聖国原健一

好きな作家は、トルストイです。よろしくお願いします!

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「ピンサロ婚活」

「これ、形は悪いんだけどすごく甘いから。奥さんにでも渡して。」 「いやぁ うちら所帯持ってないんで。」 仕事で伺ったお宅の奥さんから畑で採れた野菜をいただいた時、先輩の佐々木さんがそう言った。 「うちらか…」   私は佐々木さんはダサい人間だと思っている。角刈りでメガネ。弱い者には強くて、人によって態度を変える。おまけにケチで服の趣味も悪くて、乳輪がでかくて胸毛も生えてて敏感肌だ。 「佐々木さんと同じグループか…」 佐々木さん、47歳 独身。 私、41歳 独身。 自分

    • Up North Trip

      今、振り返ってみると、「まんまと20万円ぶん取られた。」と言える気もする。 ミドリはこれまでも何人かはわからないが、言い寄ってきた店の客と店外デートをしてこづかいをもらったり、金を吸い上げる人生を送ってきたのだと思う。 しかし、今までがそうだっただけで、人間は意識ひとつでいつでも変われる動物だ。 仮に私が「おっ こいつは!」 とミドリが感じるような男だったなら。 ミドリの心の真ん中にいける存在になれたなら、ふつうに会いたいとなったのではないかと私は考える。 今まで生きてきた

      • Knowledge be born

        次の日、体調はよくなったかとメールを送ると、ミドリから「寝たらよくなった。今まで、ありがとう。」と返信がきた。 あせった私は「考え直せ!一番相性がいいのは多分俺で、ミドリの人生には俺みたいな人間が必要だ!!」と決死の説得を試みたがミドリからの返信は、「いらない。結婚もしたくない。私は誰のものにもならない。」と言うつれないものだった。 私はこれはあかんと方針を転換し、「わかった。じゃあ 何かおもしろい話をするから、ひまな時には連絡を!」とタイミングを外したループシュートを打っ

        • Life goes on

          駅に入ったところで、ミドリが言った。「そういえば、私バレンタインのお返しもらってない。」 すっかり忘れていたが、新宿で会ったときにチョコレートをもらっていたんだった。「ごめん!すっかり頭になかった…。地下でなんか食べたいの選ぶ?」 「いい いらないよ。」 ミドリが笑った。 「俺、山手線で帰るんだけど、ミドリちゃん何線なの?」「送ってくよ。私も山手線だし。」「なんだ。じゃあ 一緒に帰ろうよ。」「一緒には乗らない。」 ミドリがそう言う。 ホームに上がると、すぐに電車がやってきた

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        「ピンサロ婚活」

          純粋な愛

          「ごめん。 俺は10万、20万って、バンバン渡せる身分じゃないんだ。」 ミドリの顔色が曇った。 「次、入院したら、死んじゃうよ!」「でも、もう俺も貸せないから。お父さんお母さんに連絡してみたら?」「しないよ!実家に帰ったら、男たちが来るし。」 ミドリがそう言った。男たち? ミドリは私以外にもいろんな男から金を… その後、生活保護をもらえるか聞いてみたらとかいろいろ提案してみたが、ミドリの顔色が悪くなるばかりで最低な感じだった。「この間の20万はもうないの?」「全部、支払いに

          春の上野

          今回は上野で会うことにした。早めに行ってタバコが吸える喫茶店の場所を確認してから、待ち合わせ場所に向かう。 「おっす!」 ミドリが元気にやってきた。「おお タバコが吸える喫茶店、調べてきたよ。」 「行こう行こう。」  信号待ちの時に私は言った。「入院してたから、まだ働けてないんだ?」「うん。パン屋で働こうかなぁ 私、中学出てから最初に働いたのパン屋なんだよ。」 今日もミドリはかわいかった。嘘つきではあるが、かわいいことに、変わりはない。 「働き出したら、店に遊びに行っても

          Trusty servant

          「また 入院してます。」 二週間後、ミドリから連絡がきた。 あやしむ気持ち、「また 金を貸してくれと言ってくるんだろうな…」と言うめんどくさい気持ち、「意外と本当だったりして!」と言う気持ちがトリオになって、私の頭の中でコントを始めた。ビルの1、3、5階は病院、2、4、6階はホストクラブみたいな設定のコントで、オチは病院に来たミドリがエレベーターの下りる階を間違えてホストクラブに入り、せっかくだからとドンペリを飲んだら一発で治るというお気楽なものだったが…。 真実はどこに。

          Things Change

          一週間ほど経った頃、原宿にくら寿司ができたとヤフーのニュースに出ていたのを見た。新宿で会った時、ミドリはビニールの傘にくら寿司でもらったキーホルダーを付けていたのを思い出し、原宿のくら寿司に行ってみないかと誘ってみる。 翌日、返信がきた。「おはよう。昨日は忙しかった。今日もこれから病院。」 また体調が悪いのかと聞くと、ガンの検査だと言う。 タバコの吸い過ぎで肺ガンかと聞いたら、舌のガンだと言う返信。 心配になったので励まそうと、夜に電話をかけたが出なかった…。 次の日にな

