来いるべき場所にいないだけです。その人の本質を見極めて配置できる組織が少なくなったからです。一流企業と言われる会社ほどその率は高くなっているようにも感じます。

今の日本では負け戦に慣れてきてしまっている感じもありますが、一度、引くべきところからは引き、形成を立て直すことが必要なタイミングに来ているのではないでしょうか。

そのためには、不都合な真実からも目を背けることなく、真正面から向き合っていくことが必要なのではないでしょうか。

著者:原田光久(ひかりば 代表 / コミュニケーション・プランナー) ●社会問題解決アドバイザー、新規事業開発・地域創生・経営支援 ●行政・教育機関・民間企業で研修・講演・IT推進をサポート ●連絡先:harada@hikariba.com