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現代川柳

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たてがみを失ってからまた逢おう  小池正博(『セレクション柳人6』)
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#詩

生まれなさい

生まれなさい

生まれなさい外に気球が待ってます  きゅういち(『ほぼむほん』)

きっと現代川柳は生まれる前のことをよく覚えている。それから、どうやって、じゃあ生まれよう、と決めたかを。

あの日わたしは生まれようかどうしようかぐずぐずしていて、服も決まらなかった。寝癖はまあついているといってもよかった。生まれる前の寝癖だったけれど。そのとき、男のひとが来て、私は少し緊張したが、生まれなさい外に気球が待ってます

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けど王子だろ

けど王子だろ

だけど君はアトランティスの王子だろ  小池正博(『セレクション柳人6』)

きみがぐちぐちいうのはわかる。もう帰りたかったのも。手が震えていたのも。

だけど僕は君に言う。
だけど君はアトランティスの王子だろ。 

現代川柳は、ずっと最後にそう言い続けているような気もする。いろんなことはわかる。そうなことも、そうでないことも。かなしいのもよくわかった。許せないのも。だけど君はアトランティスの王子だ

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クレヨンと棺

クレヨンと棺

三十六色のクレヨンで画く棺の中  樋口由紀子(『セレクション柳人13』)

現代川柳の中で死はカラフルで賑やかだ。それが終わりだとは感じられないからかもしれない。
現代川柳は生まれる前にも死んだ後にも想像をめぐらせる。生まれて始まるわけでも、死んで終わるわけでもない。ああやっと生まれるのか、これで何度目の死だろう、そんな風な、生まれることのふつう、死ぬことのふつう、がある。

俳句が目をゼロにして

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