          No matter Never mind

          「駅まで手つなごうよ。」店を出て私がそう言うと、「嫌だよ。嫌いなんだよ。」と、ミドリは言った。手つなぐの嫌い、映画館も嫌い、LINEも嫌い。私が好きなこと、嫌いなのが多いな…。 そう思いながらミドリを見ると、「あの 林田のことが嫌いなんじゃなくて、手つなぐのがさ。」 一応フォローをしてくれた。 ベラベラ話しながら、駅に着く。「父親にはしょっちゅう貸してたけど、俺、人に金貸したの初めてだよ。」「ありがとう。林田と私、結婚して家族になるかもしれないしね。」 最後は、あのエロ楽し

          No matter Never mind

          夜の渋谷

          「渋谷なんか来ないから、ちょっと散歩してたよ。」 待ち合わせ場所のハチ公前に帽子を被ったミドリがやってきた。この前より顔色が良くなっている。「その帽子、かわいいね。」私がそう言うと、うれしそうな顔をしていて、かわいかった。 調べてきていたタバコが吸える居酒屋で、20万が入った封筒を渡す。「大事に使いなさい。」 ミドリは半笑いだった。それから、私は仕事帰りで夕飯もまだだったので、バクバク食べてベラベラ話し、ミドリは梅酒を飲んで、おいしそうにタバコをくゆらせながら、だし巻き卵を

          Fuck the Money

          私の中に、ミドリからの金の無心を断る選択肢はなかった。店で「困ったときとか連絡してきて。」と、かっこつけて名刺を渡したのは自分だし、「これでふたりの距離が一気に縮まったりして!」というおめでたい気持ちもあったからだ。そして、ミドリが言った「いつ返せるかわからないよ。」の言葉が正直でいいなと感じてもいた。 著名な借金戦士であったうちの父親はいつも、「10万貸してくれ、月末に11万にして返すから。」と「あなたは逆に得ですよ。」とでも言いたげなスタイルで金を借りにきて、そのまま月

          カルマの結果

          「まあ 返さないだろうな…。」 私は幼い頃から、学校中の全員としゃべるけどひとりも友達じゃない というタイプなので、そんな私に金を借りにくる人間など誰もいなかった。 もちろん借りたことも一度もない。ぼちぼち計算して生きているからだ。 しかし、私は人に金を貸すのは初めてではない。 というか、けっこう慣れている。 何度も何度も借りに来る人がすぐ側にいたからだ。 父親だ。 私の父親の口ぐせは、「今度、一千万円入る。」 夢のようなことを言い、一攫千金を狙って、そして蒸発した。私は

          カルマの結果

          Keep On Trucking

          「なんだ、それで連絡くれたんだ!」 思わず口に出しそうになったが、「いくら貸してほしいの?」 私はそう言った。「家賃も二か月待ってもらってて、それと入院費で… 20万ぐらい。」 私はミドリと握手を交わした。 「ありがとう。いつ返せるかわからないよ。」「うん。いつあったらいいの?」「できたら早い方が助かるんだけど…。」 仕事の後、電車を乗り換えて新宿まで来るのはダルい。 そう思い、「銀行に振り込もうか?」と言うと、ミドリは明らかに嫌な顔をした。「証拠が残るし、本名知られたくな

          おしゃれな映画

          「あとで映画観に行かない?今、おしゃれな映画がやってるんだよ。新宿でもすぐそこでやってる。」「私、映画館気持ち悪くなっちゃうんだよ。人がたくさんいるところダメなんだ。」 ミドリに会うこと、欲しかった服を買うことに続いて、今日三番目に楽しみにしていた映画鑑賞を断られた。でもよく考えたら、そんなことはどうでもよかった。目の前には大好きなミドリがいる。まあまあ楽しそうにもしている。それだけで十分じゃないかと私は思った。人生はいいことばかりが続くことも、悪いことばかりが続くこともな

          おしゃれな映画

          ミドリとおしゃべり

          「ここ最強の席じゃん!!」 喫茶店で案内された席は角でトイレからも近かった。機嫌がよくなり、おいしそうにタバコをくゆらすミドリとベラベラ話をする。 相性が悪いボーイともめて「もうイヤだ!」と店を辞めたミドリ。店長が優しくて系列店に移籍させてくれたらしいが、結局一日も出勤しなかったらしい。その後、体調を崩ししばらく通院していたが、医者から孤独死を心配されて一ヶ月入院していたと言っていた。「一ヶ月入院したらお金ってどれぐらいかかるの?」全然知らなかったので興味本位で聞いてみた。

          ミドリとおしゃべり

          雨の新宿

          待ち合わせは新宿駅の南口。あいにく雨が降っていた。 早めに行って欲しかった服を買い、その後、調べておいたタバコが吸える喫茶店の場所を確認してから、集合場所へと向かった。 いた。 ベージュのコートを着て不機嫌そうな表情をした顔色の悪い女性が立っていた。 ピンサロのエロ暗い照明の下でしか見たことがなかったミドリ。外で会うと、かなり幼く見えた。 「入院してたんだ?」「うん…。」 全然、元気がない。何か身構えているような印象も受ける。行こうと思っていたカレー屋が混んでいたので、韓