山田先生

ばしん!
桜の木が、その年の役目を終えた頃、1年3組の教室に鈍い音が響いた。
頬にはひりひりとした痛み。

大好きな、担任の山田先生が真っ直ぐな眼で私を睨む。
「〇〇!あんたはもっと、人の気持ちというものを考えなさい!」

教師から、下の名前で呼ばれたのは、これが最初で最後。
彼女の、本気の教えに目が覚めるような思いだった。
これを機に私は変わった。

山田先生
私は変わったよ。
あれから3年後、私はいじめにあっていた友達を、身体を張って守ったよ。
その1年後、自身の役割を全うした私は高校を去り、今度はお客様や仲間の為に一生懸命働いたよ。
就職をしてからは、部下の為に上司と何度も戦ったよ。
勤務時間外でも、休みの日でも、理不尽な事から部下やアルバイト達を必死に守ってきたよ。

あとね、異性とのお付き合いでは、自分の気持ちは二の次に、相手の気持ちを常に優先してきたよ。

先生、私は先生から教わったとおりに、必死に頑張ってきたよ。
今の私を見たら褒めてくれますか?

先生、私はいま、うつ病という精神疾患を抱えて、お仕事をお休みしています。
先生、私はいま、ひとりぼっちで暮らしています。楽しい事はなにもありません。
先生、私はいま、毎日毎日、明日が来なければ良いのにと考えながら生きています。
先生、私はいま、毎日毎日、泣き喚きながら生きています。
先生、私は本当に一生懸命頑張ってきました。
褒めてくれますか?

ねえ、先生。
今お会いしたら「〇〇あんたは変わったね。良く頑張ってきたね。」と、また下の名前で私を呼んで、褒めてくれますか?

ねえ、先生
山田先生
ねえ、褒めてよ、山田先生
褒めてよ、山田先生...

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